表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/82

六十六話目 北の森への移動

66.


 色んな事があり過ぎて疲れていたし早く休みたかったけど、マリア師匠にカールを紹介した後に稽古を付けて貰う事にした。

 マリア師匠の宿に来たら指導してもらうのが当たり前になっていたので、稽古をしないと寝付きが悪くなりそうだったからだ。


 マリア師匠との稽古は基本的に模擬戦だ。

 そうする事によって俺の経験則が上がり、どんどん強くなるらしい。

 どういう理屈か分からないけど、マリア師匠やジョーさんが言う事だから間違いないんだろな。

 実際に自分でも強くなっているのは分かるからね。

 今日は北の森に行く事をマリア師匠に伝えたから対木神流闘法の闘い方を教えてくれるという事で、いつもとは違って闘神流闘法の型をいくつか教わった。

 何度か型を繰り返し、その動きの意味を教えて貰って自分の中で消化し身に付ける。


「ぎりぎり及第点ってところかねぇ」

「ありがとうございます」

「やあ、頑張ってるね」


 マリア師匠のお墨付きを貰ったところで、そろそろ休もうと思ったら声を掛けてくる人が居た。

 そろそろ聞き慣れてきた声に振り返ると、そこにはジョーさんが居た。

 ジョーさんは俺に用事があるみたいだ。


「携帯で連絡してくれたら確実だったのに」

「最近は夕食を大事な人と食べてるんだろ? ちょうど夕食の時間が近いから電話は遠慮したんだよ」


 今は地球ではだいたい夕食の時間帯だ。

 ジョーさんには侑生さんの事は話してあったから、気を遣ってくれたみたい。

 ただ、俺が誕生世界に居る可能性も考えて、マリア師匠の店に様子を見に来てくれたらしい。


「まあ、マリアに会う口実にもなるからな」

「私はいつ来てくれても良いんだけどねえ」


 ジョーさんは誕生世界で俺以上に色々と立て込んでいてマリア師匠に会うにも口実が必要らしい。

 しかし、それを態々言うあたり、やり手である。


「アルムは国から依頼があったろ?」

「なんでそれを? ミゲールさんに聞いたんですか?」

「まあ、そんなとこかな。少し心配だから、俺からアルムに渡しておきたい物があるんだ」


 そう言ってジョーさんは俺に真っ赤な鳥の羽根を二つくれた。

 不死鳥の羽根だそうで神秘的な力を持っているらしい。


「ありがとうございます」

「それは、まあ保険かな。一応、常に身に着けて欲しい」

「わかりました」

「じゃあ用事も済んだしマリアの顔も見たし、俺はそろそろ帰るかな」

「もう行くのかい? もう少し居たら良いじゃないか」

「そうですよ。せっかくだからマリア師匠とゆっくりして下さいよ。あ、俺が不死鳥の羽根を受け取るのをなかなか了承しなかった事にしましょう。あー、不死鳥の羽根受け取ろうかな? やめようかな?」

「はは、じゃあもう少しマリアと一緒に居る事にするよ。ありがとね」

「アル坊、ありがとねえ」

「いえいえ、それじゃあ失礼しますね」


 そう言って、その場を失礼して宿の自分の部屋に行く事にする。

 うん、ちょっと良い事をした気分だ。


 部屋に入ると俺はアイテムウインドウを開き石棺を出してみる事にした。

 感覚で言うなら二十キロくらいだったかな? 石棺は石で出来ているわりに意外と軽い。

 それでも大きさが結構あるからアイテムウインドウからどんな風に出て来るか心配だ。

 アイテムウインドウの石棺を指差し取り出そうとすると、アイテムウインドウが伸びて大きくなって、そこから石棺が出てきた。

 アイテムウインドウって他の人から見えないはずだから、これって何か戦闘に役立てられそうな気がした。

 中に盾とかあって、それが急に飛び出したら……いや、そもそも戦闘中にアイテムウインドウを見る余裕なんて、相手がよっぽどの格下じゃない限り無さそうだから考えたって仕方が無いな。

 頭を切り替えて石棺の中に入り個人空間にちゃんと戻れるか確認する。


 個人空間に戻って少しすると、タイミング良く侑生さんから電話があった。

 もはや最近では夕食を一緒に食べるのが当たり前みたいになっている状況に、こんなに幸せで良いんだろうか? なんて思ったりもする。

 まあ付き合えている訳では無いから、もし付き合えたらもっと幸せになれるのかもしれないけど、この状況が壊れるかもしれない告白なんて出来る訳がない。


「それでね、()()がね」


 今日も侑生さんの弟の瑠生くんの話で盛り上がる。

 地球では入院していて外で遊んだりできないせいか、瑠生くんは誕生世界で相当にヤンチャをしているらしく、話を聞いていると無茶だなあと思うけど、なんだか微笑ましい。

 侑生さんとしては俺に対して愚痴ってるのかもしれないけど、俺はそれを聞いて笑ってしまっている。


「もぉー本当に困ってるんだからね」

「すみません。でも瑠生くんは凄いですね。ますます一緒に冒険してみたくなりましたよ」

「瑠生も稔くんと冒険したいって言ってたよ。凄く会いたがってるんだよね」

「それなら今度、病院に一緒に行っても良いですか?」

「本当に? 嬉しいな。あ、でももしかしたら誕生世界での元気な姿なら気にしないと思うけど、こっちでの姿は見せたくないかもしれないから瑠生に聞いてみてからでも良いかな?」

