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第25話 学園生活は続いていく

 豚の様な男が教壇に立っていた。ニーナはその男を見てこちらに小声で話しかけてきた。


「あの方はリリア様のお父様ではありませんか?」


「ひ、人違いです。ニーナ、きっと、他人の空似です」


 ニーナは何を言っているのだろうか。オレの親は天下の帝国から公爵位を授かっている程の男だ。こんな編入されたばかりの属領にいるはずがないだろう。オレの目の前にいる男は別人に違いない。


「リリアちゃん! お父様、がんばっちゃたよ」


 オレの頬を伝う汗はきっと、気温が高いからに違いない。そして、その暑さに頭がやられて幻聴が聞こえてきたんだ。そして、ニーナが無言でこちらを見て微笑んでいるのはきっと気のせいだ。


「リリアちゃん、聞いてる?」


 豚がオレの方を見て微笑んできたと思ったら、なにか言っている。豚って喋れたんだ。すごい時代になったな。生まれ変わるといろんなことを体験できることを改めてしったよ。


「あと、可愛いリリアちゃんの体操服を盗んだ。あのケビンていう教師は死刑にするからね! 安心してね?」


 ケビンが死刑になろうがなるまいがどうでもいいが、


「安心できませんわ! なぜ、お父様がここにいらっしゃるのですか!?」


 オレは思わずそうツッコミを入れてしまった。領地はどうしたんだよ。 


「リリアちゃんに会いたくてね? お父様はリリアちゃんと会えないと寂しくてね」


 オレは痛くないはずの頭を抱えて、机の上にふせたくなった。オレはそんなくだらない理由で領地を放ってきたと堂々と宣言するこの男の頭の中身を思ってため息を吐いた。


「さてと、リリアちゃんとの感動の再会も終わったから、今度は自己紹介を…」


 親父が教室の入り口の方を見て急に固まった。いったい、どうしたというのだろうか。オレは突然の事に意味が分からず、固まった親父の視線の先を追う。すると、そこには…


「フロイデンベルク公爵様はこんな所で何をやっているのでしょうか?」


 優しそうに微笑む母ソフィアの姿があった。


「ソフィア!?」


「お母様」


 オレと親父が同時にソフィアの存在に驚いて声を上げる。


「こんな所で何をやっているのでしょうか? 公爵様?」


「リ、リリアちゃんと会いたくて…」


 優しく微笑む母の目は笑っていない。これは相当に怒っている。だれが見ても一目瞭然だ。


「まぁ、先週、お会いしましたよね?」


「……」


 母の優しく諭すような声音に怯えた親父は体が震えている。その姿はまるで屠殺所に送られる豚のようだった。


「それが領主のやることでしょうか? 領地や領民はどうなっていますか?」


「い、いや、だって」


 いや、だって、でもとお決まりの理由のない反論をする親父。


「それは、それ。あなたは仕事を全うする責務がおありの立場でありませんか? 速やかに領地に戻って頂けないかしら?」


「え、リリアちゃんと一緒に」


 親父の戯言を聞き取り易くする為か母は手を耳に当てて聞き返してきた。


「私は耳が遠くなってしまったのでしょうか? あなたの言葉がわかりません。あなたは『わかりました』と『はい』だけ言えるはずですよね?」


「は、はいって言う訳ないでしょ。イヤだよ! リリアちゃんともっと一緒にいたんだ!!」


 母の微笑みがさらに深くなる。これはマジ切れだ…


「カイルさん達、この人を連れて行って下さい」


「わかりました。奥様」


 母の命令で黒服の男達が親父を取り囲んで、縄で縛っていく。


「こ、公爵にこんなことをして良いと思っているのか? 公爵だぞ!?」


「教壇に立つ公爵など聞いた事がございません。そのような人物がいたら、見てみたいものです。そうですよね? 奥様?」


 親父の慌てた声に黒服の男のリーダーと思われる人物は母を見て微笑みながらそんなことを言う。


「もちろんです。公爵のような高貴な身分の人は教壇に立つ暇などありません。それに私の愛する夫は領地できちんと勤めを果たしておりますから、そこにいる人は偽物でしょう」


「リリアちゃん、助けて!!」


 母の言葉を聞いた親父はこちらに助けを求めてきた。だが、親父よ。オレにどうしろというのだ。だれがどう考えても領地を抜け出してきた親父が悪い。オレがそんな意味を込めて、親父に手を振って別れの挨拶をしてやる。


「お騒がせしました。では、またね? リリアーヌ」


 母はそう言って教室から出て行った。もちろん、縄でぐるぐる巻きにされた親父を部下に荷物のように運ばせて…


「リリアちゃん、お父様は必ず戻ってくるからね」


 身動きの取れない状態で教室から出て行く親父が不吉な言葉を残していったが気のせいだろう。オレはそう思う事で心の平安を保つ事にした。うん、そうしないとやってられないからね。


 それにしても、本当に今週はいろんなことがあった。きっと、オレの学園生活はこれからもバタバタするだろうな。なぜかわからないがそんな気がする。オレはそんなことを思いながら、教室に来るはずの新しい担任を待つのであった。

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