後日談1 ミーロとアステルの会話
トゥリフェローティタがさんざん悪さをするので、ミーロは警戒を強めている。とそこに、アステルがやってきて後ろからミーロの肩をぽん、と叩いた。
「ミーロ」
「ひっ なーんだ、父様か……てっきりアイツに巻かれて背後に回られたのかと」
アステルはペンギンのヒナのシンシアを抱えながら、ぱちくりと瞬きをする。
「アイツって誰? トゥリのこと?」
「そうです」
ミーロはカリカリと城の通路を監視しながら答える。アステルはさらに瞬きをする。
「ミーロはさ、トゥリのことが好きなの?」
「はい?」
思いもよらないことを聞かれて、ミーロは父親を振り返る。
「だってきみがそんなふうに、だれかに執着するのって、なんだか珍しいよ」
ペンギン同様に、幼子のような雰囲気を持つ父親に、ミーロは呆れる。
「あのねえ父様、ボクはあんな危険な魔物を父様が野放しにされていて、魔王城の秩序を乱すのが嫌で、見ているだけなんです」
「秩序を乱すっていうならきみだって同じだったじゃない。最近は……わきまえているみたいだけど」
アステルは思う。
(いや……ぼくが慣れたってだけかも)
ミーロがセックスばかりしていることは、相変わらずだったからだ。
(ちょっとからかってみようかな?)
「べつにミーロがトゥリを好きなら、それでトゥリもいいよって言うなら、トゥリと寝たって構わないんだよ」
ミーロは震え、腕をさする。
「ゾッとすること言わないでください。あんな加虐趣味とセックスしたいわけがないじゃないですか」
アステルは目をまあるくする。
「トゥリとは、セックスしたくないの?
きみが?」
「父様はボクをなんだと思っているんですか!?
ボクにだって相手を選ぶことくらい、ありますよ」
「ふふふ」
アステルは機嫌良さそうに笑う。
ミーロはげんなりする。
(父様、なにか誤解しているような……)
「なんにせよ、よかった。
ミーロにもそんなふうに思える相手ができたのなら。どうぞ存分に執着したらいいよ」
ミーロはカチンとくる。
アステルを壁に追い詰めて、顔を近づける。
「ねえ、父様。ボクが執着しているのはね、父様に対してだけなんですよ。ほら、はやく、こんなボクにした責任をとってください」
しかし、アステルは怯まない。
そっ、とミーロの顎に手を添え、反撃をする。
「そう? ミーロは、ここ50年くらいはぼくのことなんて飽きているんだって思っていたよ。
子どもが親離れするのは、普通のことだからね。
いつだってミーロの自由に過ごして良いんだよ。トゥリに恋するのだって、自由だ」
「私がどうかしたのか?」
ミーロがアステルを壁に追い込み、アステルがそのミーロに口付けしそうな距離でなにかを囁いている怪しい現場を、ジトーっという眼差しで銀髪の少年が見つめている。
トゥリはアステルとミーロの顔を見比べる。
「……アステル様、それって親子の距離ですか?
とうとうミーロは本懐を遂げて、アステル様と寝たのか?」
アステルはトン、とミーロの体を手で押して離す。
「誤解だよ、トゥリ。寝ていないよ。
ぼくはね、愛しい我が子を諭していただけ」
「なら、いいです」
アステルの腕のなかのシンシアは、トゥリフェローティタを睨みつけている。今度のシンシアもトゥリのことが嫌いなようだ。
トゥリはシンシアをからかおうとし、アステルはトゥリをたしなめる。
ミーロはアステルが(ミーロはトゥリに執着している)と言ったのが、あんまりな誤解だと感じている。
そもそも、ミーロはだれかひとりに恋なんてする気はまるでないのだ。恋だなんて、されることはあっても、することはない。
ミーロからは、縁遠い言葉だ。
(父様はボクがあいつに拷問まがいのことをされたのを忘れている。あんなサディストと寝たい魔物なんていないでしょ)
(まあでも、あんなに危険だと目を惹くのは事実だけれども)
ハチが目を惹く色をしているのと一緒だな、とミーロがぼんやりしていると、くるっと振り向いたトゥリとバチッと目が合った。
銀髪に白い服の少年の珍しい紫の瞳が、獲物を狙うように輝いたあと。トゥリはミーロに、ニヤッと笑った。
ミーロはぞくっと悪寒がしたが、それを跳ね除けるように、トゥリフェローティタを睨み返した。




