六十七話目 転移その後
67.
目の前には初めて目にする景色、あぜ道が一本だけある草原の先に簡素な外壁の様な物があり、街らしきものが見える。
右手奥、恐らく北の方角だと思うんだけど、そっちには森らしきものが幽かに見える。
後ろを振り返ると石で出来た鳥居みたいな物、それともストーンヘンジって言うのかな? あれに似ているやつの何もない空間部分からカールが出て来た。
「ひゃー、転移門なんて初めて通ったけど、なんだか変な感じでした」
「だね。でも本来ならここまで何日かかかる訳だし便利だよね」
「本当、そうですよね。あ、あそこに見えるのは森に近い街ですよ。あ、あっちに北の森が見えますよ」
どうやら自分の故郷に近付いて来たのがハッキリ分かるからか、やたらとカールのテンションが上がっている。
でも、そんなカールには悪いけど、ちょっとだけ引き締めよう。
認識阻害の魔道具を早速使うからカールにも教えておかないといけない。
「カール、気持ちは分かるけどちょっと落ち着いて」
赤髪の純血エルフだと森エルフと揉め事が起きてしまう可能性があるから、金髪に見える様に魔法を使うから俺が金髪になっても驚かないようにと言った後、魔道具を使う。
「おお、アルムさんの髪が金髪になった」
鏡が無いので確認出来なかったけど、カールが居てくれたお陰で確認が出来た。
無事に金髪に見えているようだ。
「それと、これをカールには持っていて貰いたい」
「これって、もしかして不死鳥の羽根ですか? 良いんですか?」
「無事に家まで帰ったら返して貰うけどね」
「ありがとうございます」
俺はジョーさんに貰った、不死鳥の羽根の一つをカールに念の為に渡したんだけど、こいつちゃんと返してくれるかな? まあ、やたらと嬉しそうにしてるし、あげたもんだと思うしかないか。
そんなやりとりをしていると気配察知能力の高いノワールの指輪がカチカチと音を鳴らした。
そうだ、この指輪にも認識阻害の魔法をかけないとね。
もう一つの魔道具も作動させて指輪も認識阻害されるようにする。
カールにどんな指輪に見えるか確認したら宝石のついた指輪に見えると言っていた。
あれ? 認識阻害させたのに、ノワールの指輪がカチカチとまだ音を鳴らしている。
「指輪の事よりも、アルムさん。誰か来ますよ」
ああ、ノワールは誰かが近付いて来ているのを教えてくれていたのか、勘違いしてたよ。
でも、認識阻害を忘れずに行えたから良しとしよう。
取り敢えずカールが見ている方向を見ていたら、俺にも誰かが近付いて来ているのが見えてきた。
馬に乗った人達が七、いや八人か、街のある方から来ていないって事は出迎えって訳じゃなさそうだけど……
「特級冒険者の方々か?」
馬を俺達の間近で止め、降りもせずに馬上から質問してくるオッサン。
革鎧に身を包み腰には帯剣、背には大きな斧、山賊でもやってそうな針金みたいな髭が伸び放題の眼光鋭い厳ついオッサンである。
他の面々も似たような者で、それぞれ同じ様な革鎧と思い思いの武器を携えている。
「そうですけど、貴方達は?」
「これは失礼した。我等は国家依頼で来た冒険者を案内する者でしてな。出来れば一緒に来て貰いたいんだが」
厳ついオッサンがどうにかこうにか笑顔を作り言ってるけど、この人達が来たのは街の方じゃないんだよね。
なんだか怪しいんですけど。相変わらず馬上から降りないし。ちょっと聞いてみるか。
「街には行かないんですか?」
「いや、街に行くつもりだが?」
「ではなぜ、さっきは街のある方から来なかったんです?」
「ああ、あちらで狩りをしていたんだ」
狩り? 何の為に? 食糧確保かな? もうちょっと聞いてみるかな。
「へえ、そうなんですか。ここらではどんなものが狩れるんですか?」
「そんな事が気になるのか?」
ん? 誤魔化したのかな? ちょっとカマかけてみますか。
一応、万が一に備えてカールの周りに魔力防御壁をいつでも展開出来るようにしておこう。
「まさか特級冒険者狩りなんて言いませんよね?」
「気付いておったのか?」
うわ、なにこのオッサン、簡単に引っ掛かりすぎだろ。
いや、もしかしたらオッサンの渾身の冗談かもしれない。
念の為に彼等とカールの直線上に遮る様に立ち、オッサン達の出方を窺う。
オッサン達はそれぞれの得物を構えて、殺す方のヤる気が満々みたいだ。
やれやれ、幸先悪いな。
カールの周りに魔力防御壁を展開、そして多めに魔力を注いだ魔力防御壁を俺の身体に一部接触させたまま薄く大きく広く引き伸ばす様に展開させていく。
後は少し時間を稼ぐだけだ。
「この獣人は特級冒険者じゃないんで見逃してくれませんかね? 知り合ったばかりの地元の子なんですよ」
「その心意気や良し、庇う者が居ては実力も発揮する事が出来んだろう」
お? 意外と良い人だったりしちゃう展開だったり?
