表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桜舞い散る頃に…  作者: 彩莉
PR
27/30

本当に嫌な人

今回も長いです。

霰はシダの生まれ変わりじゃないかもしれない。神崎はその仮説を聞いたとき少し驚いた。というのもそれほど似ていたのだ。霰とシダもそうだし、香織とモモも瓜二つだった。

シダの話を聞いて、ふと当時のことを思い出していた。神崎がシダにしたこと、そしてそれと共に、今の分家が霰と香織の家に対し酷い仕打ちをしていたこと。

そして、霰の身に起きていること。今思えばどれも普通ならありえないことばかり経験していた。普通ならこんなに悩むことはないのだ。進路で悩むならともかく、自分たちが今悩んでいるのは、死霊のことなんだから。

そうなると厄介なのはやはりシダだ。最大の脅威であった酒呑童子は本来あるべき場所に還ろうとしている。

だがシダにはどうしてもひっかかる。神崎の手記。シダとレンの真意。もちろん直接対話したわけではないのだから、詳しいことは霰しか存じていないのだが。


「貴様!シダか!何故此処にっ!?」


酒呑童子の声だ。彼は神崎の隣室で休んでいたはず。

「なんや!?何があったんや?」

「シダがいきなり襖を蹴破ってきたんじゃ」

「やっほー!」

倒れた襖の上には裸足のシダがいた。

「なんで君がおるん?霰君を乗っとったんか?」

「いいや、俺自身の身体だ」

後ろにはレンがいた。どうやらレンも自身の身体で存在しているとみえる。

「結界は……」

「他愛もない」

すり抜けてきたようだ。蛟や酒呑童子と同等の力を持っていると考えられる。


「神崎?どうしたの……?」

香織が寝間着のまま、部屋に入ってくる。

「みいつけた」

シダは香織を見てそう呟く。

「あかん、香織ちゃん逃げて!霰君のとこ行って!」

「え?シダ!?と貴方は……?」

「逃がさねえ」

「はよ!」

神崎が相当焦っていることに気づき、霰の部屋に向かって走る。


「どうしてシダが……!?」

あれは間違いなくシダだった。彼がなぜ今の時代に、神崎たちの前に現れたのかはわからない。

ただ、私を見てみつけたと言っていた。

どうして?私が狙われているの?

とにかく、霰に知らせないといけない。

香織は霰の部屋に入る。


「霰!起きて!」

眠たそうに目を擦り、身体を起こす。

「どうした?」

「シダが!私たちの前に現れたの!」

霰の表情は豹変する。

「逃げてって。神崎はそう言ってた」

「鈴たちは?」

「まだ気づいてない、起こしにいこう」

そうして、霰は圭と天真を、香織は鈴と社神を起こしに行く。

「敵襲を受けてるから早く外に出て!」

「んう〜、香織?」

「はやく!」

「鈴はん、ちょっと失礼」

社神は寝ぼけた鈴を抱き上げ、香織と共に境内へ出る。


「圭、天真起きろ!敵が来てる、此処は危険だ」

「敵!?」

圭はがばっと布団を捲り起きる。

「蛟か?」

天真は寝ていなかったようだ。服は寝間着ではなく、ちゃんとした装束だった。

「いいや、違う。それ以上の相手だ。とりあえず出るぞ」

説明は後でする、といって走る。

「天真様!」

「圭!無事でよかった!」

「とりあえずほかは揃ったな、あとは酒呑童子と神崎だ」

圭ら四人は酒呑童子の名前に驚く。

「酒呑童子が言っていた敵か?」

「いいや、色々あってな……」


酒呑童子はもう黄泉へ戻ろうとしていること。敵意はなく、その方法を聞きに来たこと。


「じゃあよ!今攻めてきてんのは誰なんだ?」

「シダってやつだ。簡単にいえば俺の前世で俺か香織か神崎、もしくは全員を狙ってるんだろうな」

何故実体があるのかは霰や香織、いや皆がわからなかった。

そもそもこの状況が有り得ない。シダには実体があるはずなどなく、まして死んだのは周知の事実だったから。

だがもし、あの日鬼門から出てきたのがシダだったなら?コバにでたらめを騙り、鬼門を開けさせたのは妖ではなく、シダだったとしたら?


