第31話 移転用魔法クリスタル
【廃都グリードシティ 下層】
廃都グリードシティ下層。ここまでくると、さすがに傭兵・兵士の姿は見当たらない。崩壊も中層・上層より酷く、瓦礫で前に進むのがやっとだ。この様子だと、恐らく最下層には行けないだろう。ここからセントラルタワーを目指すしかなさそうだ。
明かりもほとんどない。空からの光はすでになく、人工の照明も少ない。しかも、メインストリートから外れた小道は真っ暗で入ることさえ出来そうにない(というか瓦礫だらけで入れそうにもない)。
「洞窟。ここは街とは呼べないな」
[これでは復興はほぼ不可能ですね。それに、今もあちこちで倒壊が起きています。上層や中層から崩れた瓦礫が降ってきているようです。気を付けながら進んでください]
コミットが通信機を介して警告する。そうだな。今さっきも何かが崩れ落ちるような音がした。洞窟風に言うなら落盤かな。
私たちは瓦礫を避けながら、ときには退かしながら進んでいく。退かす瓦礫を間違えると、連鎖的に上の瓦礫が降ってきそうだ。潰されたら、ミズカ以外は死ぬな。
「質問。もし通って来た道で落盤が起きたらどうする?」
ミズカが縁起でもないことを言い出す。メインストリートで落盤。つまり、引く道がなくなるということだ。そうなったら、もう前に進むしかないだろう。……前も崩れたら終わりだな。
[こ、怖いことを言いますね]
「あ、大丈夫ですよ」
コミットの心配をよそに、パトラーが余裕の発言をする。衝撃波を腕に纏って破壊するとでも言うのだろうか? そんなことをしたら一帯が崩れるかも知れない。幾多の戦いや拷問に耐えてきた私でも、潰されたらさすがに死ぬだろう。余命3ヶ月を待たずに終わりだ。
「瓦礫を魔法か何かで破壊するのか?」
ミズカも私と同じことを考えていたのか、パトラーに『瓦礫の破壊』という答えを返す。
「ち、違いますよ! ――正解は移転魔法で脱出する、です!」
パトラーは至極真っ当な答えをした。なるほど、それなら確かに脱出できる。もっとも、セントラルタワーに行きつく手段はなくなるが。
「提案。お前の移転魔法でセントラルタワーに移動できないのか? ついでにクラスタの部屋やブリジットの部屋に移転して、寝込みを襲えないか? そうしたらブリュンヒルデの天下が来るんだけどな」
余計な提案をししつも、ミズカの言っていることは傍から見ればその通りだった。何も知らない人はそう言うだろう。
「それは……できないです」
「そうなのか?」
「うん。私の能力は――ここに来た時もそうですけど、細かい微調整までは出来ません」
私はこのグリードシティに来た時のことを思い出す。あの時も、本当はヴァルハラ帝国の駐屯地に出るハズだった。だが、実際にはやや離れた市街地の跡に出た。パトラーの能力では、正確な場所に移転することはできない(マディアンのような空間特化なら話は違ってくるのかも知れないが)。
「それに、私が行ける地点は『移転用魔法クリスタル』が設置された場所だけです」
「移転用魔法クリスタル?」
「はい。移転用の特殊な魔法クリスタルを目標地点に置く必要があるんです」
この技術はクリスター政府が開発したものだった。正しくは『長距離移転用魔法クリスタル』。“ある者”のマナを引き出し、移転用魔法クリスタル化する。そして、それを目標地点に置くことで、長距離移転が可能になる。
[ヴァルハラ帝国のマナ提供者はブリュンヒルデ皇帝でしたね]
「ああ。ブリュンヒルデのマナをクリスタル化して、移転用魔法クリスタルを作っているんだったな」
ヴァルハラ帝国ではブリュンヒルデの希望で、彼女のマナを使っていた。理由は「仲間の命は削りたくない」とのことらしい。マナの引き出しも使用と同じで、その者の寿命を締める。
ただ、移転用魔法クリスタル1つだけじゃな意味がない。クリスタル2つと『使用能力者』の3つが揃ったとき、初めて意味を成す。
なぜなら、『使用能力者』は移転用魔法クリスタルを“使って”、移転用魔法を発動させる。つまり、『使用能力者』は移転用魔法クリスタルに触れ、他の場所にある移転用魔法クリスタルを察知し、その地点に移転する――。それが、パトラーの移転魔法だった。
「……つまり、今、持ってるのか? その移転用魔法クリスタル」
私がパトラーの能力について概説し終わったとき、ミズカが質問した。パトラーはそっと懐から、移転用魔法クリスタルを取り出す。赤色に輝く魔法クリスタルだ。これを使うことで、首都アレイシアシティやその他の場所にある移転用魔法クリスタルを察知し、移転することができる。
「これがブリュンヒルデのマナを使って作られたクリスタルか……。い、いくつか持ってるのか?」
「あ、うん。今は4つぐらい……」
「4つ? ひ、一つ、譲って貰えないか……?」
「えっ?」
ミズカがパトラーの持つ移転用魔法クリスタルを見つめながら、妙なことを言い出す。その手は赤色に輝く魔法クリスタルに手が伸び始めている。
「お前、移転魔法使えないじゃないか。これ、魔法発生装置じゃ使えないぞ?」
「そんなこと分かってる。俺、それでも――、そのっ、……」
「ま、まぁ、1つぐらいでしたらいいですけど……」
珍しく言葉に詰まるミズカに、パトラーはそっと移転用魔法クリスタルを渡す。途端に、ミズカの顔が明るくなる。
「ほ、本当か!? すまない、礼を言う! 本当に、……ありがとう」
「い、いえいえ……」
ミズカの異様な喜びようにパトラーは多少引きつつも、言葉を返す。私はそんなやり取りを目にしながら、先を目指す。ミズカのヤツ、どうしたんだ……?
[…………。……ミズカさん、やっぱり――]
「どうした、コミット?」
[いえ……。なんでもないです……]
※近距離の移転はクリスタルなしでも可能です。クリスタルが必要になるのは、長距離の時だけです。




