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■3-3


「あ、コイツ結構色んな食べ物にアレルギー持っててそういうの駄目なんです。っていうか…」


 二人にはカウンターへ座ってもらい冷えた緑茶とお土産で貰った菓子を出すと、男が慣れたように説明した。


「ガンショップでお茶が出るってどういうこと。ガチの購入検討客と思わせてしまったのならすいません。コイツが店の中見たがっただけなんで。俺ら本当に金がないので買えません」


 コイツコイツと無遠慮に連呼するのは当てつけのように思えたが、郁人は精一杯に営業スマイルを保った。


「そんな事を強いるつもりはないですよ。せっかく興味を持って店に一歩踏み入れて下さったのですから、あと少し見識を広げていただきたいだけです。今日見聞きした事をお友達に話すなどしていただけるだけでも競技界隈の活性化に繋がりますからね」


「あ、すいません。俺もコイツもまともな友達なんて…」


 っつあ!


 もてなすつもりが痛いところを撃ち抜いてしまったかもしれない。

 こんな口調の人物が実際に居たら相当なコミュ障だろうと想像した事があったが、やはりそうだろうに、普通に話せるこの男を見たものだから注意を欠いた。


 ばつの悪い顔で目線を泳がせて娘の方を見た。

 娘は些事のように優雅に緑茶を飲んで、小さく一息ついていた。


 ボッチなど意にも介さぬさすがの胆力のよう。そうでなければその気位は保てまい。


「まあ最悪、いつか何かの時に話題になれば良い、とします。こんな界隈ですから女性競技者が少ないのですよ。とはいえ今は道が開かれていなくともいいのです。いつかこのお嬢さんが射撃競技界のアイドルとして活躍してくれたら最高なんじゃないかと、そんな淡い期待が本当の狙いですから」


「ほう。ガンシューター系アイドルとはまた新しいトレンドが生まれそうな予感がするではないか」


「もう俺、アルカロイド系以降わかんねぇから。なんか殺伐な方向に向かってるのは気のせいだよな」


「我もモルフィンやコカを推して居たのに、麻薬の名前を用いるのはこのご時世に不謹慎だと叩きのめされてすぐに廃れてしまったのは残念でならぬよ」


「センターの坪倉凛(ツボクラリン)だけは知ってます。あんなに名前がド嵌りする事があるのかとインパクトは強烈だったので」


 話がアイドル談義に流れていたが、郁人は気にせず乗った。

 界隈の広報など建前に過ぎず真の目的はこの機に交流を持つ事、要するにただのナンパだ。


 連れの男付きなのはどんなエクストラハードモードだと舌打ちしたい気分だが、史上最強の銃士の名にかけて狙った獲物は何としても撃ち落さねば気が済まない。


 興味の取っ掛かりがいまいち見えない娘より、話せばなんでも拾ってくれそうな男の方が扱い易いまであるからここは一旦三人で親睦を深めておく手でも悪くはない。


「ってかお兄さん俺らと歳変わらなそうなのに、お店やってるなんて凄いっすね」


 自己紹介は未だ交わされていないが、名札にownerと記してあるのでそこから拾ったのだろう。


「メインは競技選手なんだけど、大会の賞金だけでずっと食っていけるわけじゃないから増やす方法を探して安直に店開きだ。競技者が皆々こんな事をしたら営業ライバル爆増で供給過多だからなんとしても王座を維持しなくてはね」


「あー、プロゴルファーが皆してゴルフ用品ショップを始めると考えたらコンビニの数なんて容易く超えそうな感じですね。王座まで持ってるんっすか、かっこよ。お顔もイケメンでなんという二物。凡庸を絵にかいたような俺は妬みますよ」


 自身で言う通り、そちらが平凡すぎるだけなのでそう簡単に妬まれるのは困る。


 堀が深くて目元が涼やかとはよく言われる事だった。

 男に必要なある程度までの自己評価は持っておいてるが、それ以上の美意識を高める気にはならない。なによりも努力で成し得てきた功績にこそ注目して欲しいがためだ。


 異性にモテることだけが目的であったならば今の境地には到ってない。

 認めてくれる者に老若男女の垣根は要らない。


 素直に褒めてくれるこの男とも少し良くなれそうな気がした。

 とはいえ娘をものにしたい事には変わりはないが。


 イケメンと言われてはにかむ風にして、娘と目を合わせてみた。


「我の好みは、鉄血宰相ビスマルクのようなイケおじだ。まずは立派な口髭を蓄えてみよ」


 連れの男ともかけ離れすぎて本当に取っ掛かりを得ない娘だった。


 厳格なイメージは自身の振る舞いに反映しているという事だろうか。


(兵士)(兵器)の数が全ての問題を解決するだなんてぶっ飛んだ演説をした人だな。単純戦略に意気投合か?」


「せめて『愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ』という彼の名言を挙げ給えよ。どうしてお主はこう教え甲斐が無いのか。その件では過激な印象も持たれたが、彼は自国ドイツのためなら異なる思想の者とも手を組める懐の深さもあるのだぞ」


 教育者と教え子のやりとりのようなものが見え、二人の関係性の考察を改める。

 歳は娘の方が下に見えるのが気がかりだが、それならば匂いが移るほど近い距離の仲であっても納得ができる。


 好みのイケおじ要素は一ミリたりとも無いし、もしかしたらパートナーの線は思っていたよりも細くあるかもしれないと希望が湧いた。


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