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レディーヌ 2


 兵営は、城門を這入ってすぐ右にある。


 王都ソレイガルトはひろい。レディーヌは三日とあけず、〈炎の広場〉の向こうにある王立病院や王立孤児院へ慰問に行くが、移動には相当な時間がかかる。日が昇ってすぐに馬車で出発しても、朝ご飯の準備を手伝えない。

 その王都の約九分の一を占める宮廷も、勿論ひろい。なかには、王族が暮らしているだけではなく、それをまもるように兵営があり、更に、役所もある。

 いつもは歩きだと、兵営へは相当時間がかかる。だが、具合のいいことに、露の塔は兵営に近い。レディーヌはさほど苦労せず、兵営に至った。


 兵営は、兵が寝泊まりする為の建物(角張って大きい建物で、レディーヌの目にはちっとも美しいとは思えない)、訓練場(方角は知っているが、行くのは厳に禁じられている)、病院(傷病者が収容されている。王立病院と比べ、かなり小さく、半分もない)、それから詰所などが寄り集まっている。

 レディーヌはちらっと、公主用の城を振り返り、それから詰所へ駈け込む。夜も更けて、はやく戻って眠らないと、明日の慰問に響く。

 詰所に要る係の者は一瞬ぎょっとしたが、レディーヌは頻繁に兵営を訪れている。追い返されることなく、ランベールへとりついでもらえた、

 兵営にも、雑用をこなす為に、従僕や女中は居る。どこからか、半分眠ったようなあしどりであらわれて、レディーヌと侍女ふたりの為に椅子とお茶の用意を始めた。レディーヌは礼を云ってマグをうけとり、お茶をすする。礼ひとつくらい減るものではないし、それがだらけたりせず、誠実に働く動機になるのなら、云うほうがいい。彼らはなるべくしてこうなったのだし、公主であるわたくしがちゃんと慈悲をかけないと、堕落してしまうわ。


 暫く待たされたが、レディーヌの機嫌はよかった。ランベールが来たからだ。それも、きちんとした格好で。きっとわたくしに会う為に、衣裳を整えたのだわ、と考えた。

 ランベールが配下の兵ふたりとともに詰所に這入ってきて、左手を胸にあてる。兵達もそうして、更に頭を下げた。「お呼びでしょうか」

「ランベールさま、よかった、お元気そうで」

 レディーヌは座ったまま、マグを傍らの従僕へ返す。侍女達は立ち上がって、レディーヌの背後へ控えた。

 レディーヌはにっこりしていたが、目的を思い出してしかめ面になった。

「あの……どうしても聴きたいことがあって、来ましたの」

「……なんでしょう」

「お兄さまがつれている、娘のことですわ」

 名前をきいておくのだったとレディーヌは少し後悔する。「田舎っぽくて、少しその……頭が鈍そうな。まだ成年は迎えていないと思います」

 レディーヌがそう形容すると、兵ふたりが訝るような目をして顔を上げ、ランベールは上目蓋を半分下げた。怒っているように見えたが、ランベールはすぐに云う。

「あめのさまのことでしょうか」

「ああ、あめのと云うのね」

 思い出そうとしていただけだったようだ。レディーヌは内心ほっとする。兵はともかくとして、ランベールを怒らせたくない。嫌われたくないのだ。

「お兄さまが、そのひとを聖女さまだと仰言るの。またわるふざけしていて、わたくしいやになってしまいます。その上、ランベールさまがあのひとを聖女さまと認めていると」

「あのかたは聖女さまです」

 レディーヌは口を半開きにしたまま、寸の間かたまる。聖女?


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