三十八話目 疾風のペドロ
38.
「な、何をしているんだ? 何がどうなっているんだこれは?」
下品な怒鳴り声を上げている男が現れたのでそちらの方を見る。
「え?」
なんとそこには、ギャーギャー喚きたてるシエラが居た。
え? なにこの展開。話が上手すぎるでしょ。
ご都合主義乙とか言われちゃうレベルじゃない? でも運が良い。
「き、貴様ぁ! この混ざりエルフがぁ! 生きていたのか? それで、この俺様に復讐をしに来たのか?」
まあ、当たらずとも遠からずってとこかな? それにしても、こいつの一人称って俺様だったっけ? どうでもいいんだけどさ。
「俺様の縄張りを荒らして、このままで済むと思うなよ。もはや俺様の力は闘王美人に恐怖する必要が無いほどに強大なのだ!」
その闘王美人さんは目の前に居るよと言ってやりたいが黙っておこう。
と言うか、この惨状を俺が作り出したと思っているのかな? だとしたら、過剰評価恐縮です。
なんて思いながら自嘲していると、それが癪に障ったのかシエラが発狂したように更に何か喚く。
すると、さっきまでのゴロツキとは一線を隠した雰囲気のある連中が四人、前に出てきた。
双子なのかな? アントニオに匹敵する体躯を持つスキンヘッドの顔がそっくりの二人の男、その少し前に長髪のいかにも女好きって感じの顔の細身の男、そしてその三人の男に隠れるように立っている背の低いフードをかぶっている、体型から察するにたぶん女性。
四人それぞれの余裕のある立ち振る舞いが、相応の実力があるだろう事を物語っている。
「へえ、なかなか良い面構えの連中じゃないか。アル坊の相手にちょうど良いかもねえ。どの程度スキル能力が上がったか見たいから、アル坊が闘っとくれ」
そうマリア師匠が言うので仕方無く数歩前に出る。
俺の策とは一体なんだったのだろう? と、しつこく心の中で嘆きながらもマリア師匠の言う良い面構えの連中に対峙する。
「あんた、噂の闘王美人の弟子だろ? あんたとやり合えるのは光栄だけど、俺としては後ろのお姉さんとヤり合いたいぜ。ひひひ」
長髪細身の男は顔そのままのキャラだった様だ。
しかし、後ろのお姉さんが闘王美人であるマリア師匠とは気づいてない様だ。
闘王美人の二つ名を知っているだけで見た事は無いのかな? それともマリア師匠が春を売るお姉さん風に変装しているから気付いてない? まあいいや。
それにしても下種い顔で笑いながら腰を振っている姿が、キャラそのまんま過ぎて滑稽なので思わず俺も笑ってしまう。
「あはは」
「何が可笑しいんだ、この野郎」
突然切れたよ、この人。
言い終わると同時位に、特にステップも踏まずにかなりの速さの右下段蹴りをしてきた。
それは俺が見る事の出来るマリア師匠の蹴りに匹敵する速さだ。
でもつまりは俺にその蹴りは見えている訳で、半自動防御の魔力防御壁に長髪細身の男は蹴りを跳ね返されて隙が出来る。
半自動反撃による右ストレートを放つ。
繰り返しになるけど、スキルによって促される攻撃はスムーズで、格闘技経験の無い俺でも素晴らしい速度の右ストレートを放つ事が出来る。
冒険者ギルドで冒険者達と対人戦をした時も面白いように決まった。
「危ない危ない。噂になるだけあってやるねえ」
長髪細身の男は、17人もの冒険者を沈めた俺の半自動反撃での攻撃をあっさりと回避した。
回避した後に、俺と少し距離をとったのは用心の為だろうか? でも、そのお陰で俺は少し落ち着く事が出来た。
半自動反撃での攻撃を回避された事に少なからずショックを受けていたので、その少しの間は助かった。
「あんた確かアルムって言ったよな? 俺の名はペドロ、疾風のペドロだ」
長髪細身の男、改め疾風のペドロは名乗りが終わる頃には俺の目の前にまで移動してきている。
凄まじい速さで間合いを詰められた俺は一瞬たじろいだけど、ペドロの動きが見えない訳ではないので平静を取り戻す。
間合いを詰めたペドロはフックの様なパンチを繰り出して俺の顔面を狙うも半自動防御の魔力防御壁にはね返されると、その反動を利用して横に一回転しフックを繰り出した右腕の肘で俺のこめかみを狙ってくる。
だけど、それも半自動防御の魔力防御壁にはね返されると、また少し間合いを取る。
間合いを取る速度が速く、隙が見えないので半自動反撃での攻撃が発動しない。
「連撃でも駄目か。あんたのそれ、魔力防御壁だよな? 随分性能が良いな」
「おい、ペドロ。お前に無理ならいつでも代わるぞ」
「兄貴達は黙ってろよ。そろそろ調子を上げていくからよ」
スキンヘッドの二人が同時に同じ台詞をペドロに向かって言った。
素晴らしいシンクロですね。
しかし、ペドロの調子を上げるって言葉が気になるな。
もしかして、まだスピード上がるのかな? 勘弁して欲しいなあ。
「ボーっとしてんなよ、この野郎」
ペドロがまた一気に間合いを詰めてきた。
移動速度は変わらないかな。
そして、繰り出される攻撃速度も変わらない。
だけど、やたら手数が多いうえにフェイントも織り交ぜてきている。
虚実なんちゃらってやつだ。
前にマリア師匠にそれをやられた時は攻撃を捉える事が出来なかったけど、マリア師匠に比べて練度が低いペドロのそれを捉えるのは俺には容易かった。
「ちっ」
ペドロは舌打ちをすると、また少し間合いを取る。
「全くやってらんないぜ。闘王美人とやり合う前に、その弟子にとっておきを使う事になるなんてよ」
そう言うとペドロは俺から更に間合いを取り手刀を振り下ろした。
振り下ろした手の先から見えない何が飛んで来ていると感じた。
道が土煙を上げているから、その見えない何か、透明な刃の様な物の進路は予測出来る。
真っ直ぐ俺に向かってきている。
俺は意識して練り上げた魔法防御壁を、その透明の刃の様な物の進路方向に設置する。
透明な刃が魔力防御壁に当たり、そのどちらもが霧散した。
「なんだと!? じゃあこれでどうだ?」
ペドロが左右の手刀を交互に振り下ろし、次いで左右の足を交互に蹴り上げる。
透明な刃が四つ俺に向かって飛んで来るのが分かる。
なぜだか分からないけど、いつの間にかそれが見える様になっている。
俺はさっきと同じ様に魔力防御壁を練り上げ、今度は四つ透明な刃の進行方向に設置する。
そして同じ様に魔力防御壁と透明の刃は共に霧散した。
「だああ、もう無理無理。諦めた。俺の負けでいいわ」
「弟子にも勝てないようじゃ、その師匠に挑むのは無理だな」
「はいはい、兄貴達の言うとおりだよ」
先程と同じ様に同じ台詞を同じタイミングで言う二人のスキンヘッドに、その言葉を肯定するペドロ。
ペドロは俺の方を睨むと悔しそうにスキンヘッドの二人の後ろに下がっていった。
「じゃあ今度は俺達が相手だ。俺達は二人同時に行くけど良いか?」
「駄目って言っても無理なんでしょ?」
「確かにそうだな」
「四人同時に来られるよりかは全然良いですよ」
「では、遠慮なく」
スキンヘッドの二人は同じ台詞を同じタイミングで言い終えると、巨体に見合わぬ速度で左右に展開すると俺を挟むように攻撃してきた。




