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第4話:ディストピア・オメラス②


――作業終了時刻。


雑魚モンスターたちはピタッと行進を止め……回れ右して 山道を帰っていく。


…………………まず、初日を乗り切った。


いや、何回もサラにフォローしてもらった……。


いや、むしろサラが作業してる時間のが長かった気すらするが……。




「今日は、珍しく定時終わり!」


サラは、嬉しそうにはしゃいでいる。


可愛い。


目にクマができてるけど。髪ボッサボサだけど。


「じゃ、私は報告書の作成があるから!また明日!!」


サラは、忙しそうに すっ飛んでいく。


勇者たちは、一斉に慌ただしく帰宅していく。


俺も、明日の出勤に備えてはよ帰って寝なきゃ。




ロードは、休憩所の近くの駐輪場に行き、ママチャリにまたがる。


勤務場所であるこの草原から、自転車で10分ほどの場所にある居住区を目指す。




――到着。


ここは、ナーロッパ市の郊外だ。


この異世界で働く勇者たちに あてがわれている寮に到着。


一見、集合住宅の様な外見に見える。


俺の部屋は……縁起でもねえ404号室。


4階まで、階段を上る。エレベーターなどという貴族の乗り物は、ない。


ドアを開けて6畳の せまい部屋に入ると……小さなちゃぶ台が ちょこんと置かれているのみ。


トイレも風呂も冷蔵庫も、水道すらも……ない!


何故なら……【すべて共用】だからだ。


トイレは、部屋から出て廊下の突き当たり。

水道は、トイレの洗面所にある。

冷蔵庫は、1階のロビーにある。

風呂は、1階に大浴場がある。


洗濯物は、1階のコインランドリー。

食事は、2階にある食堂。


……ははは……。




――勇者の待遇。


生活に最低限必要な給与と、宿泊場所が与えられる。


給与は、総支給額から社会保険料など様々な名目で天引きされ、手取りは最低賃金に近い。


宿泊場所として、寮が提供される。寮費は、しっかりと給与から天引き。


以前は、1つの部屋に複数人を入れて相部屋にしていたようだが、苦言を呈して即辞める勇者が多かったらしい。


なので、1人部屋になったそうだ。


(しかし、むしろ相部屋であることをアピールする異世界求人もある。食事も一緒だとか。

孤独感に極度に苛まれやすく、一人でいる恐怖から逃れたいヤツが集まるんだろな。

俺なら1日で発狂するわ)




ちなみに、雑魚モンスター討伐の為のすべての武器は、雇用主から貸し出される。


自前のモノがあっても、一切使ってはならない。




――ああ、疲れた。


仕事で十分すぎるほど疲れたのに、トイレや食堂や大浴場で出くわす 他の勇者たちに気を遣うから、リラックスできんわ。


もう、こんな時間か。


とっとと寝よう――




――入社2日目。朝。


もう朝かよ……

眠い。

出勤したくない。

あったかい布団から出たくない……。




――出勤。


眠い。退勤したい。


朝礼が行われる。


部隊長が何か言っているが、知らない単語が多くて何を言っているかわからない。




ラジオ体操で、半分眠っている身体を起こす。


その後、昨日と同じ場所でモンスター討伐を始める。


作業台から武器を取り出し、行進してくる雑魚モンスター達に、流れ作業的に攻撃を重ねる。




指導役のサラは、昨日と同じ事を言っている。


「仕事がきついほど、休日が楽しくなる!」


「キツいのも楽しいのも、いずれ慣れる。結局同じ!人間の欲望には限りがない!」


まるで、サラが自分自身に言い聞かせている様な……違和感を感じた。




――昼休みになった。


ロードは食堂で昼食を食べながら、1つ前の職場を思い出していた。


南国リゾートっぽい異世界で、勇者としてバイトしていた3ヵ月間を。


その職場は……とんでもない仕事量で、とても辛かった。


だが、その仕事の激務もさることながら……一番ダメージを負ったのは、そこの人間関係だった。


リゾートバイトってのは……特に南国リゾートでのバイトってのは……独特の解放感がある。


青い海。

青い空。

鬱蒼うっそうとした大自然。

爽やかな風。

照りつける太陽――――


――このような環境だと、解放されやすいのだ。


……そこにいる勇者たちの人間性が。




南国リゾートっぽい異世界では、距離感がバグっているおっさん勇者たちが、不愉快極まりなかった。


会話が続かないから、子供の様に テンションを無理やり上げて、気まずさを誤魔化す おっさん勇者たち。


俺は、社会人として適切な距離感を保とうと思って敬語で失礼の無いように接した。


だが、ベタベタ距離を詰めてきて、どんどん上から目線になっていくアホが、異様に多い。




”若々しい” と ”幼稚” を 履き違えたおっさん程、不愉快なモノはない。


子供は幼稚で無邪気だ。


だが、リゾバで出会った おっさん勇者たちは……幼稚であり 長年濃縮された邪気がメガ盛だった。




……俺は、南国リゾート異世界で働いた経験は少ない。


母数が少ないゆえの偏見なのかもしれない……のを承知で言う。


南国リゾート異世界のバイトってのは……他の職場で相手にされず、孤独感から逃れたい人間が行きつく場所の1つなのではないか?


元々の人間性に問題がある勇者が、南国リゾート異世界に辿り着き、そこでの解放感によりアホな人間性を遺憾なく発揮してしまうのでは?


