王太子との会話 2
エドゥアルデさまは、しきりとわたしをからかった。
肌が絹のようだ、とか、黒蜜みたいな綺麗な色の髪だ、とか、稚くて愛らしい、とか、〈凍える地〉の大河をかためたような神秘的な瞳だ、とか。ランベールさんは終始渋面だったけれど、瞳の件では、笑いを怺えているみたいだった。
わたしは、ずっと、黙っていた。相槌も打たないで、目を逸らして。でも、たまにエドゥアルデさまが、わたしの顔の向きをぐいとかえ、自分のほうを向かせる。こわいから、抵抗はしない。
そう、思っていたよりもずっとこわかった。
エドゥアルデさまは、やわらかい口調ではあったが、有無を云わせない強引さが見え隠れする。それに、自分の意見はどうあっても通ると思っている。というか、解っている。だって、王太子さまなのだ。余程の無理難題でない限り、どんな意見だって通るだろう。
「そうそう、あなたの為に、腕のいい魔導士を何人か用意しましたよ。せっけんも、髪油も、紅も、白粉も、衣裳も、飾りも、ほしいものを好きなだけつくらせるといい。それから、カザデシュースにある玉貨鉱床をふたつさしあげましょう。コンバーターも用意してあります。聖女さま用の城は古臭いが、修繕したのでつかうのになんの問題もない。寧ろ、その愛らしい風情と相まって、聖女さまらしい神々しさが漂っていいかもしれない」
なんでもないような口調だが、玉貨鉱床は、貴族や王族が持っているものの筈だ。それを、わたしに、そんなに簡単にくれるなんて、……やっぱりこわい。
エドゥアルデさまはにやっとする。
「ほしければ、もう幾つか玉貨鉱床をさしあげますし、気にいらねば宮廷魔導士を殺してしまってもいい。いちいちひまを云い渡すよりも手間が省けるというものです。あなたが何人か首をきったとて、かわりはすぐに用意できる。ご安心を」
冷や汗が出ていた。このひとはなにを云っているのだろう?
ランベールさんが云う。
「殿下、ご冗談はほどほどに。聖女さまは繊細なかたです。それに、気にいらぬからといって、宮廷魔導士を殺すようなことはしない」
「お前は女というものを知らぬな、可愛いランベール」
こばかにした喋りかただった。
エドゥアルデさまは、わたしの髪を指で梳く。「このように稚く見えても、女というのはしたたかだ。庶民の、ただの母親でも、損得勘定はその辺の商人より余程巧い。自分と自分の子どもの得なら、そりの合わない親くらいは平気で見殺しにできるのが女だ。だからこそ、僕は女を信用している。充分な玉貨と、なんでもかなえる魔導士と、快適な城、コンバーター。男の場合それに理念や信念が要るが、女がほかになにをほしがるだろう?ランベール?」
「殿下……」
「ああ、ひとつ忘れていたな。聖女さまに相応の、配偶者が必要だ。だが、まあ、それはおいおい……」
エドゥアルデさまはランベールさんを見た。
「お前の護衛隊は、随分彼女に助けられたのだろう?功をあげた者は聖女さまとお近付きになれると云っておけ」
「殿下!」
「なあに、嘘でもない。僕には考えがあってね。お前も満足するだろうさ、可愛いランベール……」
エドゥアルデさんは、わたしの手を持ち上げて、手の甲へ口付ける。「あなたのような、愛らしい聖女さまがいらしてくれて、望外の喜びですよ」




