Episode54 地獄龍との一騎討ち
僕はその龍の姿をはっきりと見たかった。なので、
「光よ、照らせ!イルミネーション!魔術よ、射よ!シューター!」
と唱える。すると、杖先から出た光がソイツの影に向かって飛んでいった。
解放魔法「シューター」。拡散魔法「ロングリーチ」と似た系統の魔法で、別の呪文を唱えたあと、これを唱えることで効果が遠くに届く。一見、2つとも同じ魔法のように思われるが、「ロングリーチ」は変化魔法(対象や術者の状態、あるいは、術者の周りが変化する魔法)にだけ使うことが出来る。一方、「シューター」はすべての魔法に使うことができる。ただし、「ロングリーチ」と違って、魔法が1点に集まるため、エイム力なるものが必要となる。
今回は、紙一重で成功し、影を照らした。紫色の鱗に、白色の腹。その周りからは邪気が漏れている。
「行くぞ!ガイーヌ!」
僕がガイーヌにそう言うと、
「致し方ありませんね。参りましょう。」
という承諾してくれた。
「モーメント!」
僕は瞬間移動魔法を唱え、一気に距離を詰め、剣を振り下ろす。しかし、防がれてしまう。それでも、僕は負けじと剣を降り続けるが、やはり全部防がれてしまう。このままでは、こっちの体力が持たない。そう思った僕は、プライドを捨てて、
「リーセント!」
と唱え、瞬間移動で逃げようとした。が、その途中で、壁のようなものにぶつかり、地面に落とされてしまう。痛っ!心の中で悲鳴をあげていると龍がこちらにやって来て、
「愚か者め、ここからは抜け出せぬ!」
とテレパシーで言った。
そうか...ならば!僕は心の中でそう呟いてから、
「リーセント!」
と唱え、瞬間移動する。途中で、ヤツの足を斬っておいた。だから、龍は膝をつくはずだ。そして、
ドシーン!
と龍は膝をついた。僕は、その瞬間、「リーセント」で結界(おそらく、そうだろう)の壁に瞬間移動し、壁を蹴る。そしてら、もう1度、「リーセント」で瞬間移動。これを繰り返して、ヤツを翻弄していく。やがて、スキが見えたので剣に力をため、高速で龍を斬った。
よっぽどのダメージだったようだ。龍は吹っ飛び、結界の壁に打ち付けられた。それからしばらくして、龍は立ち上がり、
「我をここまで追い詰めるとは...お前は一体何者だ?」
と言ってくる。僕は、
「その台詞は聞きあきたよ。」
と返した。決まったっー!言ってみたかったんだよなぁ...って、おっと、危ない。心の中で、喜んでいると龍は急に突っ込んできた。僕はすかさず横飛びでかわし、ヤツに向かって「魔力解放」。その反動で、距離をとった。
「ほう、『魔力解放』で距離をとったのか...。なかなか、機転がきくではないか。面白い。」
龍は僕の策を正確に分析してくる。敵ながらあっぱれ!などと、思っているとソイツは、
「では、これは防げるかな?」
と言った。
龍はそこから消え、僕の後ろに現れた。そして、僕に噛みついてくる。
「うぐっ!」
「フハハハ...さすがにこれは防げないようだな!」
苦しむ僕に、龍は高らかに笑う。僕は、抜け出そうとするが牙が体に噛み合って抜けられない。むしろ、動けば動くほど、傷口が広がっていく。やがて、手に力が入らなくなり剣と杖を落としてしまった。僕はこのまま死ぬのか...。そう諦めかけた瞬間、奇跡は起こった。なんと、ペンダントから召喚魔石が外れ、地面に落ちたのだ。おかげで、衝撃を受けた魔石の中からブレイズドラゴンが召喚され、この龍から抜け出させてくれた。
それからも、ブレイズドラゴンはあの龍が僕に近づけないように戦ってくれている。僕はその内に、
「傷口よ、癒えよ!ヒール!」
と唱えて、傷口を防ぐ。そして、召喚魔石を手に取る。それから、僕はヤツを倒す方法を必死で考えた。そして、しばらくしてあの言葉が頭に浮かんだのだ。
それは、『進化の泉』で見た、あの説明。あそこには、「清き心を持つ旅人よ。この泉の水を安心して飲むが良い。泉水はお主に力を与えるであろう。また、悪しき心を持つ者よ。この泉の水を飲めべから泉水はお主に罰を与えるであろう。」と書かれていた。つまり、どうにかしてヤツにその水を飲ませれば倒せるかもしれないということだ。そして、その方法はすぐに思い付いた。「ドローイング」で水を引き寄せるのだ。
というわけで、僕は
「ドローイング!」
と唱え、進化の泉を思い浮かべる。
そのころ、例の泉では波がたちはじめ、やがて、空に一部の水が舞い上がった。その水は放物線を描きながら、夜空を行き、雲を掻き分けて、リドナーたちのいるところへたどり着いた。
「フローティング!」
僕はとりあえず、結界の外で静止させる。続いて、結界に出来るだけ大きな穴を開ける。かなり、魔力を使ったが何とか直径5cmほどの穴を開けることが出来た。見ると、ブレイズドラゴンと紫の龍、もとい、ヘルドラゴンが取っ組み合いをしていた。僕は、静止された水を動かし、ヤツに標準を合わせる。それが終わると、チャンスを見計らう。そして、そのときは訪れた。
キュィィィ...!
ヘルドラゴンは口を開けて、力を貯め始めた。その瞬間、僕はブレイズドラゴンを召喚魔石に戻す。さらに、引き寄せた進化の泉の水を、結界の穴を通して、
「くらえ!聖水散布!」
と言って、龍にぶつけた。もちろん、ソイツの口にはその水がたくさん入った。
すると、どうだろう。ヤツの体は上から下へ次々と、石化し始め、やがて、完全な石になったのだ。
やっと、倒した...。その瞬間、力が抜け、僕は召喚魔石を持ったまま、貧血で気を失った。




