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 途中で待合室にいる侍女から包んだプレゼントを受け取る。


 バルコニーから庭に出る。いつの間にかキャンドルライトが灯って周りは夜の顔を覗かせていた。幻想的で、いままで何度かお城の庭を散歩したことがあるのに、いまは自分がはじめての世界へ踏み入った感覚がする。


「寒くないか?」


「ううん。大丈夫」


 リュークがいるから、そう感じるのかもしれない。彼とつながっている腕から彼の熱が伝わる。それだけで春の夜風に触れて冷たくなった頬が赤く染まる。


 バルコニーからずいぶん遠くまで歩いてきた。舞踏会の騒ぎはここまで聞こえない。

 二人はベンチに腰を下ろす。


 ふと離れたリュークのぬくもりを寂しがる自分がいる。


「リューク。あのね」


 伝える言葉を何度も頭の中で練習したのに、言葉が出ない。


「ユリア。男の俺から言わせてくれ」


 リュークのことをどうして『チャラ男』という表現だけですませたのだろう。夜の暗闇の中、キャンドルの淡い灯火が彼の金髪に反射する。


(きれい。)


 私はずっと彼を見つめていることができる。でも、それがかなわない胸騒ぎがして心が騒いでいる。


「ううん。私はどうしてもリュークに伝えることがあるの。

 リュークは、リュークは私のことを信じている? わ、私はあなたのことを信じている」


 ゲームの中のリュークは、徐々にユリアを疑い嫌っていく。


「どうしたんだ? なにがあったんだ? 俺はユリアを信じている。 この一年お互いに信頼関係を築いたと思っていたが……。一体どうしたんだ?」


 リュークはメグが全表攻略キャラを一定の好意度で攻略できた時に出会える裏キャラ。でも諜報活動のため清掃員に変装しているから、まさか彼が攻略相手だと気づかない。


 リュークは王弟で実業家。大人の色気があり、野獣を思い出させる。まわりを警戒していてとっつきにくい。

 でもリュークの懐に入ると、彼の一番、特別になる。このワイルドビーストが、ただ一人自分だけを愛してくれるシチューエーションは、すべての女性のロマン。

 

 放課後学園の廊下でユリアはメグの取り巻きモブ女たちに注意をした。

 このモブ女たちが、メグの行動を増長させていた。モブ女たちは下級貴族や庶民が多い。もしメグが王妃になれば、自分たちも取り巻きとして利を得れるという浅はかな考えが見え見えだった。


 モブ女たちを注意している時にメグが来る。ここでメグが彼女たちをかばい、ユリアに文句をいうとイベントが発生する。

 近くでモップかけをしていた清掃員の水がメグにかかる。

 リュークが彼女に謝罪をする。ここでメグの返事次第でリュークルートがあらわれる。

 メグはリュークを罵倒した。これで彼ルートが消えた。


 いまこうしてかねて無表情な彼が私に甘い顔を見せている。


(ずっとこうしていたい。お願い、原作という運命の修正なんて働かないで!!)


 ポリアンナさんと会話してからずっと願った。でも……私の願いがちっぽけなものと薄々気づいている。


 ザックのキャラが18禁バージョンに変化した。私、悪役令嬢のユリアのキャラも変化するかもしれない。

 第一段で薄いキャラだったから、真面目なユリアが第一段で悪役に見えた。でも第二段では、復讐に身を投じる女性のキャラ設定を、原作はどんなキツい性格にしているのか。


「私はリュークのことが好きです。愛しています」


「ユリア! 俺もだ! 俺からプロポーズさせてくれよ!」


 すねた顔の彼を見れるなんて。胸がキュンと跳ねた。


「これ、お返し」


 茶色い目がくりっとした黄色いテディーベアー。いつかリュークと結ばれる未来を想像した。二つの黄色いテディーベアーが並んで座る光景を想像して微笑んだ。


『私を守ってね。私の騎士さま』


 メモを見てリュークの顔が破顔する。


「もちろんだ!」


 大きな彼の体が私を包む。


(もう私は十分だよ。)


「いつかリュークの船に乗って知らない国に行きたい」


「もちろん俺が連れていってやるよ」


「わ、私は王族とか公爵とかそんな身分いらない」


「ああ、知っているよ。俺もだ。だから俺はユリアを選んだのかもしれない。もちろん他にもたくさんユリアを選んだ理由があるが……」


(愛しい。こんなに人を恋しく思うことができるなんて……。


……でも、ごめん。リューク。私にはどうすることもできないの。)


「リューク。覚えていて。私はあなたを愛している。永遠に愛しています。もし私が私じゃなくなって道を誤った時に信じて助けて欲しい……」


「一体、どうしたんだ? どういうことだ!?」


 リュークのぬくもりが消えた。彼の心配した顔が、私の顔をじーっとのぞく。彼に私の幸せな笑顔を覚えていて欲しい。


(リューク。あなたに出会えて、幸せでした。ありがとう。)


ぶっきらに「俺の女になれ」と言ったリューク。女院のちびっこたちと戯れるリューク。この1年、私の愛したリュークの顔が頭の中で流れる。


(泣いちゃ、ダメ。笑顔で伝えるんでしょう。)


私は私に言い聞かせる。


「私はあなたを愛しています」


(ねえ、ユリア。あなたも彼を好きって知っているの。素直になって。愛しているでしょう?

 だから原作に勝って。あなたの感じている復讐は、本当のあなたじゃないわ。)


 ポリアンナさまに殴られた時に沸いた気持ち。



『なんでわたくしが他人に見下されないといけないの! どうしてメグがまだ城に出入りしているの! わたくしの王妃としてずっと生きていた人生を捨てられない』



 (真面目なユリア。この一年一緒にいた女院のお姉さまたちやちびっこたちのことを思い出して。お願い。リュークの愛を感じて。それだけで十分な幸せよ。


 私はあなただったし、あなたは私だった。ぽっと私が出てきたのはあなたを守るため。あなたは私にも愛されていたのよ。

 でも、もうあなたは自分に戻る時がきた。私の時間が消えるのね。ありがとう……さようなら……またね。)


……原作。運命。第二段。続編でも悪役令嬢……。


 静寂した暗闇の庭に、キャンドルの淡い光が幻想的な時を招き入れる。





「わたくしがあなたを王さまにしてさしあげますわ」


(完)


評価PT ブックマーク 及び 素敵なレビューをありがとうございました。最後まで読んでくださった読者さまに、心から感謝します。ありがとうございました。

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