ここまで予測していたのだうか。かつての死から。


「だとしたら、本物の化物だな」



「神崎ィ、お前いつの間にこんな術覚えたんだ?」

シダとレンは神崎の術により、蔦で縛られ動きをとれずにいた。

「君らが寝てるうちにな」

しかし、その術も時間の問題だった。

「レン、解けそうか?」

「ああ」

「くっそ……!くっそおーっ!」

自身の無力さに苛立ちが募る。このままだと神崎が死ぬだけに留まらず、霰たちの無事も保証できなくなる。自分を頼ってくれていた皆のことを思うと、たまらない。


『代わりなさい。この時代の者が傷つくべきではない』


複雑な心境だった。かつての先祖の再来は喜べるものではなかったが、このタイミングだと少し助かる。

「へっ……腐っても生まれ変わりってわけか。じゃあ頼んだで」

神崎一夜は十代前の神崎と入れ替わる。


「やはり貴方は魑魅だったというわけか」

ぎっと睨み、再び術を唱える。

「くっ、解けない」

レンの様子を見て、シダは神崎と目をかち合わせる。

「ははあ、お前はあんときの神崎だな?」


「貴方は?」

後ろの酒呑童子に神崎は問う。

「おれは見てのとおり鬼や」

「……私と同じくシダに翻弄された者」

その言葉には、後悔が混じっているように聞こえた。

「あいつはなんじゃ、おれにでもわかる。あいつはおれら妖とは違う。もっと異質なものや」

「……妖とは魂を宿した異形。神様だったもの、人間だったもの、物だったものもいるでしょう」

貴方の場合ははじめから鬼だったみたいですね。と付け足して目を閉じる。

「シダは異質なものだと仰りましたね。古の頃より感じていた違和感に気づくことができました」


「長い!もう我慢ならねえ」

シダは術を破壊し、境内へと走り出す。

レンも同様にシダの後ろを走っていく。


「……話の続きは後です。あれはきっと……」

「あの二人を狙ってるんじゃな」

「ええ。とにかく後を追いますよ!」



「とりあえず香織と霰は逃げた方がいいよ!」

「お前らが狙われないわけじゃねえんだぞ」

鈴の意見に霰は半ば反対していた。己の保身に走り仲間を見捨てるのは意に反するからだ。

「いいか、霰君、今君がシダとやらに会うのは一番危ないんだ」

天真は鈴の意見に賛成のようだった。

「わたくしはそんなやわではないですし、圭はんや鈴はん、天真様も護ってみせます」

「でも」

「いいから行けよ!霰!香織まもんのはお前の役目だろ!」


「行こう、霰」

「……絶対後で合流する!」

香織は霰と境内を出た。


「さて、敵をわたくしは直には見てないですけれど、霰はんの前世って言うてはりましたなあ」

「悪いやつなんだろ?顔似てたら戦いにくいな」

「バカ圭!似てたってそんなのより霰の方がかっこいいに決まってるでしょ!」

圭は目を見開く。

「なんだよそれ!お前オレより霰のが好きなんかよ!」

鈴も目を見開く。そして圭にデコピンする。

「ちがうよ!その霰より圭のがかっこいいんだもん」

圭は顔を赤くしてニヤける。鈴は圭の顔に拳をぶつける。

「いてえ」

「これは将来が気になりますなあ」

「尚更皆でここを切り抜けないとな」


「逃げてください!」

神崎の声とともに二人の男が目の前に現れる。神崎とシダだった。


凛とした声、舞うように次々と術式を展開し戦う姿は、見たこともない四人でも、かつての神崎を連想できた。


「もしかしてあれが、シダ……!?」

誰もが目を疑った。似てるどころの話ではない。あれは霰そのものはないか。そう感じずにはいられなかった。

