第25話 俺に水は効かない
【廃都グリードシティ 上層 南部旧市街地 ファンタジア公園】
電撃音が鳴り響き、私たちは目的地に降り立つ。目の前に広がるのは、……廃墟だ。崩れかけた建物が私たちの周りを囲んでいる。
「ここは……?」
灰色の軍服に青いマントを纏ったクローン女性――ミズカが言う。彼女は持っていた青色の和傘を広げ、雨を凌ぐ。
「……ファンタジア公園?」
「確実?」
「うん。フィルドさん、あの銅像――スキピア=ファンタジア女帝じゃない?」
パトラーは広場の中央にある半壊した女性の銅像を指さす。甲冑を纏った女性の銅像だ。確かにスキピア=ファンタジア女帝のだろう。
「残念。出現地点がズレたようだな。早いとこヴァルハラ軍の拠点に向かおう」
ミズカはそう言い、左腕に装備した小型コンピューターを操作し、目の前に地図を表示させる。
「……行こう」
場所を確認したミズカは、地図が表示された電磁スクリーンを消し、勝手に先に進み始める。私たちも彼女の後を追おうとする。
だがそのとき、半壊の建物からゼリーが染み出してくる。水色のゼリーはそれぞれ1つに固体化し、魔物――ウォズルと化す。全部で3体か……。
「邪魔。さっさと消えろ」
ミズカは和傘を閉じ、白い衝撃波を纏う。彼女は和傘を武器に、3体の中型ゼリー・モンスターに飛びかかる。
「ミズカ、ウォズプルに物理攻撃は効かないぞ!」
「…………」
私の忠告を無視し、ミズカはウォズプルの身体に和傘を叩き付ける。水属性の魔物はその場から弾かれ後方に下がらされる。だが、ダメージはなさそうだ。
ウォプル系モンスターはゼリーの塊。水属性の物理・魔法攻撃は無効化され、物理攻撃はほとんど効かない。
「きゅおおぉおぉぉっ!」
「…………」
2体のウォズプルに、左右を取られたミズカ。彼女に向かって、ゼリーの魔物は水撃弾を撃ってくる。彼女の姿が水が弾ける音と共に消える。
「無効。俺に水は効かない」
水しぶきの中から青い和傘が飛び出してくる。ウォズプルの1体が突き飛ばされる。だが、やはりほとんどダメージはない。
ミズカは水属性のイノベーション・クローンだ。彼女に水属性の攻撃は一切効かない。だが、ウォズプルも水属性の攻撃を行う魔物。水属性は効かない。……勝負がつかない。
「もういい。ここは私が――」
私はヴァルハラ帝国から貰った剣――エレメント=ソードを抜き取る。この剣は魔法発生装置と呼ばれる特殊な機械が埋め込まれた剣で、人工魔法を使うことが出来る。この剣で雷属性の攻撃をすれば――。
「不要。お前の手助けはいらない」
ミズカは私に背を向けたまま言う。3体のウォズプルが彼女に迫っていた。ダメージはほとんどない。それどころか、雨水を吸収して完全に回復している。
「いや、違う。お前に任せていたら日が暮れるから私がやるんだ」
私はエレメント=ソードを起動させ、刃に電撃を纏う。ウォプルは雷属性の攻撃には極端に弱い。水しか出せないミズカには任せていられない。
だが、私がミズカの前に出ようとしたとき、彼女は和傘で私の行く手を遮る。
「どういうつもりだ?」
「…………」
ミズカは和傘を手に、再びウォズプルに向かっていく。また同じことを繰り返す気か? 私がそう思ったとき、信じられないことが起きた。ミズカの和傘が電撃を帯び、光り始めた。
彼女はウォズプルに向かって飛び上がり、空中で和傘を大きく振る。その途端、すさまじい電撃が降り注ぐ。電撃を受けたゼリーの魔物は断末魔を上げながら消えていく。辺りに蒸気が漂う。
「ミ、ミズカっ!?」
「バカな、水のイノベーション・クローンが電撃魔法だと!?」
ミズカは和傘を振り次々とウォズプルを消していく。あっという間だった。私たちはその姿を呆然と見ていた。
イノベーション・クローンは本来1つの属性しか与えられていない。ボルカなら雷、ホノカは炎、ミズカは水。2つの属性魔法を得られるなんて、そんなことあり得るのか……?
「コミット、これはどういうことだ?」
[……ミズカ将軍は水のイノベーション・クローンです。他属性魔法は基本的に使えません]
「だが、今まさに雷魔法を――」
[ええ、自己精製できるのは水魔法だけです。……ネタバレして申し訳ないんですけど、ミズカ将軍の和傘には魔法発生装置が内蔵されています。あの電撃は人工魔法によるものです]
「魔法発生装置……!」
コミットの説明で私はようやく納得できた。ミズカは雷魔法を自己精製したワケじゃない。あの青い和傘に内蔵された機械を使って攻撃した。なるほどな。確かにイノベーション・クローンだろうと機械を使って他属性魔法を使うことは可能だ。
「一言」
ウォズプルを消し去ったミズカが私たちの前にやってくる。
「俺は他のイノベーション・クローンのように、自分の属性が最も優れてるとは考えていない。だから、雷も炎も風も使う。例え機械に頼ってでも、だ」
そう言うと、ミズカは和傘を雨避けにして歩き出す。私たちも後に続く。
空は昼間だというのに薄暗い。大量の雨水を含んだ分厚い雲が立ち込めている。光は差しそうにもない。
「……俺だ。もうすぐ着く。俺1人だけで十分だが、他2人もいる。……ああ、よろしく」
……今回のミッションも前途多難のようだ。