……と邪推せざるを得ない。




薄給激務な職場は、他の職場でもやっていける勇者から次々辞めていく。


他の職場でやっていけない逆エリート勇者だけが残る。


どんどん新人勇者が入社して、が逆エリートのみが生き残る。


まるで蠱毒。


そんな地獄の様な職場では、人間性に大いに問題がある勇者でも、問題視されない。


周りもそういう人間が多いからだ。


もし、咎めて辞められたら、経営者も同僚も、自分の首を絞めることになるからだ。


だから、人間性に大いに問題がある勇者にとっては、南国リゾート異世界の人間関係は相対的に良好だろう。ハブられないんだから。


水が低いところに流れていく様に、薄給激務なリゾバに辿り着き、留まっているんだろうな。


……と思ってしまう。


表面上は、やたらフレンドリー(つーか距離感がバグってる)だが、常にマウンティング合戦を繰り返している様に見えた。


俺は、独りでいたが、構わず距離を詰めて来られて、本当に煩わしかった。




――煩わしい反面、彼らの思考回路に少しばかり興味を持った。


なので一度、彼らの心境になってみようとしたことがある。


彼らの行動から、彼らの思考回路をイメージしてそれをインストールしようとした……。


しかぁし!


10%くらいの時点で本能が拒絶反応を示した。


ものすごく危険。

波動が下がりすぎる。

止めておいた。


そして、この異世界では、その攻撃性がわかりやすく表面化されやすい人間関係のようだ。


南国リゾート異世界の、表面上はフレンドリーな人間関係を、テンションを下げて少しガラを悪くした感じ。




――入社7日目。


出勤して、今日の作業指示書に目を通す。


いつもと同じだ。


”夜勤シフト” という事以外は。




ロードは、夜空を見上げた。


ゴールドに輝く月。

シルバーに輝く月。


美しく輝く2つの月が、妙に憎らしく感じる。




――作業開始時刻。


……!!


マジか……一発目からついてねえ。


めったに来ないモンスターが歩いてくる!


――芋虫の様なフォルム。黄色い体表。


頭から お花を生やし、ミッ〇ーマウスの様な営業スマイル。


相対する者の警戒心をゆるやかに解く風貌。


いかにも ”平和主義者です” といわんばかりだ。




……ヤバい!早く取り掛からねば!


ロードは、作業台からめったに使わない武器を取り出した。


――銀色に輝く、薄く長い刃。


その特性を活かし、刃自体が鞭の様にしなり、蛇の様に変幻自在の軌道を可能とする。


……とある異世界が発祥の武術・カラリパヤット――の武器・”ウルミ”


この武器は 扱いが難しい上に、たまにしか使わないから、なかなか慣れる機会がない。


ロードは、右手でウルミの柄を握り――振った。


-バシッ-


1発目の攻撃が、モンスターに入った。


――――――――!?


攻撃が命中した直後、モンスターの身体は一瞬にして赤く染まった。


いかにも平和主義者ですといわんばかりの表情は……豹変していた。




モンスターは、目を吊り上げ、青筋を立て、牙を剥いている。


「ひ、ひいいいいい!」


モンスターの怒気に溢れた表情を見て、恐怖を感じるロード。


モンスターは、こちらに向かって突進してくる!


ヤバい、間に合わない!!


急いで、作業台に備え付けてあるボタンを押した。


”援軍要請アラーム” だ。


約15秒後、部隊長が 猛ダッシュで、どたどた足音を立てながら駆け付けてくる。


モンスターに負けないくらい、恐ろしい形相をしている。


「その武器、貸して!」


ロードは、急いでウルミを手渡す。


部隊長は、右手でウルミの柄を握り――右腕を振った。


銀色に輝く刀身が美しい波を描きながら、モンスターへと飛んでいく。


見事モンスターに命中した蛇の様な刃が、ざしゅっ、と音を立てた。


2発目。

3発目。

4発目――倒した。すげえ。


ロードは、次のモンスターの迎撃態勢に移行しながら、その光景を眺めていた。


部隊長は、ウルミを作業台にしまい、大きくため息をついている。


「ここは、凄く楽なポジション……。あと よろしくね。」


物ッッッ凄い迷惑そうな表情を浮かべながら去っていく部隊長。




いや、アンタ……


入社1週間しか経ってない新入り勇者に、部隊長クラスが4発(いや、その前に俺がささやかながら1発入れてるが)の攻撃を必要とする様な強敵を、1人で迅速に倒せと!?


それは、無理ってもんだろう。


俺は、モヤモヤした心境のまま、モンスター討伐を続ける。




――1時間が経過した頃だった。


違和感。


雑魚モンスター達の行進速度が――速くなっている!?


10体目を倒そうと、複数回の剣撃を浴びせていると、11体目が目前に迫っている。


さっきのたまにしか現れないモンスターは難易度が高いからさておき……


それ以外のモンスターは、先週の金曜日には、ギリギリ1人で倒せるようになっていた筈だ。


給料をもらっている以上、早く独り立ちせねば。割り当てられた仕事は1日でも早くできるようにならねば……と思っているからだ。


勇者の仕事はクソつまらんし嫌いだが、雇われて給料をもらう以上、それなりの意識は持っているつもりだ。


だから、必死で頑張って速くなった、独り立ちに近づいたつもりだった。


なのに――先週より、速くなってないか?




ロードは、必死でモンスターを討伐し続けた。


美しい2つの月に照らされながら行進してくる雑魚モンスター達に、言い知れない恐怖を感じながら。

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