「なぜ逃げなかったんですか!」

「一夜君だけを置いていけないでしょ!」

鈴は震えながらもそう叫ぶ。神崎は緩やかな笑顔を一瞬だけ見せ、シダに大打撃を食らわせる。


「ってて、殺す気かよ……これは封印式か?」

「はなからそのつもりでしたよ。もう貴方の出る幕はない。今度こそ。永遠に」

祓詞を唱え始め、同時に封印の式を展開していく。

「……あのときもお前に殺された」

「その後蘇った貴方に私も殺されました」

「レンや酒呑童子に好き勝手された」

「それは、嘘でしょう?」


「貴方は最初から彼等を利用していた。今もレンを利用しているようですね」

「違う!神崎!お前は俺を私怨で殺そうとしてる!」

「……もう芝居はやめたらどうですか」

「俺はお前らに殺されたんだ!」


目の前で繰り広げられる会話に四人はただ黙って聞き入ることしかできなかった。涙を流して訴えるシダの姿は霰にしか見えなくて、一方神崎は別人のように思える。

シダは危険だと霰が言っていた。これも策なのかと疑い、ここで止めに行ったら思いどおりなのかと考えると、動くこともできなかった。


「オレらはどうすればいいんだ?」

「……わかんない」

「封印できたらおしまいですやろ」

「彼を信じよう」



「やっぱここか」

霰と香織は菜花山の神社にたどり着く。

「ここは思い出の場所だよね」

「天真たちと会ったのはここだったな」

「うん、でも私気を失ってて、よく知らないのよね」

少し笑った。遠慮を含んだ香織の声は儚く、触れれば消えてしまいそうだ。

「シダとコバもここでよく話してたみたいだ」


「私、シダは霰の前世なんだろうなあってずっと思ってた」

暗いせいで香織の表情がわからない。声だけが淡々と聞こえてきた。

「モモのことすごく大切に思ってたんだろうなあ。コバのことも」

「香織」

わかってるよ、と寂しく呟く。

「無関係な人間を巻き込む人なんかが、霰と一緒なわけがないよね」

「……仮説のままだったらよかったのにな」

目の前に現れられては、否が応でも理解してしまう。彼は最悪の仮説通りだったということを。

「私がもしモモの立場で、霰がシダの立場だったら……私はどうしてたんだろ?」

「……そんなん考えたって仕方ないだろ」

「きっと哀しいよ。モモは今のシダを見たくないはず」

「……」

前世でも香織と結ばれていた、そう知ったとき、幸せになっていなかった訳ではない。むしろ嬉しかったし、悲恋になった昔の俺たちの分まで幸せになろうと決意していた。

だが真実は残酷だった。

完璧だと思っていた、仲間想いで恋人想い、皆から慕われていたシダの本当の顔。モモさえ欺いていたのかもしれない。今となっては神崎の身体に風穴を開けたのだって、レンではなくシダ自身がしたのかもしれない。

同情を買い、死してなおモモの気持ちを自分に向けさせ、再びこの世に再臨することを虎視眈々と待っていたのかもしれない。


ただ香織とモモは違う。違うのだ。似てこそいれど、別の人間。霰とシダだってそうだ。実は仮説が少しだけ外れていて、霰は本当にシダの生まれ変わりなのかもしれない。

でも、シダは仲間に手を出した。その時点で仮説がどうであれど、シダは敵だ。


「俺は戦うつもりだ」

同じ魂を持つものが戦えばどうなるのかわからない。オリジナルとコピーの話とは違う。霰にも自我がある。双方壊れてしまっても、香織や皆が助かるならいい。そう考えるのは、未だに独りよがりだからだろうか。

