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王太子との会話 1


 右手を出した。

 王太子殿下は面白そうに小さく笑い声をたて、わたしの右手をとって、手の甲に口付ける。

「エドゥアルデと申します、聖女さま。一応、王太子なんてものをしています」

 エドゥアルデ……さま、は、手をおろし、わたしの左手を掴んだ。引っ張られるまま、歩く。ランベールさんの不愉快そうな顔が目にはいった。

 エドゥアルデさまはにまにましていた。わたしは転びそうになって、慌てて体勢を立て直す。

「殿下、そう急がずとも」

「はやく王都へおつれしたい。お前にとってもそのほうがよいのじゃないか?」

 からかうような口調だった。ランベールさんを見遣ると、渋い顔で下唇を嚙んでいる。


 歩くのに必死で、景色もなにも解らない。白と金の、お伽話に出てきそうな豪華な馬車が用意されていて、黒っぽい馬が七頭つながれていた。白と金は、〈陽光の王国(スプロ・ルオ)〉王家の色みたいだ。

 エドゥアルデさまはわたしを促し、馬車へおしこむ。なかは、背の高いひとでも立っていられるくらい天井が高く、白いふかふかの座席があった。

 びろうどのはられたそれへ、座らされる。エドゥアルデさまは、当然のようにわたしの左に座り、無遠慮に左手を掴む。

「殿下」

「ランベール、余計な口をはさむものではないよ」

 ランベールさんも這入ってきて、扉が閉まり、馬車が動き始めた。

 エドゥアルデさまは近い距離から、まじまじとわたしを見ている。わたしは、顔を背け、俯いた。

 エドゥアルデさまはわたしの顔へ手を添え、くいと向きをかえさせた。目が合う。

 淡い紫だった。


 かたまる。息が浅くなった。同じ色だったのだ。エーヴェさんと。

 エドゥアルデさんは、するっ、と、わたしの頬を撫でた。指の細い、女性的な手だ。

「ふむ。……悪くはないな。従順なところがいい。聖女というと、なにかとたてついてくるものだと思っていたが……あなたは大人しくて愛らしい。ランベール?」

 エドゥアルデさまは、立ったままのランベールさんを仰ぐ。「本当に彼女で間違いないのか?小鳥のように震えて、こんなに怯えている」

「間違いなく聖女さまです。下位コンバーターで計測すれば明らかでしょう。あれだけ申し上げたのに、急いでロウセット領を出るなどと」

「下位コンバーターは王宮にもある。これ以上ロウセット子爵と話すのは面倒だ。まともに兵も出さぬくせに、策がどうのこうのと。お前が戻るまでに、どれだけ無駄話に付き合ったか解らない。僕に云わせれば、爵位を持つ者が、玉貨だけを寄越せばいいというものではない」

「トゥウェイネ子爵領も王都への途上です」

「ロウセットよりも面倒だ。()()はどこかの戦場に頭の中身を置き忘れてきたらしい。僕とレディーヌの区別もついてはおらんだろうさ。兵も、まともに訓練された者は寄越さぬしな。この間の〈影の左の王国(ルテ・ツァ)〉との小競り合いで、トゥウェイネ軍がどれだけの醜態をさらしたか、忘れてはいまい?」

 ランベールさんは口を噤み、むっとした表情になった。

 エドゥアルデさまは満足そうに頷いて、こちらを見る。わたしはなんとか呼吸する。

「聖女さま。あなたが喜びそうなことを、ご用意できそうです。楽しみに待っていてください」


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