第69話 調査記録3*傭兵の助け
「そんな……!」
「な、なんだと……!?」
身体の多くを失い、その体面積を半分以下にまで縮めたエターナル・ウォプル。それでも生きているには変わりない。
私は、体面積ですらゼリー・モンスター最強の称号を失ったに等しいエターナル・ウォプルに、もう一度勝負を挑もうとする。あの大きさ、すでに下位種のウォガプル以下だ。あと少しで倒せるハズだ!
「こ、皇帝陛下!?」
「も、もう一度……!」
私の身体も限界みたいだ。クラスタとの決闘で身体の多くを機械で補う私は、もう昔みたいに何度も隕石を落とすことは出来ない。一度落とすと、機械部分の再充電が必要だった。充電の終わらぬうちに戦いを始めれば最悪の場合、死――!
だが、今そんな時間はない。私がここで戦いをやめれば迫ってきている怪物は私とコミットを殺すだろう。私だけじゃなく、コミットも死ぬことになる。
「下がっていろ、コミット。――ラグナロク魔法でケリをつける」
「も、もうやめてください! そんなことしたら、――」
「お前だけでも逃げ延びろ――!」
泣きそうなコミットから走って離れ、ふらふらになりながら進むエターナル・ウォプルに戦いを挑む。走りながら、私は黒い闇の魔法――ラグナロク魔法を纏う。ラグナロク魔法は強力な破壊魔法。これなら相手の耐性を打ち破れるハズだ!
「さ、さぁ、来い! お前の命も今日で終わりだ! ハ、ハハ! くッ……!」
心に闇が忍び寄る。邪悪な破壊衝動が精神を汚染し、憎しみが宿る。アイツを壊したい、傷付けたい、殺したい。
私はエターナル・ウォプルを斬り上げる。私の身長の何倍もあるゼリーの塊が、空に浮き上がる。私は追いかけるようにして、飛び上がる。空中に浮いたゼリーの魔物を素早く何度も斬り付ける。
――あぁ、そうだ。こうやって殺すんだ。後で同じように“彼女”も殺すんだ。それが“私の任務”。そのために来たんだろう?
私はエターナル・ウォプルの脳天に刀を振り下ろす。ゼリーの身体は液体をほとばしらせながら、地面に叩き落される。私は両手で1本の刀を握り、刃を真下に向ける。
「いやだぁあ! 死にたくないよぉお!!」
「――――!」
私は容赦なく彼女の腹を貫く。真っ赤な血が背中から飛び散る――。
エターナル・ウォプルが大きな手で私を弾き飛ばす。私は地面に数度身体を叩き付けられながら瓦礫に背をぶつけて止まる。
すぐに立ち上がる。こんなところで遊んでいるヒマはない。私は“任務を遂行しなければならない”。お前なんかに構っているヒマはないんだ!
「次で殺す……!」
私は地面に転がった刀を拾い上げ、再びゼリーの怪物の元へと走っていく。だが、数歩走ったところで身体から力が抜ける。口から真っ赤な血を軽く噴く。
「私が恋人と一緒に生きることは、そんなにダメなことですか……?」
私は口から血を流し、頬に涙を伝わせるFクローンを見下ろしていた。彼女の身体には深々と斬り傷が入っていた。
「誰も好きでVクローンとして生まれたワケちゃうわ……。なんであたしらばかり……」
私は両足を失い、おびただしい量の血だまりにいるFクローンを見下ろしていた。側に彼女のものと思わしき脚が転がっている。
「お外、見たかったなぁ……。いいなぁ、ブリュンヒルデちゃんは……」
私は薄暗い部屋で、まだ幼いFクローンの少女を見下ろしていた。その部屋は真っ赤な液体が飛び散り、修羅場と化していた。
私は口から垂れる血をぬぐいもせず、ぼーっと膝をついて地面を見ていた。体制を立て直したエターナル・ウォプルが動き始めている。
「任務を、任務…、任務遂行こそ、……任務は私の全て、イエッサー、私は、任務を完遂し、――クラスタさん」
「ブリュンヒルデ皇帝、いますぐ下がってください!!」
「……コミットしょ、ぐん?」
私はコミット将軍の呼びかけで、はっと我に返る。落ちていた刀を手に取り、“コミット将軍”のいる場所まで飛んで下がる。な、なにしてたんだ私は……!?
「もう限界です。ここは下がりましょう」
「イ、イエッサー!」
「……えっ?」
私を先導して走り出そうとしたコミット将軍が立ち止まり、ぎょっとしたような顔で私を振り返る。
「い、今なんておっしゃいましたか?」
「…………? い、いや何も……。何かありましたか? ――コミット将軍」
「…………!!?」
私が「コミット将軍」と“申し上げた”瞬間、彼女は愕然としたような表情を浮かべる。何か恐ろしいものを見ている顔だ。コミット将軍はどうなさったんだ……?
そのとき、迫りくるエターナル・ウォプルの後ろから誰かが走ってくる。青いフードを被った3人の人間だ。
「――リーダー!」
「了解!」
先頭を走っていた女が、地面を蹴って宙に飛び上がる。空から数発の薄青の魔法弾を飛ばす。魔法弾はゼリーの怪物に着弾すると、その身体を凍らせ固める。そして、後に続く2人が剣で大型のゼリー・モンスターを斬り壊していく。対して大きくもない怪物は、あっという間にバラバラにされていく。
「見事です、――ヒエカさん!」
「…………!?」
だが、私の意識は別のところにあった。突然現れたフードの女が口にした名前に気を捉われていた。――ヒエカだ。
「ヒエカ、ヒエカ……? ヒ、エカ……??」
「ブ、ブリュンヒルデ、さん?」
「ヒエカ、氷……、…………?」
私の思い起こす記憶が無茶苦茶に入り乱れる。纏めようにも、記憶は波のごとく押し寄せ、思考を飲み込んでいく。私は地面に頭を打ち付けて寝転がる。自分でも何をしているのか、これがどういうことなのかも分からなかった。意識を失う直前に呟いた言葉の意味も分からなかった
「――ごめんっ、なさい……」




