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「わ、私の子どもは? 私は聖魔素所持者ではないのですか?」
トーマスが青ざめた顔で宰相に問う。
「先祖は伯爵家だったことを知っているだろう。私も宰相になり、この国の聖魔素保持者の制度を改革しようと試みているところだ。
結界に案じてばかりでなく、軍事力を強化しなければいけない。結界で守られているのはこの王都だけだ。
運よく他国『ユク国は、シス国のように全土を結界で守られている』と勘違いしておる。
レディスさまとリューク殿下の外交によって、我が国を攻撃する国はいままでなかった。
ユク国は広大な領土を持つが、その多くが不毛の土地だ。すべての生きとし生ける者を拒む永久凍土の大地が、他国の侵略を妨げてきた。
いま軍事力と攻撃魔法を使える者たちの育成に力を注いでいる。聖魔素保持者に関係なく国を守るためだ。重臣たちの説得を試みているが、しきたりを変更するのはなかなか難しい。
トーマスの代で聖魔素保持者の当主をたてないと子爵から男爵へ降格になる」
聖魔素保持者ではなく、魔力を持つものが重要になる時代。その時代が来たら、逆に聖魔素保持者たちはどんな状況へ追いやられるのだろう。
私は聖魔素保持者と結婚しなければ子供ができにくい。
「王座は聖魔素保持者が継ぐ。そして王妃もだ。
今回のギルバードとユリア姫の婚約破棄はないものとして扱う予定だったが、シス国に知られた。
母上からユリア姫が安全な場所にいると報告を受けてなにもせずに、成人式を終えて、正式に二人の婚約発表と結婚式の日時発表をする予定だった。
だが未成年だったとしても、ユリア姫を断罪したことの罰をお前たちが受けねばとシス国に示しがつかない」
ギルバードは茫然自失しながら玉座を見ていて、メグは王さまの言葉をまだ理解できてないようで、クリスたちに説明を求めている。
「ギルバード=ユクは、今後『ユク』の家名を名乗ることは許されない。身分を男爵にし、メグ嬢と子どもが産まれる前に結婚すること。
ギルバードの保持する爵位は、一代限りとする」
「!! っ!! なっ、横暴です! わっ、分かりました! ユリアと結婚して王位を継いでメグを側室にすればいいのでしょう!!」
ギルバードの甲高い声がひびく。
「ギルが男爵? なんで? 王さまでもそんな横暴、許されるわけないわ! ギル、もう父親なんてどうでもいいでしょう。さっさと引退させて、ギルが王さまになればいいじゃない。
きっとボケているのよ!」
「メグ。しずかにしていてくれ」
トーマスが小声でメグに諌める。
「もういいわ。あたしはトーマスと結婚するわ」
周りはメグの言葉を聞いて嘆息した。王さまが低い声でゆっくり話した。
「王宮料理長から、メグ嬢が乱用した食事代及び給仕者たちへの賃金請求がきている。また彼女への貢ぎ物にかかった費用をギルバードの個人財産から差し引きしておく。
ギルバード。今後、クリスのように無駄使いしなければ一生生きていける額だ。
学園で学んだ教育を活かして、騎士にでも文官にでもなるといい」
王さまの息子に対しての温情だった。
「なっ、なによ! 王宮には、た~くさん食料品があるじゃない! 人だってたくさんいるじゃない! ギルは王子よ。あたしは彼の婚約者よ。みんな喜んであたしたちのために働きたがっていたのよ。
あたしは王家の人気のためにしたんじゃない。王さまのくせにケチ!」
王家の人気のために? 自分の人気のためじゃなかったの? 第一スラム街に近い女院にいたのに、メグの配給のことなんて聞いたことがない。
大方、城の近くの城下街で食事の必要のない者たちに分け与えていたのだろう。
ギルと婚約者のメグが治安の悪い場所で配給活動をすることを、護衛騎士たちが許可するはずがない。
「次はユリア姫についてだ。
息子だったギルバードがおかした罪の謝罪をする。すまなかった」
王さまが立ち上がり私に頭を下げた。
「いいえ。頭をあげてください。わたくしは王太后さまとリュークさまに助けられて無事でした」
きっと院長先生とリュークと女院のみんなに出会わなかったら、プライドの高い令嬢の仮面を被った女のままだった。
復讐の気持ちもみんなのおかげでなくなっていた。
そしていま、王さまの謝罪で心にあったすべての憤慨が消え去った。
「じつのところ、ユリア姫には アンドレアと結婚をしてこの国を支えて欲しい。だが、これ以上無理を言えばシス国が許さないだろう。
以前から母上と論議していたが、場合によって女性にも家督を相続することを認める法律をつくる。
よってユリア姫は将来レディス公爵を受け継ぐ。
結婚相手はユリア姫が自由に決めることを認める。例え、その相手が聖魔素保持者でなくてもだ」
将来ユク国が純魔素保持者を失うことになっても、王さまは私の自由を認めてくれた。
「有難く存じます」
王家に対しての敬礼をする。
「成人式が長引いたが、予定どおりの時刻に舞踏会を行う。これにて祝儀を終える」
王家が入場した時はギルバードがいたのに、退場の時は彼と私は王族に礼をしたまま見送っていた。
王族たちがいなくなった途端に、ギルバードは会場を勢いよく出て行った。
いまだに戸惑った顔をしているメグが私を見て顔を真っ赤にした。また文句を言われると思い、急いで部屋を出た。