話し合い 1
わたしは凍り付いていた。
彼らの命はない?
これは詰まり……脅しだ。聖女への。わたしへの。
わたしはなにか云おうとして、なにも云えないと気付き、ただ慌てたような呼吸をしただけに終わった。命? 人間の命ひとつを、簡単に、脅迫の材料につかうのか。
エドゥアルデさまは、不思議なことに、本当に残念そうだった。
「単なる従者であれば、取引材料としてはつかえない。しかし、あなたは彼らを特別に心配していると、わたしの宮廷魔導士が聴いてしまった。わたしのと云っても、本当の意味でわたしのものではない。本来の所属は宮廷で、父上に生殺与奪の権利がある。勿論、僕に関しても、父上はどうとでもできます。宮廷魔導士と違う報告をしては、僕が不興を買ってしまうのでね……申し訳ないが」
エドゥアルデさまは肩をすくめる。「どうしようもなかった。あなたが彼らを単なる従者だと云ってくれれば」
「殿下」ランベールさんが遮った。「それは責任の所在をあめのさまへおしつけているだけなのでは?」
「まったくその通りだともランベール。だがお前も責任の所在を誤解している。聖女さまを脅しているのは父上だ。僕じゃない」
エドゥアルデさまの声はいつになく尖り、ランベールさんは口を噤む。
わたしは二回、深呼吸した。
「つまり」
ふたりがこちらを向く。「つまり、これは誰にとっても、不愉快な話題だということですね」
「ああ、その通りですとも。僕らは皆、この話をさっさと終わらせたい。でしょう? はやく結論を出してもらいたいものですね」
「解りました」
「あめのさま」
殺してしまっては脅す材料がなくなるから、本当に殺しはしないだろうとは思う。でも、なにをされるか解らない。どんなおそろしいことが起こるか。どんな悍ましいことが行われるか。
わたしに拒否権はない。
だとしても交渉をしないという選択肢はない。
ぐるぐると思考が渦巻いている。頭の回転がはやくなる魔法があったらいいのに!
暖炉があって、室温は充分あたたかいのに、手が冷たい。しっとりと汗をかいている。わたしはドレスのスカート部分で両手を拭う。
魔法文字を多くつかえる者は、概してはやく死ぬ。
阿竹くんと日塚さんは恢復を。如月さんと月宮さんは攻撃を。わたしみたいに、どちらもじゃない。戦いながら恢復することはできない。
わたしの要求は決まった。
「かわりに、阿竹くん達を戦わせないで」
「意外だな」
エドゥアルデさまはマグを前へ傾け、後ろへ傾け、する。
「一緒に居させてください……もしくは、自由に交流させてください。そう云うかと思っていた」
わたしは戦いに行くのだ。なのに、一緒に居てもらいたくない。自由な交流は、端から期待していない。不可能であろう事柄に固執して、交渉を長引かせるつもりはない。不要な話題に時間を割けば、このひとはわたしの話を聴かなくなるだろう。そう思ったから、一番重要なことを云った。それだけだ。
わたしは黙って、エドゥアルデさまの返答を待っている。
あちらは、マグを傾けるのを辞めた。
「では、こちらも付け足そう。わたしは父上ではない。その願いを父上が無条件に受け容れるとも思えないし、あなたには父上を安心させる必要がある」




