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私の命終わる日に ――終焉の女騎――  作者: 葉都菜・創作クラブ
第4-1章 幻想の終わり ――ファンタジア遺跡――
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第55話 半怪物の中将

 【サキュバス城 メイン・ホール】


 サキュバス城に侵入してすぐのことだった。出入り口で待ち構えていたのは、紺色をした身体を持つクローン兵だった。腕の先――手に当たる部分は薄い翼になっている。もはやクローン兵としての面影は頭部だけだ。


「きゃははははっ、珍しい客人じゃないかぁ! 私は神聖レナトゥスのぉ、コキュートス中将! 予定外だが、見逃すワケにもいくまいてぇ!」


 ひたすら笑みを浮かべて話すコキュートス。ずっと笑みを浮かべているのはヴァルキュリア・フレイヤも同じだけど彼女とは明らかに笑みのタイプが違う。コイツ、たぶん狂ってる。


「こいつ、バケモノじゃねーかよ。どうなってんだ?」

「……あいつ、サイエンネット・モンスターに似てる」

「サイエンネット・モンスター? なんだそれ?」

「サイエンネット・ウィルスという人工のウィルスに適合しなかった者は、モンスター化するんだ。それがサイエンネット・モンスター。姿は……コキュートスと似ている。でも彼女は――」


 サイエンネット・ウィルスは連合政府が開発した人間に力を与える人工のウィルスだ。適合した人間は、魔法を操れるようになる。その反面、適合しなければサイエンネット・モンスターという怪物と化す。

 サイエンネット・モンスターに知性や自我はない。言葉を話すこともなければ、常に生き物を攻撃するだけだ。なのに、あのコキュートスは違う。多少、壊れてるけど、明らかに理性を有している。


「なぁ、分かるかぁ!? 私は今さ、喜んでんだよぉ! サイエンネット・モンスターとしての本能が叫んでんだぁ生き物を殺せってなぁ! 溢れんばかりの力のせいだろうなぁこれさぁ! でも、そんなことしたらグレイシアがキレるだろぉ!?」


 コキュートスの後ろに控えるスーツ姿のクローンたちは怯え切っている。中には泣いているクローンもいた。ずっと、コキュートスの狂気を味わっていたんだろう。いつ暴走を始め、襲い掛かってくる分からない半怪物と一緒だったんだ。無理もない。


「だから、我慢してたんだぁそこへ貴様らが来て合法的に殺せるってことだぁ今すぐ殺り合おうじゃねぇかぁ!!」


 破壊衝動を抑えきれなくなったのか、かなりの早口になるコキュートス。後半は何を言っているのかよく分からなかったけど、彼女から発せられる狂気が、戦闘の始まりを表していた。


「ま、怪物相手だろうが、あたしらが負けるワケねーだろ? こいよ、怪物」

「きゃはははは!!」


 ヒルドは戦う気満々らしく、真っ先に走って行く。私もサブマシンガンを手に後に続く。だが、私たちの足はすぐに止まった。コキュートスはその場で小さな円を描くように激しく飛び始める。彼女の動きに合わせて、白い風が竜巻のようにとぐろを巻いていく。


「きゃーっはっはっはっはっ!!」


 白い風の中でコキュートスの姿が見えなくなると同時に、彼女の姿が天井付近に現れ、何らかの波動を広いメイン・ホール内全域に飛ばす。明かりが消え、部屋全体に氷色の空気が充満する。部屋が不気味な薄暗い青い光に包まれる。そして、温度が急速に下がり出す。まるで極寒の雪山にいるような感じだ。


「氷地獄へようこそぉ!」


 私たちが困惑している間に、コキュートスが邪悪な翼を羽ばたかせながら、こっちに迫ってくる。私は慌てて火炎魔法を飛ばそうとしたけど、間に合わなかった。

 コキュートスは私とヒルドの間でさっきのように小さな円を描くように飛びまわる。私の身体が彼女の身体によって叩き上げられる。ヒルドも同じだった。私たちは空中に打ち上げられ、更に何度も彼女の直接的攻撃を受け、どんどん高度を上げていく。


「な、なに!?」

「いやぁ!」

「早すぎて見えない……」


 どこからかクローンたちの声が聞こえる。私はあまりの速さに何もできないでいた。抵抗する間もなく、物理的な攻撃を受け続け、ダメージばかりが蓄積されていく。

 やがて、攻撃が止まり、私たちの身体も速度を落とす。……気が付いたときには天井付近まで打ち上げられていた。下に見えるクローンたちが小さな粒に見える。

 体勢を直すヒマはなかった。すぐ隣で何かが叩き落される音が上がる。チラリと見れば、ヒルドが地面に叩き付けられていた。石造りの床に亀裂が入る。そして、彼女を落とした双翼の怪物は私のすぐ側にまで迫っていた。


「…………!」


 空間魔法で逃げる時間さえなかった。次の瞬間には自分も床にいた。すぐ耳元で大きな音が鳴り、目の前がちかちかとしていた。僅かな間を置いて、全身に激痛が走る。上手く息出来ない……!


「いやぁ!」

「ち、ちがっ!」

「助けてぇ!!」


 どこかでたくさんのクローンたちが悲鳴を上げる。閉じていた目を開けると、そこには大きな旋風が起きていた。よく見ると、私たちを天井にまで打ち上げたあの技を、何十人というクローン兵たちにかけていた。怪物の姿はなく、笑い声だけが響いていた。

 やがて、怪物の姿が現れる。旋風の中で吹き飛ばされていたクローンたちが壁や渡り廊下、床に投げ出される。人数が多かったせいか、叩き落すことはしなかったようだ。


「きゃはははは! 次はグレイシアお前の番、お前殺して将軍の地位を私にぃ!」


 破壊衝動がひどくなってきたのか、堂々とクーデター宣言をするコキュートス。そんな彼女に、今まで私たちの後ろに控えていたVクローン――ティルヴィングが怪物に向かって歩き出す。


「んんんんんんっ!? お前も死ねぇえぇ!!」


 コキュートスが今までで一番速いスピードでティルヴィングに向かっていく。だが、さっきの技はしなかった。なぜか彼女はそのままティルヴィングの側を通り過ぎ、どういうワケか壁に激突する。


「斬り捨て、ごめん……」


 そう呟いて、ティルヴィングは刀を腰に戻した――。


「えっ……?」

 <<幻想の果てに ――6章――>>


 クリスタルの王国と伝統を踏みにじる国を滅ぼした2人の女侵略者は、邪悪なる機械の兵団を有する国をも滅ぼし、戦乱の時代を終わらせた。

 だがやがて、2人の侵略者は世を我が物にせんと、互いに争いだす。

 1人は争いに敗れ、姿を消す。残った1人は世の全てを手に入れた。

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