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私の命終わる日に ――終焉の女騎――  作者: 葉都菜・創作クラブ
第5章 悪夢と悪夢 ――ウロボロス本部――
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第91話 意識の移転

 それは機械にはあるまじき証だった――。


「えっ、なんで機械から血が!?」


 ブリュンヒルデの振り下ろした刀は、新手の軍用兵器の外装を斬り裂いた。そこから噴き出したのは血だった。本来は人間やクローン、サキュバスにしか流れないその液体が、機械から流れ出す。


「は、ははは! ちゃんと殺して上げるよ……」


 壊れた笑みを浮かべ、ブリュンヒルデは血まみれの刀を捨てる。両手に重力魔法を纏い、壊れかかった外装に拳を叩き込む。重力波も手伝い、外装は木っ端みじんに吹き飛ばす。ブリュンヒルデ自身も反動で弾かれる。

 私は外装の下を呆然と見ていた。ぞっとした。気持ちの悪い何かが背筋を走った。パトラーは口元を抑え、その場に座り込む。


「処刑は、処刑は私の、任務なんだ。任務を遂行すること、私の――」


 ブリュンヒルデは何かを口ずさみながら刀を拾い上げる。あまりにひどい軍用兵器へと足を進める。彼女はこれを知っていたのか? 失われた任務。その作戦に彼女は参加していたんだろうか。

 考えるまでもないか。壊れたブリュンヒルデの行動。男のセリフと、このタイミングでこの軍用兵器を登場させたこと。――否定する理由はない。


「フィ、フィルドさん……」

「連合政府らしいな」


 外装の下には、手足と下半身を切り取られたFクローンたちが埋め込まれていた。僅かながらに動き、泣いている者がいるところを見ると、まだ生きているのだろう。

 さっきの中型軍用兵器もそうだが、Fクローンを利用した軍用兵器は確かに強力なんだろう。有している強力なマナは、魔法発生装置のそれとは比べ物にならない。


「し、死にたく……」

「……た、けて」


 エネルギー量でいえば、これほど優れた軍用兵器も少ない。だから、非情な連合政府は造り出したんだろう。――クリスター政府を倒すためだけに。

 ブリュンヒルデは半死半生状態のFクローンたちを笑いながら殺していく。返り血が彼女の白い服を汚していく。悲鳴が上がり続ける。


「私はクローンを殺すことが、生きがいなんだ。ふふふッ……!」

「ブリュンヒルデ、もうやめろ……。もう――」

「あぁ、ミズカぁ……!」


 壊れて動かない軍用兵器と自分の身体を血まみれにしたブリュンヒルデは、死んだクローンから刀を抜き取る。そして、ミズカの側で倒れている六脚歩行の軍用兵器に近づくと、死んだ上半身の左腕を持ち上げて根元から斬り取る。


「ミズカぁ、知ってるだろう……? 私たちクローンは――」

「な、何するんだ、やめるんだっ、ブリュンヒルデ」


 ミズカの左腕を手に取り、無理やり引っ張る。ミズカの水魔法で生成された左腕は簡単に取れ、水に戻っていく。

 ブリュンヒルデはミズカを抱きしめながら、切り取ったFクローンの左腕を左肩に近づける。斬り口同士を押し当てる。


「――他人の身体で治癒できるんだ」

「やめッ、……ブリュンヒルデっ」


 ブリュンヒルデは懐から試験官を取り出す。緑色に光る液体が入った試験官だ。最初、ヒュンドラに使おうとしたヤツだ。

 彼女はコルクを口で開けると、泣いているミズカをよそに接合部分に液体を垂らす。傷口から煙が上がる。ミズカに激痛が走ったのか彼女の身体が暴れようとする。それをブリュンヒルデが抑え込む。


「ど、どうだ? よくなっただろう? 私たちは替えが効いて、便利だなぁ。ははははっ」

「ブリュンヒルデ、俺のせいだっ……。俺たちのせいで、こんなことにっ……」


 ミズカは接合された左手と元からある右手で顔を覆って泣き出す。ブリュンヒルデはそんな彼女のことを気にもかけず笑いながら立ち上がる。


[EF2016年10月。クリスター政府は連合政府打倒を目指し、イノベーション・フウカを筆頭とするIクローン部隊をシリオード東に派遣した。任務は新型兵器の破壊。彼女たちは任務に失敗し、ブリュンヒルデは壊れた]

「お前たちが壊したんだろう?」

[違うな。その任務も、結果も全てはクリスター政府にて仕組まれたもの。ヴァルキュリア・ブリュンヒルデは計画通り“壊されたのだ”]

「はッ……」


 いくらクラスタが頭のおかしい女だとはいえ、さすがにそこまで狂気的な計画はしないだろう。……というか、そうでないと今度は元盟友のパトラーが壊れてしまいそうだ。結局はクラスタの頭の中か。

 私は、自分の左手と右腕に代わる身体を探しているのか、死んだクローンの身体を品定めしているブリュンヒルデの方を向く。


「フィルドさん……?」

「やったことはないが、ブリュンヒルデを直してくる。――パトラー、私の意識を、ブリュンヒルデの心に移転して欲しい」

「…………!? そ、そんなこと、危険すぎます!」


 パトラーは拒否する。当たり前だ。空間魔法の応用である『意識の移転』は、危険極まりない魔法だ。相手の心に意識を潜り込ませる。失敗すれば、相手に意識を奪われ、破壊される。私の身体はただの抜け殻になるだろう。

 だが、今のブリュンヒルデを治すには、彼女の心に入り込むしかない。壊れた心を治し、自分の身体に戻る。


「あのままじゃ、ホノカやボルカ、ヒュンドラに顔向けできない。やってくれないなら、私は――ブリュンヒルデを殺す」

「…………!」

「今の壊れたブリュンヒルデを帝国に返して、思うがままに政策を実行させるワケにはいかないからな」

「…………ッ! 分かりました。でも、約束してください。――必ず帰ってくると」


 私は柔らかい笑みを浮かべて了解の意を示す。パトラーは私とブリュンヒルデに手をかざす。双方に青色の魔方陣が展開される。


[成功確率は低いぞ?]

「お前の計算が破たんする経験をさせてやる」

[楽しみにしているよ……]


 私は目を閉じる。その瞬間、私の意識は壊れたブリュンヒルデの中へと飛んだ――。

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