政治的なあれこれ 2
ロッルさんが喘ぐように云った。「しかし、聖女さまらしからぬ、灰色でない髪の女人で、おそらくどこぞの田舎貴族の娘ではと」
云ってから、はっと口を片手で覆う。エーミレさんとツェレスタンさんがそれを睨む。
ランベールさんに表情はない。くるりと、宮廷魔導士三人を振り返る。三人が怯む。
「マルス師、タリエル師。おふたりが昨夜、麦穂の城へ呼ばれたと聴いた。まさか、今朝あめのさまがこちらで〈器〉を計測することを、誰ぞにもらした訳はあるまいな?」
マルス先生が顔を伏せた。「も、も、申し訳ございません。侍女らに……」
「次、そのようなことがあれば、まっさきに我らに伝えるのだ。よいな?」
ランベールさんはそう脅しつけ、宮廷魔導士三人は震えあがってはいと答えた。
わたしはきょとんとしている。いまいち、話が見えない。
「大丈夫ですよ、あめのさま」ぼーっとしているわたしに気付いて、ツェレスタンさんが云う。「コンバーターは、どれも、壊れることなどありえません。計測結果は正しいのです。ならば、なにをおそれることがありましょうか」
わたしは首を傾げる。おそれることはいっぱいある。わたしはこわがりだ。陛下もこわかったし、王太子殿下はずっとこわい。阿竹くん達を傷付けるかもしれないのもこわいし、戦わなくてはいけないのもこわい。
エーミレさんが小さく、憐れむような声を出した。
「ツェレスタン。あめのさまは心根が清らかでらっしゃるのだ。あのように、賢しらに計略を弄し、自分で掘った穴に自分で落ちるような愚か者とは違う。それ故に、その手の者らの気持ちも、やることも、理解はされないだろう。だから、我らがきちんとまもらねばならぬ」
「エーミレの云うことには同意せざるを得ぬな」
ランベールさんは息を吐く。「ロッル、夜には宮廷を追い出されていても仕方がないのだと、理解したか? お前だけでなく、今朝麦穂の城へ詰めていたお前の部下達も?」
ロッルさんが泣きそうになっている。しかし、こっくり頷いた。
「責任は自分が負います。ラクールレル隊長、どうぞ、部下を救ってはもらえませんか」
「職務放棄する者どもを助ける義理があると……」
段々、会話の内容が頭に染みこんできた。公主さまは、本当はここに居てはいけなくて、それを破ったから、護衛のひとと侍女達がくびになりそう……ということ?
「あの」
おそるおそる声を出す。ランベールさんの緑の瞳がこちらを見た。
「なんでしょう、あめのさま」
「わたし、もどりましょうか? わたしが居なければ、問題、ありませんよね?」
エドゥアルデさまは、わたしが女性に近付くことを禁じているのだ。わたしが、寝坊でもして、〈灰の広場〉に来ていなかった、となれば、問題はない。
と、思ったのだが、ランベールさんは溜め息を吐いた。
「その必要はありません。ロッル、聖女さまはお前の愚かしい言動をゆるしてくださるようだ。それに免じて、巧くいく保証はないが、口添えはしよう。聖女さまへ感謝せよ」
「はっ」
ロッルさんは感激したみたいで、目を潤ませてわたしへ向く。しかし、それ以上のことはランベールさんが遮った。「そうやってまた軽率な行動をとるつもりか? 公主殿下の面目を潰したと、公主殿下付きの侍女が喚くだろうに?」
「あ……申し訳ありません」
「お前はもう少し思慮深いと思っていた。陛下とエドゥアルデ殿下がお咎めなしと仰言っても、わたしは職務においてお前とは関わりを持ちたくない。簡単に云うと、わたしはお前を見限った。では、戻れ」
ロッルさんは、哀しそうな悔しそうな表情で、はい、と云い、さっとレディーヌさま達の許へ戻っていった。