「駄目よ……私はあなたと生きていくって決めてるんだから」

「え?」

「……私は貴方のことが好き」

香織の顔が、少しだけ見えたような気がした。照れ笑い、霰の腕をつかむ。

「香織……」

「だから、戦うなら私も行く」

「それは駄目だ」

シダが狙ってるのはおそらく、香織だ。俺を狙うなら以前接触したときにできたはずだ。

「一緒に行けないなら」

霰をぎゅううっと強く抱きしめる。

「離さないから」

香織の声は震えていた。霰なら簡単に振り払えるのをもうわかっていたから。できれば払いのけないで、ここにいてほしい。圭たちだって霰と香織のためにあの場に残ったのだ。


「香織……」

香織の手の上に手を重ねる。

「わかったよ」

霰の言葉に香織は安心したようで、脈もいつもどおりに戻る。




「お前が俺を殺したからレンが出てきた。酒呑童子にも乗っとられた」

「しぶといですね」

「霰に会わせろ!」

「……いい加減やめてもらいましょうか」

殺気が膨れ上がる。神崎のものか、シダのものなのかはわからなかった。


「香織さんはモモさんではないんですよ」

「ちがう!俺にはわかる!」

「違わないです」

「……神崎、お前はあのときモモの話を聞かなかった」

「……?」

「お前はモモの話を聞かずに俺を殺した。結果村は壊れ、ユウやリコも死んだ。モモの話を聞いていたら、こんなことにはならなかった、違うか?」

モモはあのとき神崎に反対していた。神崎は聞かずにシダを殺し、村は終わった。神崎の所為で。


式が無意識下で緩んでいく。


「非情になれなかったみてえだな。やっぱり、人間だ」

シダは封印式から飛び出す。

「じゃあな」

「しまった!」


神崎を蹴り飛ばす。重い蹴りで起き上がれずにいた。

シダは笑っていた。神崎の感情を揺さぶること。それさえも策だったのだ。


「待ってろよ、モモ」



「化物だ……」





「よお霰!」

「なっシダ!?」

「どうしてここが……!」

「モモ、探したぜ」

香織のもとへ寄ってくる。

「香織逃げろ!」

走りだす。が努力も虚しくシダが香織の肩を掴む。


「モモ……」

「違う!私は香織!」

「知ってるよ」


ぞっとする。シダの顔を見る。おぞましい気配にざらりと舐められる感覚がどうにも耐えられない。

「お前はモモの片割れだ」

「……?」

「昔話をしてやるよ、霰も来い」

香織を人質にとられている今、無闇に抵抗はできない。

大人しくシダのところにやってくる。


「モモの魂は割られた。一つが香織の中にある。もう一つはわかるか?」

二人とも首を横に振る。

「霰、お前の中だよ」

トン、と霰の胸を叩く。

「かわいそうに……魂を割られるなんて」


シダは顔を顰める。てっきり出会った途端殺されると思っていた二人は意外な光景に混乱する。


かわいそう、なんかじゃない


声が聞こえる。これは霰の意識空間で聞こえていた声だ。

「まさか、あの何かっていうのは……」


あられどの、シダのことばにみみをかさないで


「……お前、モモだったんだな。俺を守ってくれてたのも、お前だったんだな」

霰の前で何かはモモの形に変わっていく。

「あの時は、シダとレンがいたから」

「……なあ、お前はやっぱりシダのこと」

「ええ」




「嫌いよ」


「え?」

「私が魂を割ったのは自分でしたこと。シダが後の世で貴方達に接触しにくるのはわかっていた。だから私は貴方達を守るためにそうした」

モモが、シダを嫌っていた?一体いつから?いや、そもそも過去で何があった?


「時間がない。香織も呼ぶから」

そういって間もなく、香織もやってくる。

「ここは……?貴女はモモ!ってことはシダは……?」

「安心して、シダはここに来れないから」


じゃあ、話をするわ。と言ってモモの話は始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