国王と王太子 3
「今のは、クラリッセに対する脅迫だ……!」
「誤解されたようです。〈陽光の王国〉の為に国土をひろげた僕を、サウニエーレ夫人が邪魔する理由があるでしょうか? 彼女は国の為に父上のお傍に侍っているのです。その仕事をきちんとこなしているではありませんか? 父上の子を産み、育んでいる。僕と彼女の利害は一致していますから、邪魔をすることもされることもありません。もし、彼女が僕を邪魔するとしたら、僕が手を下すまでもなく誰かがなんとかするでしょう。そのような異常なことは起こらぬでしょうが」
王太子殿下はフォークをゴブレットへもちかえる。そういえば、このひとは先程から、片手を常にあけている。なにかに備えるように。
「僕は彼女と成る丈関わりたくないだけです。あまりよいひとなので、母上の記憶がうすれそうでこわいのですよ」
その後、事務的なやりとりがあり、わたしの処遇は決まった。
宮廷の裏手にある、かつて聖女がつかっていた城が、わたしの住まいになる。王都に居る間は基本的に、そこで大人しくしている。
聖女護衛隊の人数は、四十人前後を予定。常に、わたしと行動をともにする。王室護衛隊よりも上の立場で、兵らの憬れになるだろうとはエドゥアルデさまの弁。
化けもの討伐を命じられたら、逆らわずに従い、すみやかに遂行する。移動に必要な諸々(馬車や馬だ)などは、聖女専用のものをエドゥアルデさまが用意する。
女性、特に未婚の貴族女性、娘の居る貴族女性とは、関わらないか、侍従や聖女護衛隊の居るところで会う。
阿竹くん達とは、許可をとってから会う。許可が出ない場合、何故なのか聴き出そうとしない。
阿竹くん達は、王都内の王立病院や王立孤児院へ赴き、傷病人の治療を行う。阿竹くん達に支給される玉貨に関しては、わたしがもらった玉貨鉱床の産出分から出ることになった。玉貨鉱床をふたつやるのだからと陛下が渋ったのだ。
「話がまとまったようですね」
王太子殿下は満足そうに云い、こちらを向く。
「聖女さまはこちらの世界に慣れていないのだし、女性が居ないのは心細く感じるでしょう。それに、あなたは聡明で、ご自分の立場を弁えている。じっくり選んで、聖女さまに害悪を与えないような侍女を何人かつけましょう」
わたしはかすかに頭を下げた。お礼を云うべきかどうかが解らない。そもそも、わたしは望んでここに居るのではない。
かつかつと軽い跫がして、着飾った女の子が這入ってきた。
「陛下、お兄さま、ごきげんよう……」
女の子はブローチをつけた女中をふたりつれている。お兄さま、と云うことは、この子はお姫さまだろう。華奢なところや、肌の色が、エドゥアルデさまによく似ていた。
女の子は、優雅にお辞儀して、にっこり笑う。「おふたりが晩餐をともにすると聴いて、慌てて参りましたの。教えてくだされば、もう少しましな格好で参りましたのに」
そう云うが、服装は気合いがはいっているように見える。
ベビーブルーのドレスは、紺色の細いリボンと、金のレース、白いフリルで装飾され、きらびやかだ。腰の辺りに、淡い紫の、布製の薔薇をくっつけていた。ドレスの丈は踝くらいで、白いパンプスが見える。プラチナブロンドはハーフアップにして、銀と真珠で飾っていた。
身長は、160cmには届かないくらいだろうか。わたしと同年輩か、それ以下。瞳は緑がかった青で、陛下と同じ色だ。




