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私の命終わる日に ――終焉の女騎――  作者: 葉都菜・創作クラブ
第3章 輝けるマナ ――廃都グリードシティ――
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第35話 あたしとおやつしないか?

 それは必然だったのかも知れない――。


「ケイレイト将軍に続け! 侵略者を討ち滅ぼせぇ!」


 クリスター政府という世界の大部分を支配した史上最強の覇権勢力。かつてない強大な力は、内より綻びを見せ、遂には崩壊した。


「フウカ将軍を援護せよ!」


 新たに台頭した世界は、繊細なガラス細工のような世界だった。――ヴァルハラ帝国とルミエール政府。クリスター政府の残党が形成した二大勢力は、微妙なバランスの上に成り立っていた。ともすれば、簡単に壊れかねないバランス。


「ルミエール政府全部隊に通達。オペレーション・ルナ、始動。繰り返す。オペレーション・ルナを始動。――ヴァルハラ帝国所属のクローン兵を殺せ」


 表向きヴァルハラ帝国とルミエール政府は、クリスター政府・クラスタという共通の敵を持った同盟国だった。だが、真実は次期世界の覇権を奪い合う最大の敵でしかなかった。


「ヴァルハラ帝国全軍へ。――ミッション・コード6を開始せよ。これよりルミエール掃討作戦を開始する。ミッション・コード6を開始せよ」


 ガラス細工は壊れた。バランスは失われた。クリスター政府崩壊後の絶妙な時代は終わりを告げる。『ラグナロク大戦』の以来、新たに始まる大戦が幕を開ける。黒い夢の滅び去った世界で、白い夢同士の殺し合いが――。



「あぐっ……!?」

「えっ!?」

「きゃぁッ!」


 新たな世界大戦が始まった瞬間、私のすぐ後ろで数人のクローン兵が苦痛の声を上げる。振り返ると、ルミエール政府のクッキー中将が茶色の長方形をした盾で血の付いた剣を防いでいた。剣の相手は白地に黄色のラインが入ったクローン兵――ルミエール政府兵!?


「な、なにをしてるの!?」


 私のすぐ側にいたプライシアが声を上げる。だが、その彼女にも刀を突きつけられる。刀を持っているのはミズカ。アイツ、いつの間に拘束を……!?


「プライシア将軍っ!?」


 異変に気付いたルミエール政府のビスケット中将が、腰に装備していた刀を抜いて戦闘態勢を取る。私はミズカが投げ渡したエレメントソードを手に、ビスケット中将の前に立ちはだかる。


「フィ、フィルド……!」

「死にたくなかったら去れ。お前程度では私の相手は務まらん」


 私はビスケット中将を睨みながら冷たい声で言う。これでも私はクリスター政府最高戦力として将軍の地位にあった。ビスケットも知っているハズだ。こう言えば、彼女も逃げ出すだろう。私はそう確信していた。だが、彼女から返ってきた言葉は意外なものだった。


「プ、プライシアさんを見捨ててあたしだけで逃げられるか! 彼女を離せぇっ!」


 叫びながらビスケット中将は私に向かって刀を振り下ろす。私は手にしていたエレメントソードで防ぐが、ビスケットは何度も斬りかかってくる。


「チッ……!」


 私は後ろに下がりながら、エレメントソードを起動させる。激しい電撃が纏われる。地面を蹴り、空中に飛び上がりながら剣を大きく振る。途端、追ってきたビスケット中将に数本の雷が落ちる。電撃音が鳴り響き、空気が閃光と共に激しく振動する。彼女の身体が地面に叩き付けられる。


「…………。……叩いて、叩いて、ビスケットは増える」

「…………?」


 倒れたビスケット中将がゆらりと起き上がる。彼女の周りに黒い禍禍しい力が集まっていく。


「1回叩いて2つ。2回叩いて4つ。ティータイムにクッキー。おやつにビスケット……」


 私は魔法発生装置で自身にキャンセル・シールドを張る。何かイヤな予感がする。あの力、私は知っている。


「フィルド、あたしとおやつしないか?」

「…………!」


 ビスケット中将が手を叩くと電撃音が鳴り、3体の……数枚のクッキーを合わせて出来た人間型の“何か”が現れる。召喚魔法で現れたアレはなんだ?

 ビスケット中将が纏っていた黒いエネルギーが、将官魔法で現れた3体の人間型クッキーに入っていく。すると、そのクッキーで出来た人間型の何かが立ち上がる。


「ビスケットに挟んだあたしの命、ゆっくり楽しめ……」

「クッキーのモンスター、なのか?」

「クッキーじゃない。ビスケットだ! フィルドを殺せぇっ! ハハハハハ!!」


 禍禍しい狂気的な力をひしひしと伝わらせながら、ビスケット中将はクッキー……じゃなくてビスケットで出来た怪物に命令する。

 大柄な体格をするビスケットのモンスターは落ちていた刀を手に取り(アレもビスケットで出来ているのか?)、私に向かってゆっくりと歩いてくる。


「ビスケットやめろっ! その力は……!」


 ミズカの人質になっているプライシアが叫ぶ。


「あたしにだって守りたいものはあるッ! また一緒に、おやつしよう……!」


 黒いエネルギーを纏い続けるビスケット中将は、一瞬だけ優しそうな笑みを浮かべる。だが、すぐに元の険しい表情に戻る。彼女自身も刀を手に、私に向かってくる。


「待ってくださいよ」

「…………!」


 不意にビスケット中将の側に、1人のクローン将官が寄ってくる。さっきまで反乱を起こしたルミエール政府兵と戦っていたクッキー中将だ。彼女もビスケット中将と同じように黒いエネルギーを纏っている。その側には……ビスケット兵と同じようなクッキー兵がのしのしと付いてきている。


「お茶会には私も入れてくれませんか? クッキーもあった方がいいですよ」

「……そうだな。今日の客はフィルドだ。豪華にした方がいい」

「ふふっ、じゃぁ……」

「ああ、よろしく、クッキー中将」


 ビスケット中将の横にクッキー中将が並び立つ。お菓子の兵士も合計で6体に増えた。敵は2人と6体に対し、こちらは私だけ。ちょっと厳しそうだ。


「ずいぶん、バランスの取れないお茶会だな」

「ハハハ、もうお開き希望か!?」

「まだ始まってもないですよ?」

「チッ……!」


 エレメントソードを手に身構える。ヴァルハラ帝国筆頭将軍を招いたお茶会が始まるらしい――。

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