「なら良いですか?」
「申し訳ないが、運が悪かったと思ってくれ」
「そうですか、じゃあ貴方達も愛馬が死ぬのは運が悪かったと思ってください」
「なに?」
「魔炎」
俺の身体から引き伸ばす様に展開した魔力防御壁はオッサン達の馬に絡みつかせておいた。
後は魔炎を点ければ可哀相だし残酷だけど、馬肉ステーキの出来上がりだ。
馬上の敵は厄介そうだから無理矢理にでも降ろすに限る。
魔炎は馬だけでなくオッサン達にも飛び火する。
魔力が高く自分の周りに魔力防御壁を張る様なタイプなら、一緒に丸焦げになる可能性もあったけどオッサン達のほとんどは戦士系なのか魔力は少ないらしく、そうならずに済んだが一人だけ魔炎に纏わり付かれて悲鳴を上げている人が居た。
落馬して負傷したはずのオッサン達が魔炎に纏わり付かれて悲鳴を上げているオッサンをなんとかしようと自身の傷を省みずになんとかしようと奮闘している。
「頼む、あいつをなんとかしてやってくれ。この通りだ」
俺と交渉していたリーダー格らしいオッサンが目の前で土下座している。
助けてやる道理はない気もするけど、魔炎に纏わり付かれているオッサンの魔炎を火の精霊であるフランに吸い込ませる。
ネタ晴らしをする気はないので、フランには上手く身を隠してもらって魔炎を消した。
魔炎に纏わり付かれていたオッサンは息も絶え絶えだ。
仕方が無いので治癒魔法で火傷を治していく。
「す、すまない。か、感謝する」
お礼をなんとか言える様になるまで回復させたところで、とりあえず終了。
「さて、で、どうしますか?」
「本当に申し訳なかった」
そう言って、火傷からやっと回復したオッサン以外のオッサン連中が俺に土下座する。
正直、攻撃される前に攻撃してしまおうっていう考えで動いたから、こっちには直接的に被害が無い。
だから全員に土下座されると、許してしまおうか? という気になってきてしまう。
でも、このオッサン達は特級冒険狩りだから見逃すわけにはいかない。
ただ、特級冒険者狩りにしちゃ弱いし、迂闊なんだよね。
「貴方達は本当に特級冒険者狩りなんですか?」
「あんたが言う特級冒険者狩りがどんな連中か分からんが、俺達が特級冒険者と戦う事で力を示そうとしたのは確かだ」
「それはまたどうして?」
オッサン達は冒険者では無いけど、彼が言う分にはそれなりに有名な戦闘集団だそうだ。
たまたま街に居る国家依頼絡みで派遣されてきた人と知り合った彼等は戦闘自慢の自分達にも国家依頼を受けさせてくれと言った。
そしたら、特級冒険者と戦い強さを証明できるなら考えても良いと言われたらしいんだけど、なんだかその派遣された人って怪しいな。
ともかくギルドマスターから聞いた特級冒険者狩りとは違うらしいし、命までは獲る気はなかったみたいだから、許すかな。
許すってなんだか偉そうな気がするし、馬を全滅させちゃったし相手の方が損している気がするけど、まあいいか。
因みに、街じゃない方から来た理由は街に来る特級冒険者を探して街に繋がる道を回っていたからだそうだ。
「分かりました。取り敢えず、その国から派遣されていた人に会わせて貰っても良いですか?」
「ああ、わかった。それで勘弁してくれるのか?」
「良いですよ。こっちには損失は無いですし、そちらの方が大変ですよね? なんだか、すみません」
「いや、謝らないで頂きたい。喧嘩を売ったのはこちらだ。しかし特級冒険者というのは恐ろしく強いのだな。我らも冒険者になってみて精進したほうが良いかもしれん」
「特級冒険者じゃなくてアルムさんが強いんだと思います。なんたってアルムさんはあの……モガモガモガ」
戦闘が終わって急に饒舌になったカールの口を塞ぐ。
こいつにはきちんと言い聞かせないといけないな。
オッサン達が何事だ? といった様子でこちらを見ている。
「あはは、気にしないで下さい。この子はどうも調子に乗りやすい所がありまして余計な事を話そうとするんですよね。あははあはは」
乾いた笑いをようやく搾り出す。
乾いてるのに搾り出すとはこれ如何に? といったところだけど、って思考がずれた。
とにかく、小声でカールを諌めるとオッサン達と街へと歩き進んだ。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
皆さんは、この作品をどうして読もうと思いましたか?
また、ここまで読み進めた理由はなんでしょうか?
物凄く知りたいです。
出来れば教えてくださいね。




