第36話 お茶会
おやつだかお茶会だか知らないが、私はひとまずコイツらを相手にしなきゃいけないらしい。ビスケットの兵士とクッキーの兵士。そして、それを作り出した本人たちを……。
「行けっ! フィルドをもてなせ!」
大柄なビスケットの兵士たちがビスケットの剣を武器にのしのしと歩いてくる。同じようなクッキーの兵士たちも続く。
私はエレメントソードを振り、火炎弾を数発放つ。火の粉を散らせながら、炎の魔法弾はクッキー兵の胸を焼く。こんがりとした甘い匂いが広がる。だが、ダメージらしいダメージはなさそうだ。
「ふふ、焼き加減が足らなかったですか?」
「…………!」
左腕に茶色の盾(アレもクッキーか?)を装備したクッキー中将が、剣を手に上から斬りかかかってくる。私は背後から振り下ろされていたビスケット兵の剣を避けながら、クッキー中将の剣をエレメント・ソードで防ぐ。
すぐ後ろから地響きがする。クッキー中将の剣を受け流し、私はその場から大柄なクッキー兵の真横を転がるようにして通り抜ける。
振り返れば、クッキー兵が剣を振り下ろしていた。再び地響きがし、地面に大きなひび割れを入れていた。あの剣、斬るというより叩き付ける方だな。あの兵士たち、相当の怪力なんだろう。まともに受けると、一撃で戦闘不能に追いやられそうだ。
「…………!」
立ち上がろうとしていた私は、素早くそこから飛び去る。同時に銃声が鳴り響き、地面に複数の小さな穴が開く。銃弾の飛んできた方を見れば、ビスケットが軍用の黒いショットガンを手に、私を狙っていた。マズイ、空中じゃ避けられない!
「喰らえっ!」
「クッ……!」
私はとっさに致命傷を避けようと、エレメントソードと右手でガードしようとする。だが、銃弾は飛んで来ない。そのまま尻餅をついて地面に落ちる。
「やれやれ、フウカの方が筆頭将軍にふさわしかったな」
私の前に刀を握ったミズカが降り立つ。ビスケット中将は攻撃をためらっていた。当然だろう。ミズカに物理攻撃は効かない。
「世話の焼ける筆頭将軍ですねぇ~、ふふふ」
後ろから別のクローン兵がやってくる。最初にクッキーと戦っていたルミエール政府のクローン兵だ。恐らく、ミズカの拘束を解いたのも彼女だろう。
「お前誰だ?」
「ん~、私はヴァルハラ帝国のヴァルキュリア・クローン――フレイヤ。フウカ将軍の命令でルミエール政府で諜報活動してるんですよ~」
フレイヤと名乗るヴァルキュリア・クローンは、そう言いながら頭部のアーマーを取る。そこには私と同じ赤茶色の髪の毛をした女性の顔があった。ただ、私とは異なってその顔は笑みに満ちていた。
「……私が最初に会ったヴァルキュリア・クローンは、ずっと私とパトラーを監視していたと言っていたな。お前たちの任務は諜報活動か?」
私は希望都市ホープシティで出会ったヴァルキュリア・クローン――エイルのことを思い出す。ヴァルハラ帝国に入っても、イノベーション・クローンを見かけはしたが、ヴァルキュリア・クローンは見ていなかった。
「そうです。私はルミエール政府担当なんです~。……もっとも、もうこのミッションは終わりになりそうですけどね~」
笑みを絶やさずフレイヤは話を続ける。そのとき、別の方向から悲鳴が上がる。視線を向ければ、クッキー中将がミズカに斬り付けられていた。その周りにはドロドロに溶けたビスケット兵やクッキー兵の姿があった。
「ミズカ中将すごいですね~! あのクッキー中将、私も最初戦ったんですけど、めっちゃ強いんですよ~。勝てなさそうだったから、攻撃受けて死んだフリしたんですよ、私~」
「……あのクッキー中将とビスケット中将、何者だ? 私がクリスター政府にいた頃は対して強くなかった気がするが……」
ミズカが水魔法を乱射し、おやつの兵士をいとも簡単に倒していく姿を目にしながらフレイヤに問う。あのおやつ兵士、硬度――物理防御力はかなりの物だろう。クッキー製の剣は、地面を叩き割らん勢いだった。
「ふふふ、あの2人はただのFクローン軍人です~。召喚されるクッキーやビスケットだって、ただの大きなお菓子です~」
「だけど、動いて戦っている。まるで機械のようだ」
「そうですよね~。でもアレ、実は魔法で動いているんですよ~。闇の魔法――ラグナロク魔法でお菓子兵に仮初めの命と物理防御・物理攻撃力を与えてるにすぎません」
「なるほど、ラグナロク魔法か……」
私は最後のビスケット兵が溶けていくのを見ながら呟いた。
ラグナロク魔法は最上位魔法の1つだ。そこら辺のFクローンには到底使いこなせない。しかも、この魔法は命を大きく削る。私もこれまで幾度となく使ってきた。強大な力と引き換えに、命を失う魔法――それがラグナロク魔法だった。
「あとはお前だけだ。降参するんだな」
「クッ……!」
ミズカ1人に追いつめられたビスケット中将。彼女は瓦礫を背に、悔しそうな表情を浮かべている。プライシア将軍もクッキー中将もすでに意識を失っている。
ラグナロク魔法は何百万人と言うFクローンの中でも使えるのはごく一握り。ビスケット中将とクッキー中将はそのレベルに到達している。そうなるまでに、相当の努力があったのだろう……。




