第70話 調査記録4*再会
赤い靄のかかった世界。私の前に対峙するのは大型の軍用兵器。黒地の戦闘兵器。――連合政府の残党が製造した兵器だ。
「……フウカ将軍、任務の目標個体――ターゲットです」
私は背中に装備した二振りの刀を抜き取りながら、側にいた白地に青いラインが入った軍服を待つフウカ将軍に報告する。形式的なものだ。フウカ将軍だって分かっているハズだ。この軍用兵器が、新型の兵器であることぐらい。
「あらあら、可愛さのカケラもない機械ね」
「俺に任せろ。あんな機械、数秒で片付けてやる」
ミズカが白地に青いラインが入った和傘を手に、今すぐにでも戦いを始めそうな雰囲気で言う。声さえは出さなかったが、ボルカやホノカも同じだ。
だが、私は違った。私は左腕に付けた小型端末から発せられる映像に目を落としていた。……あり得ない。機械の故障か?
「フウカ将軍、あのっ……。…………」
「どうしたの?」
「任務Gの目標個体から、任務Fのターゲット反応が多数あります。恐らく、機械の故障かと思いますが……」
「そう……。ミズカ、ボルカ、ホノカ。――任務Gを遂行しなさい」
「おっけーっ!」
「了解!」
「俺だけで十分だ」
3人のIクローンが任務開始の返答をする。ミズカが刀を、ボルカが槍を、ホノカが剣を手に新型軍用兵器に対して戦いを始める。
[しょ、正気か貴様ら……! フウカ、お前が知らんハズではないだろう!]
「ええ、知ってるわ。クラスタちゃんから教えてもらったのだもの。情報を意図的に流し、私たちの手を出させないようにしたのでしょう?」
「えっ、えっ?」
私はフウカ将軍が何を言っているのか理解できなかった。部屋の一角に投影されるスクリーンの男が言っていることの意味も分からなかった。
[おのれ、クラスタ……! パトラー=オイジュスを送り込んでくると予測していたが、……クソッ!]
完全に焦っている男は、画面の向こうで何かを操作する。すると、この部屋の天井の一部が開かれ、数体の何かが降ってくる。
「……えっ?」
私の背筋に冷たいモノが走る。端末が強く反応している。任務Fの目標だと一生懸命告げている。だが、その音は氷の刃のように私の心を貫いていく。
「無駄な……、私たちが――」
「――――!」
「……パトラ、とは――」
誰かが泣き叫んでいる。
「ミズカ、――」
「今日死に、ーすっ!」
私はその場に倒れる。涙が堰を切ったように溢れ出る。
「やめろ……」
私はミズカたちの凶行を、ぼやける視界に入れながら震える声で言う。――あの惨劇を止めろ。私の壊れかかった心が、しきりに叫んでいる。
「新型兵器って大したことないねーっ!」
「邪悪。それだけは言える。だが、もう終わりだ」
ミズカが刀を手に、大型の機械を斬り付ける。黒い機械から赤い血がほとばしる。血はミズカの身体を紅に染める。
「やめろ!」
ミズカに続き、ボルカが電気の槍で機械を貫く。突き出た槍の先端は真っ赤に染まっていた。噴き出た血が、鋼の床と壁を染める。
「まだ彼女たちは――!」
ホノカが炎を纏った剣で大型機械に刃を叩き込む。噴き出た鮮血が宙を舞う。まるで生き物を剣で斬り付けたときと同じだった。
「やめろ、やめろ……、なんでこんなこと……!」
フウカが彼女たちを止めようと飛び出した私の身体を後ろから押さえつける。フウカの表情は見えていないのに、冷たい顔をしているのが分かった。
ミズカが、ボルカが、ホノカが、大型機械兵士を傷つけ続ける。おぞましい光景だった。噴き出し続ける血。クローンたちの泣き叫ぶ声。苦しみを訴える声。彼女たちの声が、私の心を壊していく。
「あ、あ、あんまりだ……! わ、私たちが、私たちが、なにをしたんだ……! 私たちだって、あぁ、あ……、私たちだって、――」
「……クローンなんて、所詮は道具でしかないのよ。クリスター政府も連合政府も同じよ」
フウカの冷えた声が私の心を侵食したとき、私の中で何かが折れた。私は意味不明な言葉を叫びながら、フウカを衝撃波で弾き飛ばし、半壊になった血染めの新型兵器に向かって飛ぶ。
誰かが泣きながら笑い声を上げる。誰かが惨劇を終わらせようと狂う。そして、誰かが己の心を壊して己を守った――。
*
【廃都グリードシティ 中部市街地】
「…………」
ゆっくりと目を開けた私の視界に映るのは、所々破れた小汚い布の天井。……ここはテントの下か。私が横たわっているのは、寝心地の悪いベッド。軍が使う簡易ベッドだろう。
それにしても、私はここで何をしている? 確か、コミットと一緒にアレイシア城を出て、この廃墟で機械の兵士と戦い、それから……エターナル・ウォプルと対峙した。隕石を落としたところまでは覚えているが……。
「目覚めた?」
「あ、ああ。ここは……。…………!」
私はベッドの側にある椅子に腰かける女の姿を見て言葉が止まる。海でもないのに白いビキニを付けるFクローン。私は彼女を知っている。
「こんなところまで来て、どうなさったんですか? ――誰か探しに来ましたか?」
「……ああ、そうだ。――ヒエカ、お前を探してここまで来たんだ」
私は何食わぬ顔で本に目を通しているFクローン――ヴァルハラ帝国一般将軍の一角でもあるイノベーション・ヒエカに言った。




