おひめさま
女の子は続けてなにか云いたそうだったが、わたしを見ると口を噤んだ。はずかしそうに目を逸らす。
エドゥアルデさまが微笑む。「お邪魔をしましたかしら……」
「暫くぶりだな、レディーヌ。兄は約束通り、我が王国に宝をもたらしたぞ」
「……まさか、そのひとが聖女さまだと仰言るのですか? お兄さま?」
レディーヌさま、は、目をまんまるにする。当惑げに、わたしと兄とを見比べる。
エドゥアルデさまはにまにました。
「どうした? 聖女さまは、君の憬れじゃなかったかい」
「だって……聖女さまは、灰のお髪と、炎と瑠璃の瞳の筈です」
え?
それは、阿竹くん達の……じゃないかしら。じゃあ、本当はわたしがそうなる筈だった?
それとも、わたしが聖女というのは、やっぱり間違っているのかしら。
レディーヌさまは、組んだ両手をうすい胸へあて、おずおずと云う。
「お兄さま、こういうことはよくないです。本当に」
かすかに俯いて、レディーヌさまは王太子殿下を上目に見る。「わるふざけでも、度が過ぎていますわ。どこの誰ともしれないのに、宮廷にいれてしまって、陛下との晩餐にまでつれてくるなんて。愚かな従僕達がまにうけて噂をひろめる前に、はやく訂正すべきです。民は、化けものをおそれて、聖女さまを求めているのですよ。今、噂がひろまったら、大変なことです……偽聖女をたてて、人心を惑わせたと、学者達がお兄さまを責めます」
「レディーヌ。口を慎め」
陛下が云う。レディーヌさまは棒を飲んだようになった。ぎくしゃくと陛下を見る。「陛下……?」
「こちらは間違いなく聖女さまだ」
「でも、聖女さまはお髪が灰の色で」
「エドリアン麗王も、イグナセ冬王も、迎えた王后は黒髪だ。ふたりは聖女さまを妻にした。髪が灰色でない聖女さまは居る」
「だとしても、このひとは黒髪でもありませんわ。それに、……」
レディーヌさまは、わたしを見て、顔をしかめる。体型を見られた気がする。自意識過剰だろうか。
おそらく、レディーヌさまは、聖女が好きなのだろう。だから、自分が思う聖女像から離れたわたしに、どうしても納得できない。
わたしにしたって、自分が聖女とは納得していないが。
「レディーヌ。彼女はスプライトの大群を吹き飛ばしたのだよ」
「そんなの、信じられませんわ……」
「僕がこの目で見た。僕を疑うのか、レディーヌ」
エドゥアルデさまの声が少し低くなる。途端に、レディーヌさまは泣きそうな顔になった。
「ごめんなさいお兄さま……違いますの……お兄さまを疑うのじゃなくて……芝居で、つかってもいない魔法を、つかったように見せることが」
「僕が易々と騙されたと?」
「違いますわ」
それでも、どうしても納得いかないようで、レディーヌさまは戸惑い顔だ。「でも……聖女さまでなくとも、スプライトなら……」
「ランベールが彼女を聖女さまだと断言した。ランベールを疑うか」
レディーヌさまは、目をぱちぱちさせる。わたしを見、王太子殿下を見る。
「……ランベールさまが?」
「あれは嘘を吐く男ではない。それは解るだろう?」
「はい。……わたくし、失礼いたしますわ、陛下、お兄さま」
レディーヌさまは、頭を下げる。「無礼なことをしてしまったようです。今夜、陛下やお兄さまと、食卓を囲む権利は、わたくしにはございません。自室で反省いたします」
陛下も王太子殿下も、気にするな、とは云わない。わたしが喋れる場面でもない。
レディーヌさまは静かに出ていった。女中達が、わたしに苦々しげな視線をくれて、それに続く。




