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第72話 破棄された記録*精神崩壊

[おのれ、クラスタ……! パトラー=オイジュスを送り込んでくると予測していたが、……クソッ!]


 完全に焦っている男は、画面の向こうで何かを操作する。すると、この部屋の天井の一部が開かれ、数体の何かが降ってくる。


「……えっ?」


 私の背筋に冷たいモノが走る。端末が強く反応している。任務Fの目標だと一生懸命告げている。だが、その音は氷の刃のように私の心を貫いていく。


「無駄なことを。私たちが殺せないとでも?」

「でも、最低ねーっ!」

「無駄。俺たちはパトラーとは違う」


 降って来たのは、あの大型兵器と同じく新型の兵器。だが、その姿は異様だった。六足歩行をする下半身は機械そのもの。だが、裸の上半身は人間――それもFクローンだった。下腹部から下は切り取られ機械を取り付けられたかのようだ。


「あっ、あぁっ、助け、痛いよ、痛いよっ……!」

[バトル=ゼータ、奴らを殺せ!]

「苦しいよぉ、痛いよぉ!」


 泣き叫ぶ上半身とは裏腹に下半身の方は何の迷いもなく走ってくる。おぞましい怪物が私たちの前に立つと、自身の前に魔法陣を展開し、そこから大量の火炎弾を飛ばす。私たちは慣れた動きで炎を纏った魔法弾を避ける。

 だが、避けられないもの、道具を使わなければ防ぎようのないものがあった。


「いやあぁあぁっ!! やめてぇえぇっ!!!」


 魔法を繰り出すFクローンの悲鳴。そもそも、魔法陣を展開し、あれだけ大量の火炎弾を撃つなんて、身体にかかる負担は尋常じゃないだろう。通常のFクローンにはとてもなせる技じゃない。

 機械の下半身が激しく動いて私とフウカ将軍を追ってくる。上半身は振り回されてるに等しかった。……よく見れば、身体と機械の接続部分から僅かに血が噴き出ている!


「あらあら、即席型の兵器みたいね。この戦いが終わる頃には死んでもいいって感じね」

「なんだとっ……!?」


 れ、連合政府はこんなことまでするのか!? いくら勝つためだとは言え、やりすぎだ! クリスター政府が逃亡したVクローンを始末するのとはワケが違う!


「殺さないでぇぇえっ!!」

「ダメでーす」

「…………!?」


 ホノカが真っ赤に燃える刃で、上半身の左胸を正面から貫く。そこにいつもの笑顔はない。傷だらけの背中から鮮血と共に刃が飛び出す。クローンは動きを止め、壁に叩き付けられる。彼女の冷たい瞳が死にゆくクローンを捉えていた。


「な、何してんだ!? 私たちの任務はクローンの救助と新型兵器の破壊じゃないか!」

「無理。もう助けようがない」

「まだ意識あるじゃないか!」

「ダメ。すぐ死にますから。だから、早く楽にした方がいい」


 ボルカが槍で水撃弾を撃ち消しながら残酷なことを口にした。彼女は槍を投げ、飛び込んできたクローンの頭を貫く。機械と一体になった大きな身体が、私とフウカの間に落ちてくる。クローンの血が私の頬を汚す。


