魔法の授業 2
部屋へ戻ると、王太子殿下が呼んでいるとかで、ランベールさんはどこかへ行ってしまった。
おやつの時間だが、断って、授業の続きだ。食べながらなにかできるような器用さがほしい。
「恢復魔法を扱える場合、このような図を見て学ぶのですが……気分が悪くなったら、やめましょう」
ヴァグエット先生は、大判の本をひろげ、わたしが見やすいように上下をかえた。大雑把だが、人体解剖図のようだ。
じっと見詰める。男女ともにあるが、女性のほうはかなり雑だった。
ページをめくる。内臓の絵だ。それから、各部の骨、手足の腱、眼球、歯、鼻など、それなりに細かく描かれている。
黙々とページをめくるわたしに、ヴァグエット先生が心配げに云う。「大丈夫ですか?」
「はい」
安堵の溜め息が聴こえた。多分、こちらだと、こういうのは普通は目にしないのだろう。もとの世界なら保健の授業で見る。それに、なんというかな。禁忌ではない。わたしは、姉のことがあって、そのてのものを普通よりかは多く見てきた。
恢復魔法の為に、覚えておくといい、そうだ。
要するに、内臓や骨の形状や、配置をなんとなくでも覚えていれば、恢復魔法での魔力の消費を抑えられる、ということらしい。まったく知らなくても勿論効果はあるが、魔法をつかった者が疲れるのだ。イメージをしない分、魔力を持っていかれる。
「〈遠く〉のかたは、腑分けの絵に平然としていると聴いていましたが、本当なのですね」
苦手なひとも居るだろうが、わたしは平気だった。何故か、こういうのはこわくない。実際の怪我人を見ると、痛そうで身がすくむけれど。
不思議だけれど、異世界なのに人間の構造は一緒のようだった。少なくとも、なんなのか判断できない内臓はないし、配置ももとの世界の人間と同じように見える。
聖女の血が流れているとか、聖女を王家へ迎えてきたとか、そういう話を聴いていたから、交配は可能なのだなとは思っていたが、それはこちらへ来る時に体がつくりかえられたからかもしれないとも考えていた。
でも、よくよく考えてみれば、わたしのアレルギーはそのままなのだ。ということは、〈器〉が追加されて、髪や目の色がかわるだけ、なのだろう。
歯や眼球が描いてあると云うことは、治せるのだろうか。
訊いてみると、唸り声が返ってきた。
「……場合に拠ります、としか、申せません」
「場合……?」
「ものがあれば……失礼」ヴァグエット先生は咳払いして続ける。「目玉が落ちてしまった場合、目玉が残っていれば、それをもとの通りにするのはできます。例えば、その目玉がかなり損傷していても、容易ではないでしょうが、魔力さえあればなんとか。ですが、目玉そのものが失われてしまった場合は、相当難しい。目玉がどのような形で、どのような内部構造なのかを知らなければ、魔力消費が激しいあまりに気絶することも考えられます。悪くすれば、それが原因で命を落とすでしょう」
成程。完成図があって料理を盛りつけるのと、うっすらした記憶を頼りに料理を盛りつけるのと、できあがりがうろ覚えで材料もないのに一からつくるのとなら、労力は桁違いだ。
でも、完成品も材料も解っていれば、無駄な部分に力を割かなくてすむ。多分、そういうことだろう。




