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■4-7


「今日は祝日でもないのにシフトに入ってくれて本当にありがとう」


 本来平日を埋めてくれているバイトの子が病欠のため郁人が店番をせざるを得なかったその日、15時から閉店の19時までの短い店番として出勤してきてくれた藍に郁人は両手を合わせて礼を言った。


 日本クレー射撃協会の本部は東京都渋谷区にある。

 今日はそこで次の大会への出場手続きがあり、藍が来てくれなければ今から店を閉めてでも行かねば受付の締め切りに間に合わなかった。


「畑の具合は上場であるし、もっと早く来てもよかったのだぞ?」


 店の鍵を受け渡す際に藍が言った。


「少しでも出来る世話をして早く実らせなきゃ、いつ蝗害が来るかわからないんだから」


 仁のために始めたという畑の進捗は、郁人も常々気にしていた。


 自分は藍に伴侶する立場を密かに狙っているので、邪魔する絶好のチャンスではあったろう。

 

 そんな卑怯な手に出るよりも、藍の心中に僅かにある郁人の居場所を整えてゆく方が自分にとっても気持ちが良いのだ。その仁は今日は紅葉狩りに出かけているそうで、先日会った美咲という先輩同僚と一緒だという。あちらがくっついてくれれば好都合だが、あの二人はまだるっこしいので誰かが取り持つでもしてくれないといまいち期待が出来ない。


 蝗害に関しては強い危機感を持っている。


 2020年という近年でも、東アフリカでサバクトビバッタというバッタが大量発生し、ようやく収束が見られたのは最近(筆者時点現在*2024年5月末)のことで、2023の11月頃だったという。


 先進開発が進んで1987年以降は起こってない日本でも、2007年に関西国際空港で群生相のトノサマバッタの大量発生が確認され、このまま範囲が拡大すればあわやという事態に陥りかけている。


 遠い異国の話だと軽視する事はできなかった。


 仁が大学の方で権威ある先生に注意を促したのが効いたのかはわからないが、テレビニュースでも蝗害の話題が少しづつ取り上げられるようにはなっているが、エクスプランター問題ですら未だ対処しきれていないせいかどうしても世間の認知ぶりは広まりが鈍いようだ。


 何より頭の出来が郁人を数段上回る藍が危惧した事だ。

 蝗害は必ず来るものとして受け止め、自分なんかに何が出来るだろうと思いを馳せている。

 仁が言ったように、見かけたトノサマバッタを殺して回っても意味はなさそうだ。


 店の鍵と入れ替える形で移動中に目を通せるように書式に出したネット通販の売上記録と、プリザーブドフラワーが封入された女子力が高すぎるUSBを受け取った。


 店から一歩出れば、通りはうんざりするほどの緑で溢れている。

 一応は飲食店が多く並んだ活気もそこそこな商店街の中なのだが、店舗と店舗の間の元々野良猫ぐらいしか通れないでいた隙間にみっちりと植物が生えだし、それが通りにもなだれ込むようにして風景を浸食している。


 電柱に絡まった蔦植物は配線にも伸び、藤ではないが藤棚のように頭上を彩っている。初夏の頃は通行人の上に毛虫が落ちてきてちょっとした騒ぎになったもので、その時初めて郁人は射撃で虫を退治する事を思いついた。


 当然駆逐など出来なかったが、不快な毛虫を退治するだけで商店街仲間の胸の内にある鬱憤を晴らして有難がってくれたものだ。一応は店の商品のPRも兼ねたつもりだったが、効果の程はその月の売り上げを見てもよくわからない。


「鍵はいつものように店のポストに入れて帰ってね。明日からはバイトの子が復帰するから回収するように連絡しておくよ。僕はあちこち行かなきゃならないから数週間戻らないけど、二人で受け渡し合っておくれ」


 扉を閉める間際、藍に手を振りながら呼びかけた。


「わかっておる。まあ、気を付けて行って来給え。どうせ食えぬので土産は要らんが、あの事は任せたぞ」


 どっちが雇用主かわからなくさせるこの口調が何とも言い得ない部分に刺さる。

 虫でも追い払うような仕草で手を振る藍に送り出され、郁人は車に向かった。


 任されたあの事とは、蝗害の調査である。

 丁度狩猟の依頼を請け負っていて地方をあちこち回るので、トノサマバッタを見かけたら周辺の情報を記録しておくようにとお願いされていた。


 どこでどれほどの数を見かけたか、穂を持つような植物は周辺にどれほどあるか、そこから最も近い川や湖はなんという名称なのかを調べる。


 ネットやニュースの情報と合わせて今後の予想を立てるのに役立つという。今後大量発生した時、初期に観測された場所では主な餌がないので向かうルートを絞れるのだとか。蝗害となれば毒草すらも餌食にするとはいえ、孤独相の段階でのこの情報は有用なのだそう。


 調査内容自体は容易いので、その程度で良いのならば軽く引き受けた。


 娘一人が蝗害という災害に対して如何に手を打とうというのか見ものだが、関心している場合じゃない。自分は出来る事を見つけられていないのに、既に何か行動し始めている藍を見習わねばならない。





 ご愛読感謝! 筆者です!


 植物神降臨やエクスプランターなどある物語時点は常にパラレルですが、あえて筆者時間を本編に書き込んでいる箇所があります。


 まだまだついこないだの事なんです蝗害は!いつまた誰の身に降りかかってもおかしくないのだという事を知ってもらいたい思いでそうしています!

 実は調べが甘くて今もまだ続いてると思ってたほどに!


 また、サバクトビバッタやトノサマバッタは、バッタ科でありイナゴ()ではありません。

 しかし稲に付く子を指してイナゴと呼ばれる事は多々あります。

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