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■4-3



『専攻[絵]で学んできたわけじゃないんだから[絵]

ついていけない[絵]事があっても気にするな[絵][絵][絵]


それなのに積極的に発言[絵]してくれたのは嬉し[絵]かったよ

仁君のおかげで私[絵]はもう

イナゴ[絵]が酒乱[絵]にしか見えない[絵][絵]』


 絵文字だらけで読みづらい所謂おじさん構文で、柏木氏からそんなメッセージが届いた。


 "生態的特徴と進化の境目"というテーマで行われた柏木ゼミの討論会は、ミジンコが戦う時に頭角を生やす(丸一日かかる)現象を取り上げて始められたものだったが、イナゴの相変異を挙げるのにも向いていた。


 来たる蝗害の危機を呼び掛けるため、仁は見学の立場ながらも積極的に発言をしていったのだった。


 酒乱という認識がされているのは、進化か否かという問い掛けにおいて否を唱え、そんな大した行動原理ではないのかもしれないと述べた結果である。


 食性が変化することは周囲のノリに合せて下戸を克服する陽キャに例えた。

 集団から離れればまた下戸に戻る一面も良く似ていよう。


 しかし相変異は体の造りまでも変え、後脚が短くなるなどの例はどう解釈するのかと問われた。


 これを受けた仁は、脱皮を取り上げて対処した。

 これを現代の医療や義足装丁技術ではまだ追いつく事の出来ない所業とするのなら、

 暴飲暴食で重度の糖尿病を患って足先を失った患者のそれだ。


 結論、群生相に変異したイナゴは酒乱である。


 どうしてこうなった。

 正規ゼミ生、もっとしっかりしてくれ。


 これからは陽キャの飲みグループに交じって無理してノリを合わせてる奴を群生イナゴと揶揄しよう、などと言って容易く脱線していくのだから所詮はゼミもお遊び気分なのだろうか。


 その後に山間部でトノサマバッタを見かけた話を振り、狙い通り蝗害を危惧する空気を作ることは出来たのだったが。


 事体をそれなりに重く受け止めたのは柏木氏は他の先生方にも広めておくと言った。


 ゼミ生の方は、バッタがいっぱい出たら目茶苦茶キモいな、ぐらいの反応だった。一応でも食糧危機である事はちゃんと理解しているようだったが、それに関してはエクスプランターがやや肩透かしだった影響もあって深刻に受け止めづらくなっている。


 どうやらゼミ生たちは皆、生粋の東京育ちのよう。

 そのせいもあるとするのは偏見かもしれないが、辛い感情を想起するのは相当困難そうだ。


 田舎で育った仁は、蝗害の怖さを年寄り連中から幾度となく語り聞かされたもの。


 絶え間ない羽音でろくに寝れず気が狂いそうだったとか、実る前の作物を根こそぎ食害されて宝泉は財政的にも追い詰められ方々に金の無心をしたとか、ひもじさのあまり佃煮にして食べたが茶色ばんだ個体はどれだけ長時間煮込んでも食感が良くならないとか。


 仮に仁が聞いた話をそのまま伝えたとしても、彼らが語るときに見せたような攣った表情や諦めのような苦笑いはとても真似できそうにない。


 それを実際に体験した者の思いの程は仁にも掴みきれないが、じきに誰しもが我が身を以って真の恐ろしさを知る事だろう。


「どうかな? 森山君も忙しいのはわかってるんだけど...」


「ごめんなさい。もっかい言ってもらって良いっすか」


 バイト終わりの藤沢先輩を家に送っていた仁。このところは先輩の家に藍がお邪魔しているのでその迎えも兼ねている。


 途中で届いた柏木氏のメッセージを読んでいたら気がそぞろになり、ちゃんと先輩の話を聞けていなかった。


「だから、この前の外来種駆除の話を友達にしたら、その子の実家が椎茸農家で、菌床を食い荒らす害虫に困ってて、同じやり方で良いから駆除して欲しいって頼まれちゃったんだってば」


 藤沢先輩は二度言う事は嫌がらないが、話を聞き流していた事は少し癪だと言いたげな様子だった。


「無理っすね。郁人氏は射撃競技の王座の保持者で、ガンアクションの愛好団員で、おまけにお店のオーナーと大変に忙しいお人なんで。あれはランの手前で格好つけてたのを言い包めて始まった事っすから」


 確か、藍に向かって飛んできた中型の蛾を空中で撃ち抜いて見せたのがきっかけだった。

 それはセスジスズメという名の農作物を食い荒らす害虫ではあったが、今の東京で見かける分にはせいぜい不快害虫止まりだ。


 どうせ殺生するならそっちのが良いぞと藍が言って白と黒の縞が入ったアカボシゴマダラという蝶を示し、特定外来生物であれば他にも色々見つかるなという話を仁と藍でしていると、郁人氏自らの提案でちょっと駆除して回ろうかとなったのだ。


「私だって郁人さんには頼めないよ。だから舎弟のどっちかにお願いしてみようかなって。腕は確かじゃなきゃ舎弟になんかしなかったって、郁人さんのお墨付きだよ」


「尚更無理っす」と即答。


 それ意外は迷惑千万である事に保証など要らないと思った。


「先輩だって対応できてなかったのに、よくそんな酷な提案できるっすね」


「だってね、その子と一緒に行く予定だったライブのチケットがあるんだけど、その子が行けなくなっちゃったの。抽選限定でしか手に入らないものだったから転売したらそれなりの額になるんだけど、これをやってくれたら譲ってくれるって話で... できたら森山君と一緒に行きたいなって」


「・・・・・・・・」


 正直、アーティストのライブなどにはさっぱり興味無い。

 無いのだが...


「先輩にそこまで言わせちゃあ仕方ないっすね...わかりましたよ。ただあの時駆除した草花に関してはBB弾で倒せるような種類しか挙げられてないので、ちゃんとやるならそこは結局手作業で抜くべきっすよ。ってか舎弟の報酬は何かあるんすか?」


「ありがとう!」と言って弾んだ藤沢先輩の笑顔は、相変わらず仁に刺さりやすく出来ていた。



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