最終話:DIE WITH ZERO②
――神は、普段は側近に テキストメッセージで命令を送っているんだが……
週に1回以上行われる役員総出の会議では、アバターでこの世界に降臨しているらしい。
そして、元側近……神に愛想つかして辞めた際に内情暴露した元側近の話によると……
神が、明らかに二日酔いでろれつが回ってない事が、複数回あったらしい。
さらに、会議中に神の身体から ”異音” が聞こえることもある。
母親らしき人物からの叱責が聞こえたり、
エロ動画の喘ぎ声っぽいのが聞こえたりして、
……神が急に静止、微動だにせず数分経過することもあったらしい。
また、神が姿を消した後も、天から神のキモイ独り言が聞こえてくることもあるらしい。
「”納期、間に合わねえよ” だの ”単価低すぎんよ” とかな」
「まるで、搾取される側の弱い立場の……人間の、愚痴ですね」
「俺も、数多くのブラックな異世界を渡り歩いてたら、そういう噂を色んな人から度々聞いた。
こういう不可解な現象は、多数の異世界で報告されている」
多数の異世界の神がポロリした情報は共有されていき「この世は実体のない仮想世界では?」という都市伝説の根拠となった。
そして神たちは、星の数ほどある異世界を ”メタバース” と呼称しているらしい。
そして、近年 爆発的に普及した生成AIも、実は神々がいる高次元の世界で生まれて間もないテクノロジーではないか?……といわれている。
「俺らもAIかもな。
武器が、”特定タスク特化型の生成AI” なんだから、
俺ら人間が ”汎用型の自律思考AI” である可能性も否定できない」
「僕らが……すべての異世界で生きる人間達が……AI!?」
「だから、この異世界と生物は、数年前に創られたのかもな。
神々がいる世界で生成AIが誕生した後、神々が星の数ほどの異世界、つまりメタバースとやらを創造したのかもしれん
そして生物は、過去の記憶を持った状態で生まれた……」
「”世界数年前仮説” は、都市伝説として聞いたことはありますが……
極々 個人的な意見を言わせてもらいますと……さすがにそれは無いと思います。
現実味がまったく感じられないですね……」
――都市伝説ってのは、面白い。
”きさらき駅” の様に……身近なところに接点がありそうな都市伝説は、特に。
多数の人間からの真偽不明の情報により、全体像が構築されていく参加型の都市伝説は、進化し続けるので、根強い人気があるのだ。
あくまで、フィクションとして楽しむべきだ……と、個人的に思うが。
「……世界一の実業家も、この世界は仮想世界である説を支持している。
ま、”信じるか信じないかは、あなた次第” ってとこだ」
元先輩勇者は、話に一区切りをつける様に ゆっくりとした動作で、コーヒーに口をつける。
「……まあ、異世界の構造は思考実験として楽しむに留めて、俺らは自分の生存戦略を考えるべきだ」
「今現在は、腕の良いプロンプトエンジニアが需要が高いんですよね。
でも、それすらAIに代替されることが予想されるなら……
何のスキルを学んでも、結局いつかは 同じ様にAIに代替されてしまうのでは……?」
「その通りだ。
だから俺は、常にAIに代替されないスキルを模索し続けて、学び続ける。
常にAIに代替されない市場価値の高い人材になるために、そうあり続けるために。
それまでの人生で、本気で頭を使ったことなんかロクになかったから、正直 すごいエネルギーを消費する。
限界を超えて勉強しちまって、エネルギーが枯渇、平衡感覚やらがイカれて、ブッ倒れたこともある。
だが、将来的に得るものは大きい。限界を超える価値は……ある」
ロードは、クロスの顔を真っすぐに見据えている。
クロスは、続ける。
「限界を超えたら、必ず反動が来る。
限界を超えて、何を得る?
限界を超えないと、何を失う?
”限界を超える価値が、本当にあるのか?”
それを、自分自身に問いかけて、冷静に見極めるべきだ」
”――説教くさくなっちまった。おれも立派なオッサンだな”
クロスは、伝票を片手に立ち上がる。
「ま、お互い頑張ろうぜ」
会計へと向かうクロスの後ろ姿と入れ替わる様に、美味そうなステーキ定食が運ばれてくる。
それを見た途端、ロードは腹が減ってきた。
――火曜日。
勤務開始時刻の30分前。
ロードは、職場へと到着した。
まだ他の勇者たちは、ほとんど出勤していない。
正規雇用の勇者たちの待機所であるテントへと、足を運ぶロード。
待機所の中を覗き込むと、十数名ほどの正規雇用の勇者たちがいる。
そのほとんどが、ロードが見たことがない顔ぶれだ。
待機所の端の方で……サラは、忙しそうにPCのディスプレイと睨めっこしながら、キーボードを叩いている。
「……サラさん、おはようございます。土曜・月曜と欠勤してすみませんでした」
「……………………んあ!?」
相変わらず目にクマを作り、ボサボサの茶髪。
「……ああっ、ロード君!おはよう!心配したんだよっ!!」
どんなに絶望的な状況であろうと、サラは……微笑みを絶やさない。
……この人を、救いたい。
この職場にいたら、この人の人生は壊されてしまう。
「お話、よろしいでしょうか?」
――どこまでも続く草原に、ロードとサラは立っている。
吹きぬける爽やかな風が、2人の身体を撫でる。
澄んだ青空の下……ロードは口を開いた。
「俺、退職しようと思います。
……30日後に」
「え…………?」
サラは、呆然とした顔で……ロードを見据える。
「なんで……急に言われても……」
「俺は、市場価値の高い人材になりたい。
だけど、この職場では、エネルギーをとことん搾取されてしまう。
プライベートの時間に、スキルを身に着ける気力もなくなるほどに」
「なんで……今まで一緒に頑張ってきたじゃない!
途中で辞めたら……逃げたら……一生 逃げ続ける人生になるよ?」
「この職場は、この異世界は……あくまで生活の為のお金を得るための手段です。
自分の人生を守るには、給与以上の働きをしてエネルギーを過剰に消耗すべきではない。
そして、待遇が改善されないなら……堂々と逃げるべき、転職すべきです」
「私……ロード君のこと……」
その言葉を聞いて……ロードは、決意する。
「……サラさん、俺は……激動のこの時代に、スキルを学び続ける。
何が正解なのかは、結果が出るまでわからないけど、
それでも闇の中を手探りで、前に進み続ける」
「……………………」
「だから、サラさん。この職場を辞めませんか?」
”……言え。「俺と一緒に、この地獄を脱出しよう」と、言え!”
脳内での激しい葛藤の末、最後の一言を喉から絞り出そうとするロード。
――――絶望の世界で、あなたに出会えた。
真っ暗な俺の人生に、光が灯った。
あなたがいるから、俺は限界を超えることが出来た。
そして、これからも――――
突如、サラの顔に……恐ろしく冷たい表情が、浮かぶ。
”使えねーな、コイツ” と言わんばかりの、故障したスマホを見るような表情。
「え……………?」
ロードは、目を丸くした。
「はあああああ、わかった。
あと30日間、しっかり働いてね」
頭を掻きながら、眉間にシワを寄せながら、そっぽを向きながら……
サラは、正規雇用の勇者たちの待機所へと戻っていく。
戻っていくとき、舌打ちが聞こえた気がしたのは、気のせいだろうか?
……ま、そりゃそうだ。
今までの俺じゃあ、便利な労働力として、ストレスの捌け口として好きになってくれる人は多数いても……人間性を好きになってくれる人は、ほとんど いないだろう。
また、新人勇者という労働力が入ってきて、サラは その労働力たちに優しくするんだろう
そして、サラさんは この職場で、一生 便利な労働力として搾取され続けるんだろう。
最終出勤日まで、気まずいなぁ――
――どこまでも続く草原。
吹きぬける爽やかな風が、俺の身体を撫でる。
青空を見上げれば、4つの星が浮かんでいる。
白い太陽。
赤い惑星。
青い惑星。
黄色い惑星。
美しい光景だ。
壮大なロマンを感じる。
絶景だ。
心が照らされていく様な感覚を覚える。
世界は、多数の異世界は――無限に広がっている。
世界の真理など、俺にはわからない。
わかったところでどうしようもない。
だけど――
――強くなろう。
職場の為、神の為ではなく――自分の為に生きられるくらいに。
ロードの顔に、吹っ切れたような表情が浮かぶ。
何もしなくても、時間は過ぎていく。
命という資源は、減り続ける。
――――ならせめて、精一杯もがいてみようか。




