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私の命終わる日に ――終焉の女騎――  作者: 葉都菜・創作クラブ
第3章 輝けるマナ ――廃都グリードシティ――
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第40話 あれ、取り返しに行かないの?

 フウカは私の前から姿を消す。気が付いた時には、遥か上空にいた。私やケイレイトを見下ろしながら、両腕の拳を握り締め、腕を自身の前に持ってくる。


「…………!」


 フウカの周囲に黒い雲状のエネルギー波――ラグナロク魔法が沸き起こる。同時にラグナロク魔法から成る空間がフウカの周囲から膨らんでいく。薄い闇の力で満ちた空間はあっという間に、ケイレイトの、私のいる場所にまで到達し、一帯を覆っていく。


「ふふっ、ハハハ……! ケイレイト、お前いつまでも私より上位に立てると思うなよ! ハハハハ!」


 どす黒い闇に満ちたフウカの声が響く。そのセリフはフウカのものか疑念を抱かせるものだった。さっきまでのものとは明らかに異なっていた。

 フウカはラグナロク魔法を自由自在に操れるクローンだ。その力もあって、ヴァルハラ帝国筆頭将軍の地位にあった。クリスター政府時代には『Vクローン』と『Iクローン』のリーダーを兼任していた。

 だけど、ラグナロク魔法は命を削られるだけじゃなく、使用者の心を蝕んでいくという代償がある。使えば使うほど心は闇に染まっていく。


「フウカ……!」

「さぁ来い! お前の血でエンドレス・クリスタルを真っ赤に染めてやる! ハハハハ!」


 ケイレイトがブーメランを握り締める。そこにはかつての弟子に対する何らかの想いがあるように見えた。

 だけど、次の瞬間にはケイレイトの姿は消えた。フウカの姿も消える。空中で何度も強いエネルギー同士がぶつかる音だけが起こる。目に見えないほどの速さで戦っているのだろう。


「やれやれ、困ったなぁ」


 何も出来ずにいる私の後ろから、1人のクローンが声を呟くように言う。振り返ると、そこにはアースがいた。ヴァルハラ帝国一般将軍、フウカと一緒に帝国軍の指揮を執っていたFクローンだ。


「フィルド筆頭将軍やミズカ将軍はルミエール政府の高位軍人と交戦中。フウカ将軍もケイレイトと交戦。今、帝国軍の司令官は不在も同然だよ」

「…………!」


 アースの言葉で私はフィルドさんのことを思い出す。フウカとケイレイトの戦いが始まった直後に、私はあの謎の世界に引き込まれた(ブリジットの能力かな?)。そこからフィルドさんとは会っていない。


「フィ、フィルドさんは無事なんですか!?」

「ミズカ将軍とフレイヤ中将がいるからそこは問題ないんじゃないかな? たぶん、そろそろ片付いた頃だと思うけど、どうだろ?」


 フレイヤ中将と言う聞き覚えのない名前が出て来たけど、ミズカがいれば確かに安心かも知れない。彼女もイノベーション・クローンだ。戦闘力はフウカに次ぐ。


「ただ、軍VS軍の戦いは、ヴァルハラ側は劣勢だね。ルミエール政府軍は次々と軍勢を送り込んできている。さっきも新たにカルセドニー将軍とギョクズイ将軍の軍が現れてたし。たぶん総指揮官は――」


 アースが空中で繰り広げられる戦いを見ながら話している時、やや遠くの空にひと際大きな魔法陣が描かれ始める。


「フフッ、ボクの分析が当たったかもね。お出ましだよ」

「…………!」


 輝けるエメラルド・グリーンの光を放つ巨大魔法陣から、今までにない巨大な飛空艇が姿を現す。白い機体に黄色のラインが入ったルミエール政府軍の飛空艇――超大型飛空艇プルディシアだ! 機体側面にはルミエール政府旗。そのすぐ下に――『ソフィア』の文字。


「ほらね、当たった。――ルミエール政府筆頭将軍のお出ましだよ」

「…………!」


 智将ソフィア……! クリスター政府でも筆頭将軍を務めたクローン軍人だ。クラスタの右腕でありながら、彼女を裏切り捨てていったFクローン。クラスタを捨てた2人のクローンの内、ブリュンヒルデがヴァルハラ帝国を創設し、ソフィアはルミエール政府を創設した。


「やった、ソフィア筆頭将軍だ!」

「私たちを助けに来てくれたんだ!」

「独裁国家を打倒せー!」


 すでに優位に立っていたルミエール政府のクローン兵たちは歓喜に包まれる。鬼に金棒とはこのことを言うのだろう。

 一方、ヴァルハラ帝国のクローン兵たちには悲壮感が漂っていた。今この状態でも劣勢に立たされているんだ。当然と言えば当然。泣きっ面に蜂とはこのことだろう。


「あの超大型飛空艇プルディシアでエンドレス・クリスタルを運搬する気だろうね。一度運び込まれたら、奪取は不可能。なんたって、30万人もの兵士を搭乗させられるんだからさ。Fクローン30万人じゃ、さすがのフウカ将軍でも相手に出来ないだろうね」

「取り返すなら今ってことか」


 私は腰に装備していたサブマシンガンを抜き取る。だけど、そこで私の動きは止まる。頭にあの記憶がよみがえる。

 『輝けるマナをヴァルキュリアに渡してはならぬ』、『ヴァルハラ帝国がグリードシティで、エンドレス・クリスタルを入手するという運命は存在しない』、『定められし運命が果たされた時、女神はそなたの希望と光の再生を約束しよう』――。


「…………。……戦況は劣勢。このまま戦っても、仲間を失うだけだ。ここは――撤退しよう」

「あれ、取り返しに行かないの? 単独で乗り込んでエンドレス・クリスタルを奪ってくると思ってたのに。ボクの分析間違い?」

「…………」


 頑張ればエンドレス・クリスタルを奪えるかも知れない。でも、それで失うクローンは相当数になるだろう。エンドレス・クリスタルにそれだけの価値があるかどうかは分からない。


「まぁ、ボクも撤退した方がいいかなとは思ってたからね。いいよ、そうしよう」

「ありがとう、アース将軍」


 私はプルディシアから次々と吐き出されるようにして飛んでくるガンシップや中型戦闘機を目にしながら言う。

 ……心のどこかで分かっていた。あのときブリジットに言われた言葉で、私の判断が歪められた。もっともらしい理由を並べ、私は撤退を選択した。

 もし、エンドレス・クリスタルを奪取するという選択肢を取っていたらどうなっていたのだろう? 『ヴァルハラ帝国がグリードシティで、エンドレス・クリスタルを入手するという運命』が導かれていたのだろうか?

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