「あ、そうですよね。すみません、なんだか気を遣わせちゃって」

「ううん、いいの。こっちの方こそ、ごめんね。でも意外と瑠生は全然気にしないかもしれないな。それに、稔くんには本当に会いたがっていたから」

「そうですか。なんだか嬉しいですね。でも本当に瑠生くんの気が向いたらで良いですからね」

「うん。ありがとう」


 それから少し話をした後、侑生さんの部屋から自分の部屋に戻って来た俺はシャワーを浴びると、個人空間を経由して誕生世界へと移動する。

 地球世界の俺のスケジュールは朝まで何もないし誕生世界での時間をたっぷり取れるから、北の森に行くには丁度良い。

 石棺を出ると何時もの景色じゃなくて不思議な感じがして暫く呆けてたけど、考えてみればこれって凄く便利だなと思った。手間が省けるもんね。


 誕生世界は朝になっていた。

 冒険者ギルドに行って転移門を使えば、あっという間に北の森の近くの街に行けるらしい。

 そこで国から派遣されている人に会えるそうなんだけど、何か準備して行った方が良いのかな? 三十二階層を制覇出来る、つまり木の迷宮でやっていけるなら北の森での行動は何も問題が無いってスキンヘッドのガチムチマッチョのギルドマスターが言っていたから、真っ直ぐギルドに行っても良いけどなあ。

 取り敢えず、アルムの身体でも朝のシャワーを浴びてサッパリした俺は身支度をして部屋を出る事にする。


「お、おはようございます!」

「あ、おはよう。カール」


 階段を下りるとカールが俺を待っていたのかな? 満面の笑みを浮かべ近付いて来る。

 何か話をしたそうに見えたから促してみたら、俺が北の森に行く事をどこからか聞いたらしく、出来れば一緒に連れて行って貰えないか聞いてきた。

 国家依頼で行くからこそ冒険者ギルドで転移門を使って移動させて貰うのだし、特級冒険者でもないカールを連れて行くのは無理だと思うと断ると、自分を北の森の案内者として雇った事にすれば大丈夫だとグイグイ来る。

 なんだか図々しい奴だな。

 助けなければ良かったかな? と、そんな考えが一瞬だけ頭を過ぎったけど、あの状況は助けてあげたい状況だったし、助けたからには放置って訳にもいかないなと思い直した俺は渋い顔をしながらも了承した。


「ただ、冒険者ギルドの方で許可が下りなかったら自分で何とかするようにね?」

「わかりました」


 そう念押しして冒険者ギルドに向かう。

 ただ、歩くだけなのも何なので道すがらカールから北の森の情報を仕入れる事にする。

 北の森は森の最北に陸の切れ目があり、そこに神樹と呼ばれるとても大きな木があるそうだ。

 その木の近くに神樹を守る有力部族のエルフの里があり、その里を囲う様にエルフの各部族が街や村を作っていて、そして更にそれらを囲う様に獣人が各部族で街や村を作っているそうだ。

 獣人はそうでもないらしいけど、エルフは森に住む人達以外に対して排他的なエルフも多いそうなので先が思いやられる。

 因みにカールは、俺が裏稼業の人種から関わると不味いエルフだと思われている事を知らなかった。

 その事から踏まえると、赤髪の火炎操士で火の精霊の加護を持つアルムというエルフの情報を北の森に住む人達が知らない可能性は高そうだ。

 そんな訳で、認識阻害で金髪に見せていれば北の森のエルフからの協力を得られるかなと思っていたけど、考えが甘かったかもしれないな。

 まあ、北の森の近くの街で国から派遣された人にどんな事を指示されるかで俺がどうすべきかも変わってくる訳で、行ってみないとわかんないか。


 カールから話を聞きながら歩いていたら、割と直ぐに冒険者ギルドに着いちゃった。

 冒険者ギルドの受付けに行き、俺が国家依頼で北の森に行く冒険者である事と同行者で北の森の案内を頼んだカールが居る事を申請すると、あっさりと転移門使用の許可が出た。

 冒険者ギルド職員の案内で転移門のある所まで行く途中で冒険者ギルドマスターに会った。

 ギルドマスターは俺に「気を付けて行って来てくれ」とだけ言うと直ぐに去って行った。

 その顔が真剣だったので、なんだか嫌な予感がしてきちゃったんだけど大丈夫かな? 俺は嫌な予感を抱えたまま冒険者ギルド職員に促されたので仕方なく転移門をくぐる。

 身体に魔力がまとわりつく様な感触? いや、透明な薄い魔力の膜を抜けて行く感覚かな? なんとも表現しづらい感覚を味わいそれを超えると、そこには初めての景色が広がっていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