第73話 調査記録6*中枢施設にて
【廃都グリードシティ 中央市街地 セントラルタワー】
ブリュンヒルデさんをヒエカさんとアクアさんに預けた私は、傭兵アジトから離れたセントラルタワーに来ていた。
セントラルタワーは元老院議事堂の中心に設けられた行政系中枢施設だ。国際政府という巨大な統治機構の要。長らく国際政府代表の地位に君臨し、独裁国家へと変貌させたマグフェルト=パトフォーの居城ともいえる。
「栄華を誇ったセントラルタワーも、今は消えゆく廃墟かぁ……」
私はセントラルタワー内を見て回りながら呟く。
廃墟といっても市街地に比べればマシな方だ。過去2回、大きな戦いに巻き込まれた市街地に比べ、セントラルタワーは攻撃らしい攻撃はそれほど受けていない。加えてエターナル・ウォプルが周辺を覆っていたため、傭兵たちによる侵入も受けて来なかった。建物自体も高い場所にあり、ゼリーの浸蝕も少ない。
『……EF2011年、予定通り大戦(以後、「ラグナロク大戦」と称する)を勃発させることに成功。国際政府内で政府代表の権限強化を求める声が上がり始める。Fクローンを使った人体実験も順調』
私はセントラルタワー上階――政府代表オフィスで見つけたデータ・ファイルを左腕に装備した小型端末に入れ、中身を確認していた。
たぶん、ここは国際政府滅亡以後、一度も調査されなかったのだろう。並べられたデスクには途中まで書かれた文章が無造作に置かれていた。小型コンピューターも置かれている。側には何らかの資料。入力途中で作業者が逃げ出したのかな。
『政府代表マグフェルト 殿
返答が遅れ申し訳ない。先日依頼された法案に対し、「エコノミーズ」の対応は賛成とする方針を固めた。ご存知の通り、議会は過半数を「エコノミーズ」で握っているため、否決の可能性はない。ただ、院内会派「ソーシャル」と「ファンタジア」は反対する方針を決めている。世論にも反発の動きあり、審議時間は250時間程度を目安にするべきであると考える。――トーテム元老院議員』
私は魔法発生装置を使い、コンピューター内にあるデータを自分の小型端末に落としていく。政府代表オフィスだけあって、政務に関するものが多い。
歴史的な価値、後世に対する資料としては価値のあるものなんだろうけど、私が欲しいのはこういう情報じゃない。もっと、こうラグナディス計画に関するものがあればいいんだけど……。
『政府総統マグフェルト 殿
政府内で総統に次ぐ権限を有する「政府代表代行」であるライト=オイジュスが、貴殿の政策に反発している。一部からは閣内野党と呼ばれ、与党会派からは閣内不一致を理由に、フェスターらに政治的攻撃の隙を与えていると不満の声がある。
マグフェルト政権をより盤石にするべく、ライト=オイジュス政府代表代行を罷免するべきであると私は考える。特に娘のパトラー=オイジュスは私たちに明らかな敵意を持っている。早急に検討して頂きたい。――トーテム元老院議員』
私はガラスのない窓から差し込む光の下で、左腕から発せられるスクリーン映像に目を通していた。全部、ここで手に入れたファイルだ。
ライト=オイジュス。パトラーさんの父親だ。ラグナロク大戦の末期に連合政府に殺害された男性。彼女の前で彼は死んだと聞いている。相当つらい体験だっただろうな……。
“それ”を私が見つけたのは、陽の光が廃墟都市の地平線に消えようとした時だった。
『パトフォー 殿
【極秘】ネオ・ヒーラーズに関する報告
本報告書は、ビリオン=レナトゥスの調査による報告書である。本資料に関する取り扱いは、レベルS+とし、細心の注意を払って頂きたい。※確認後、要破棄。
詳細:先日、ネオ・ヒーラーズを名乗る組織が、シリオード大陸にて独立を宣言した。我々は本組織について調査を行ったが、想定以上に、「我らに対して問題を有する組織」であると結論付けた。
ネオ・ヒーラーズは、最高評議会と呼ばれる12名のFクローンたちによって支配されるFクローンの軍事組織である。だが、技術力に関しては、連合政府として培ったFクローン技術を、100%の形で有しており、それらは我らビリオン=レナトゥスに匹敵するほどである。
そして、さらにやっかいなことに、『女神ハトナーン』の存在にも気づいており、そちら方面の研究にも手を出し始めている。
パトフォー閣下、急ぎネオ・ヒーラーズを始末すべきである。この組織を放置することは、後年、パトラーやクラスタ以上の極めて困難な敵になると考えられる。
――神議会ローリング』
私は他の情報を集めようと立ち上がる。だけど、――
「その文章、彼が見ることはなかった」
「なっ!?」
私はその場から素早く離れる。横に飛び、物の散乱した床に手をつき、しなやかに身体を回転させながら、再び床に足を付ける。
「メールが届く前日、パトフォーは遠地での戦闘で重傷を負い、そのまま彼方の諸島に逃げた。つまり、そのメールのあるセントラルタワーに彼が戻ってくることはなかった」
暗闇で1つの影が動いている。……横向きの姿だ。胸のふくらみ。女だ。でも、声は男の声。なんとなくだけど、魔法で声を偽装していることが分かった。声を偽装するということは、私の知っている人物か若しくは世界的に名の通った人間なんだろう。
「後継の国際政府代表や、侵略者のクラスタはその存在にすら気づかなかった。だから、もう彼女たちの“計画”は成就寸前」
「な、なにを言っているんですか!?」
私は魔法で姿を消し、腰に装備していた剣を抜き取って構える。相手もゆっくりと歩いている。武器を持っている感じはしない。
「コミット、世界の運命は定められているものだが、チャンスを与えよう。――私を殺せ。そうすれば、ヴァルハラの惨劇も避けられるだろう」
「…………!?」
影の女がにやりと笑っているのが何となく分かった。言い方からしてヴァルハラの惨劇とやらは、これから起こることなんだろう。
「……あなたをヴァルハラ帝国に対する脅威と認定。連行します」
「ふふっ、できるかな?」
私は影の女に向かって音もたてずに飛ぶ。姿を消し、音を消す。それが私の能力だ。あなたは私のことを知らなさすぎだっ――!