「そ、そんなっ……!」

「ミズカ、あなたは大型兵器を始末しなさい」

「任せろ」

「ボルカ、ホノカ。あなたたちは群がる小型兵器を。終わり次第、大型兵器を片付け任務を遂行しなさい」

「了解です。……というワケでみなさん、今日死にまーすっ!」


 フウカがIクローンたちに命令を下していく。そこには、もはや彼女たち可哀そうなFクローンを助けるというものは含まれていなかった。

 私はその場で膝をつく。力が身体から抜けていく。涙が堰を切ったように溢れ出る。そんな私に構わず、ミズカたちは任務を忠実に遂行し始める。


「やめろ……」


 私はミズカたちの凶行を、ぼやける視界に入れながら震える声で言う。――あの惨劇を止めろ。私の壊れかかった心が、しきりに叫んでいる。


「新型兵器って大したことないねーっ!」

「邪悪。それだけは言える。だが、もう終わりだ」


 ミズカが刀を手に、大型の機械を斬り付ける。黒い機械から赤い血がほとばしる。血はミズカの身体を紅に染める。


「やめろ!」


 ミズカに続き、ボルカが電気の槍で機械を貫く。突き出た槍の先端は真っ赤に染まっていた。噴き出た血が、鋼の床と壁を染める。


「まだ彼女たちは生きいるんだぞ! 意識だってあるのに!!」


 ホノカが炎を纏った剣で大型機械に刃を叩き込む。噴き出た鮮血が宙を舞う。まるで生き物を剣で斬り付けたときと同じだった。


「やめろ、やめろ……、なんでこんなこと……!」


 フウカが彼女たちを止めようと飛び出した私の身体を後ろから押さえつける。フウカの表情は見えていないのに、冷たい顔をしているのが分かった。

 ミズカが、ボルカが、ホノカが、大型機械兵士を傷つけ続ける。おぞましい光景だった。噴き出し続ける血。クローンたちの泣き叫ぶ声。苦しみを訴える声。彼女たちの声が、私の心を壊していく。


「あ、あ、あんまりだ……! わ、私たちが、私たちが、なにをしたんだ……! 私たちだって、あぁ、あ……、私たちだって、――」

「……クローンなんて、所詮は道具でしかないのよ。クリスター政府も連合政府も同じよ」


 フウカの冷えた声が私の心を侵食したとき、私の中で何かが折れた。私は意味不明な言葉を叫びながら、フウカを衝撃波で弾き飛ばし、半壊になった血染めの新型兵器に向かって飛ぶ。


「あああああああっ!!」


 私は刀に重力波を纏い、瀕死の機械を一刀両断した。連合政府の誇る新型兵器は大量の血をほとばしらせながら2つに分かれる。

 分かれた斬れ目から真っ赤な身体がいくつも転がる。どれも上半身だけだった。下半身は無数の管に変わっていた。大型機械から出て来た上半身だけの存在は血の海の中でうめき声を上げながらのたうち回る。


「ふ、ふふッ、ハハ、ははははっ! は、はははははッ!!」


 私は壊れた機械のように笑い声を上げながら、血の海で蠢く数十もの上半身を刀で刺していく。一生懸命動く何かは次々と命を失う。


「お、おい、ブリュンヒルデっ……!」

「な、なにしてんのよ!」

「ブリュンヒルデ中将っ!?」


 ミズカが、ホノカが、ボルカが、私の後ろで何か言っている。うるさい。私は――


「こ、これは私の任務なんだ。ク、クラスタさんから与えられた、任務。任務なんだ。いなくなったクローンを殺す。それが、それが私の、任務。任務なんだ! 生きる意味なんだ! 私はクローンを殺すことだけが生きがいで!」

「……クラスタ政府代表、やはりヴァルキュリア・ブリュンヒルデは深刻なエラーを起こしています」

[エラーだと? ど、どういうことだ!?]

「クラ…タせーふだいひょ? ……うふふ、クラスタさん、私、やりましたよ! 今、苦しんでるクローンを、こうやって、殺して助けて上げてて!!」

[なっ!!? ブリュンヒルデ、お前何して――]

「クラスタさぁん! クラスタさぁぁん!! あははははははは!!!」


 誰かが泣きながら笑い声を上げる。誰かが惨劇を終わらせようと狂う。そして、誰かが己の心を壊して己を守った――。



















「どうしてっ……。私の“唯一の弟子”がこんなことにっ……!」

「クラスタ政府代表、申し訳御座いません……。お預かりしたあなたの弟子を、ヴァルキュリア・ブリュンヒルデを守れず……」


 どこかで誰かが会話をしている。誰だ? ここはどこだ? 私は何をしていたんだ?


「いや、悪いのは連合政府を操っていた「ビリオン=レナトゥス」だ。彼らの精神攻撃さえなければ、ブリュンヒルデは――」

「このことの責任は私にあります。敵の攻撃に気付けず、仲間を守れなかったのは私です」

「フウカ何も言うな。後は私に任せろ。私は――シリオードへ軍を率いて向かう。このままビリオン=レナトゥスを野放しには出来ない」

「……分かりました。首都防衛は私たち第12兵団が担います」

「頼んだ。ブリュンヒルデのこともな」

「はい。……必ず戻ってきてくださいね」


 私はすぐ側で行われる会話を目を閉じたまま耳にしていた。何も分からない。記憶が勝手に手から抜け落ちていくようだ。集めて纏めようにもどうしても出来ない。私はどこで何をしていたんだ……?

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