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私の命終わる日に ――終焉の女騎――  作者: 葉都菜・創作クラブ
第2章 静かな猛毒の逆襲 ――海風都市サフェルトシティ――
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第20話 ホノカ将軍

「あれあれっ、筆頭将軍も将軍も全然ダメねーっ!」

「…………!」


 急に後ろから場違いな声音が上がる。


「っていうか、ヴァルハラ帝国の権威が落ちゃうからもっとスマートに勝ってほしいんだけど、もう期待するだけ無駄みたいね。あーあ、とっても残念っ!」


 私の後ろから軽装の若い女性が軽快な足取りでやってくる。


――あら、今宵の犠牲者じゃない。お目覚めかしら? 今、アナタの仲間を消そうと思っていたところよ。


 イプシロン=バハムートがテレパシーで話す。恐らく、パトラーや“彼女”にも伝わっているのだろう。この言葉の相手は“彼女”だ。


「えっ、もしかして、テレパシー!? すごいじゃない! 存在は知ってたけど、実物を見たのは初めてねーっ!」


 相変わらずこの状況に全く合わない調子で話し続ける“彼女”。一応、“彼女”もこちら側だ。つまり、イプシロンの敵。なのに、この余裕そうな感じ。


「あ、そうだ。私のブーツと靴下、それとバック返してほしんだけど? どれもザナドゥ産のブランド物だから、結構高いのよね。まぁ、ヴァルハラ帝国から貰ったおカネで買った物だからあんまりダメージは大きくないんだけどね」


 ……この状況で次は私物の心配と来たか。“彼女”はこの状況が読めてないのか、それとも秘められた能力で逃げ出す気か……。


――カネの支給は、クローン優位政策の一環ね。だから、クローンは小金持ちが多い。身に着けているものも高価な品が多くて助かったわ。

「クローンって言っても、まだまだオシャレしたい年頃ですし? まぁ、一方的な支給で困ってる子も多いんだけどねーっ。でも、ブリュンヒルデには見えてない感じかな?」


 軽快な口調と動きでパトラーの側に行く“彼女”。パトラーは困惑した表情を浮かべている。


――心配は今、身に着けている服にもすることね。その服はアナタを殺した後、私たちの活動資金にさせてもらうわ。……ヴァルハラ帝国ホノカ将軍――。


 イプシロン=バハムートは、今夜の犠牲者とするために連れてきた彼女――ホノカに向かって言う。ホノカは笑みを崩さずに言葉を返す。


「ええっ、私を殺して服をはぎ取るっていうのっ!? やだなぁお姉さん、もしかしてそういう趣味の人ですかぁっ?? あははっ!」

――それも面白そうね。でも、今回は遠慮しておくわ。


 イプシロン=バハムートが再び腕を振り上げる。爪から紫色の毒液が滲み出る。さっきパトラーが避けたあの攻撃だ。魔獣は爪を振り下ろす。爪が空気を切り裂きながらホノカに迫る。そのときになって、ようやくスゴカは笑みを消す。

 爪がホノカを襲う。そのとき、金属音が上がる。同時に彼女の周りに真っ赤な炎が上がる。火の粉が辺りに舞う。


「――お前さ、なんで私に勝てる前提に立ってるの?」


 急に笑みを消したホノカは、燃え上がる炎の中で、イプシロン=バハムートの爪を炎を纏った剣――レーヴァテインで防いでいた。毒液に炎が燃え移る――。


「…………!」


 イプシロン=バハムートの右手が爆音を上げて空気を振動させる。毒液が爆散したらしい。大型の魔獣は苦痛の声を上げて後ろに下がる。爆発の中心にいたホノカとパトラーは……!?


「フィルドさん!」

「パトラー!?」


 すぐ後ろからパトラーが声をかけてくる。その側にホノカもいた。パトラーの空間魔法でこのシールド内に移動してきたらしい。


「おやおやっ? 私は逃げる必要なかったんだけどね」

「ああ、そうか。爆発の中でもお前は生きられると、そういう意味だな?」

「もっちろんっ!」


 ホノカは笑顔で答える。コイツは生命力が高いのだろうか? いや、それでもパトラーの行動がなかったら、重傷を負ったことは間違いないだろう。


「それじゃ、パトラー将軍っ! また戦場に送り出してくれますかっ??」

「で、でもっ……!」

「戦いたいなら好きにさせればいいさ。それで身の程というものを知ればいい」


 未だに余裕そうなホノカに、私は突き放すように言う。正直なところ、この状況が分かっていない彼女に対して、私はイライラしていた。

 パトラーは半ば渋々と了解の返事をすると、ホノカをシールド外に送り出す。ホノカは一瞬でイプシロン=バハムートの前に現れる(わざわざ目の間に移転させなくても)。


――さっきはよくもやってくれたじゃない……!


 今までは異なる、怨みのこもった声でホノカに話しかけるイプシロン=バハムート。爆散した右手は既に再生されていた。対するホノカはやっぱり笑みを浮かべている。


「お姉さん、選ばせて上げるね。私の物を返して土下座して謝るんだったら命だけは助けて、私のペットとして飼って上げる。……どっちがいい?」


 笑みを浮かべながら言うホノカのセリフは挑発しているだろうか? そう思えるかのようなセリフだった。

 案の定、イプシロン=バハムートは全速力でホノカに襲い掛かってくる。口を開け、紫色の魔法弾を精製すると、それを飛ばしてくる。


「あららっ、死ぬ方がいいのかな?」


魔法弾はホノカを直撃し、彼女の身体を砕いていく。地面に着弾し、辺りの瓦礫を塵に還していく。爆音が響き渡り、地面が揺れる。

 私は後悔していた。まだ戦闘経験の少ない彼女を戦場に半ば放り出したことを。ここは大人の対応で止めるべきだった。何も死なせる必要までなかったのだ。


――さて、そろそろアナタたちも冥界へ送って上げるわ。


 ホノカを消し去ったイプシロン=バハムートがシールドの前に飛んでくる。私とパトラーはシールド内で構える。2人がかりで戦っても勝てるかどうかは分からない。それでも、黙って殺されるワケにはいかない。だが、その時だった。


「ちょっと、ちょっとっ! まだ私、生きてますよーっ!」

「――えっ?」


 聞き覚えのある声がイプシロン=バハムートの後ろから上がった。

  <<コミットのメモ書き>>


 【ホノカ】


◆基本データ

 ◇性別:女性

 ◇種族:Fクローン

 ◇所属:ヴァルハラ帝国(一般将軍)

 ◇戦闘:剣・炎魔法(戦闘型・炎特化)


◆概要

 ホノカ将軍は『イノベーション・クローン』の1人です。ヴァルハラ帝国将軍の地位にあり、ブリュンヒルデ皇帝からも厚い信頼を寄せられています。

 EF2017年のクーデターでは、ブリュンヒルデ皇帝と共にクリスター議事堂に乗り込み、ヴァルハラ帝国成立に一役買いました。

 魔法タイプは「戦闘」で、炎魔法を操って戦います。炎魔法は究極の炎魔法『フレア』さえも使えますが、他属性の魔法は一切使えません。

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