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鐘楼 1


「聖女さまは、学ぶことがお好きなのですね。そして、とても我慢強い」ヴァグエット先生はにっこりする。「このように熱心に耳を傾け、わたしの言葉を書きとるかたは、見たことがありません」

 わたしは首をすくめる。勉強は苦手だ。だから、必死にノートをとって、復習できるようにしておきたい。それだけ。

 ランベールさんがぼそっと云う。「ヴァグエット師は、今まで姫さまがたの指導をしていたのだろう」

「ええ、まあ……」

 ヴァグエット先生は言葉を濁す。お姫さま達はすぐに嫁いでいってしまうそうだから、魔法の勉強をしっかりするひまもないのだろう。


 魔力の操作練習については、今のやりかたで問題ないとのこと。練習を推奨された。完璧にできるようになったら、もう少し複雑な動きをさせてみては、との助言ももらう。

 お昼頃、一旦休憩になった。

 わたしはさめたお茶を飲んで、手洗いへ立つ。それから、ランベールさんへ頼んで、鐘楼へ登った。兵達も侍従もついてこないで、ランベールさんとふたりきりだ。

 鐘楼はかなり背が高い。内部にらせん階段があって、木製のそれをぎしぎしと音を立てながらのぼった。のぼりきると、外へ出る。円形の部屋に、五つ、大きな開口部があった。上部がアーチで縦に長い。がらすも戸もついていなかった。それから、更に上にのぼる急な階段があったが、そちらは鐘のメンテナンス用だそう。

 鐘はみっつで、鳴らす為の紐がぶらさがっている。これは、聖女が王都を発つ時や、王都へ帰還した時、鳴らす場合があるのだそう。かつてはかならず鳴らしていたが、聖女に治療してもらいたいとひとが殺到した為、たまにしか鳴らさなくなった。


「たまに……って?」

「重大な戦へ赴く時や、王都のまわりに化けものがあふれ、それを討伐に出る時などです」

 ランベールさんは煩わしげに、肩に掛かる髪を払いのけた。上位コンバーターがなくなっている。借りものらしいから、返したのだろう。

「聖女さまが出陣するとなれば、皆が奮い立つ。……あなたはそういう存在だと自覚してもらいたい」

 聖女の名前は重すぎる。だが、受け容れるしかない。反論するだけの知識がないから。

 ランベールさんが、すっと窓(と云うべきだろうか?)へ近付いていった。なにかを示す。「あれをお目にかけようとしたのでしょう。アムブロイスはあなたに甘い」

 ランベールさんの隣に立って、窓に両手を置く。灰色の石は冷たい。ランベールさんの示すほうへ目を向けると、遠くに、城壁と、その向こうの川が見えた。川は、もっと左なら、近くに見えるのに……。

 白っぽい服を着たひと達が居た。わたしは身をのりだす。あれは、王室護衛隊の兵?

 王室護衛隊の兵、と思しいひと達は、城壁の上に居る。鐘楼のほうが高いから、見えるのだ。


 兵達が四人、白っぽい布の角をそれぞれが片手で持ち、立っていた。別のひとりが、その布のまんなかへ、なにかを置く。五人の後ろに、十数人の兵が居る。左手を胸にあて、頭を垂れて。

 四人がひろがり、布を軽くひっぱる。まったく同じタイミングで腕を上げた。布は、きらきらしている。距離があるので細かくは解らないが、金糸でぬいとりがしてあるのだろう。

 四人が城壁の端へ歩いて行く。川のほうへ。

 四人は布を、中身ごと、川へ放り捨てた。はらはらとなにかが宙を舞う。

 あれは……今日、川へ遺灰を撒くと。

 片手が滑った。ランベールさんがさっとわたしの腰へ腕をまわし、ひき寄せて、落ちるのを防いでくれる。

「もうよいだろう」

「いいえ。きちんと見ます」

 ランベールさんの手がわたしの手首をきつく掴んでいた。


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