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「目には目を歯には歯を、という言葉に習ってみるというのも考えてはみたのだ。例えばお主のクローンを大量に生み出して我の都合のいいように教育し、そやつらにアンモニア無限製造機を作成させられたら我は栄養に困らずのんびり種を撒いてこの地上を侵略していける。危機が迫ればそやつらを身代わりにして逃亡するのだ。しかし、なまじ自由意志の強い人間だ。少しでも教育を間違えれば内部反乱を起こされる危険がある。全く扱いづらい事この上ない、使い物にならん種族よな」
人間の敵であるばかりか、仁の事すらもより有用な利用法を模索されている始末。
こればかりは少し悲しかった。
食肉とされるために増やされる家畜の気持ちが、
愛玩のために増やされるペットの気持ちが、
身に染みて解かったのなら得難い勉強をしたものと考えようか。
「進化学のセミナーを受けて、バナナの生態環境事情まで覚えて、今日はもう勉強は十分だな。藤沢先輩に借りた先輩の愛読書がやっと読める」
そんな冗談を口にして、これまでの話題をぶち切る。
「たわけた事を言うでない。お主イギリス式英語が不得意であろう。帰ったらそこの集中レッスンをする予定であるからな」
「何の役に立つんだよイギリス式。何が英語は世界の共通言語だ。だったら英米混合のカナダ式にさっさと切り替えろ。つーか色んな言語を盛り込んで活用できる日本語の素晴らしさを知れ。そしてこれを共通言語に設定して外国人全員その異常習得難度に悲鳴を上げろ。ついでにヤード・ポンド法もただややこしいだけだからメートル法に転換しろ」
こうして熱心に勉強を教えてくれるのも、いつか何かに利用するためなのではないかと疑いの気持ちが浮かんでしまうのが何だかやりきれなくてイギリス式に当たり散らす仁だった。
ヤード・ポンド法は完全にとばっちりでしかないが、悲しいかな旅客機の墜落事故を招いたあれに釈明の余地はない。
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セミナーを受けに行った日から一週間以内に仁は柏木氏と大学の敷地内で再会する事が出来、そのときは会釈をするしか出来なかったが彼もこちらに気づいたようで相槌を打ってくれた。
次に会えるまで再会した場所にしきりに立ち寄る行動は我ながら気持ち悪かったが、その甲斐あってある日向こうから話しかけてきてくれた。
意図してエクスプランターの話題を多く口にし、柏木氏はそれを嬉しそうに聞いた。
そうして親交を固いものとした仁は、セミナー参加から僅か一か月で繁華会の会合に招待を受ける事が出来たのだった。
柏木氏との交流で、繁華会にもある程度の知識を得た。有り難い主の恵みを喜んで賜ろうという教義だが、意外にも繁華会は主として崇拝する偶像に明確なものを持たないそうだ。
柏木氏は木花咲耶姫を挙げていたが、信者の多くはローマ神話のフローラ派とギリシャ神話のニンフ派に分かれて論争など頻発しているようだ。
結局全てを統合して自然そのものを崇めているには変わりなく、何のタイトルが最も素晴らしいかを言い合うアニメやゲームのオタクの集まりのようなものだと覚えておいた。
「本当にランも行くのか?」
いざ家の玄関を出て会合に立つその直前で、仁は最終確認を取った。
「ランを崇める連中なのに、お前は一般信者の、その仲間に加われるかどうかを見定められるんだぞ? 俺なら絶対不愉快だ」
強く反対してみせたが、藍はどこ吹く風のように姿見の前で身なりをチェックしていた。
「宗教など、規模の大きなままごとのようなものであろう。我はままごと、嫌いではないぞ。今日は信者の志願者がその役であるだけだ」
自分を女神だと豪語するあの時の不思議かわい娘ちゃんにも是非来て欲しい、と柏木氏からも言われているので連れて行きはするが、ここらで気が変わってくれるのなら仁だけで安心して行けるものを。
その期待を裏切って、藍は悪戯っぽい笑みを仁に向けた。
何もせぬ内から口うるさくしたくないので堪えたが、また何かイタズラをやらかしそうでそれも反対の理由だった。




