三十九話目 雄風のジェネ兄弟
39.
左右からの挟撃は疾風のペドロの速さに負けず劣らずで、そのうえペドロより威力がありそうな力の籠った拳撃だった。
しかも、ご丁寧に俺から見て右側の大男は左フック、左側の大男は右フックで見事な左右対称だ。
そして予想通りに拳を振るうタイミングに軌道も一緒で、その結果として到達のタイミングも同時だった。
余りの迫力に半自動防御が通用しないかもしれないとビビる。
だけど、俺の半自動防御は二人の大男の同時攻撃も凌ぐ事が出来た。
大男は二人して攻撃してきた時と同じ様に左右対称で反ね返される。
すると二人して同じ様に間合いを取り、同じ台詞を同時に発した。
「「普通に殴ったんじゃ、効かないみたいだな。それじゃあ、本気を出そう。闘気を纏ってやってやる」」
二人の大男は台詞が終わると、二人同時に一気に間合いを詰めてくる。
そして、また同時に攻撃を開始して来る。
今度は正面から向かって右側の大男は右ストレート、左側の大男は左ストレートで、またも見事な左右対称。
「うわっ!」
ゴブリンキングと戦闘した時と同じ様になった。
魔力防御壁は確かに二人の大男の拳を受け止め、反ね返した。
でも俺は二人の大男に殴り飛ばされていた。
物理的にはノーダメージで身体に痛みは無いけど、魔力防御壁ごと殴り飛ばされた感じも、ゴブリンキングの時と同じだ。
だけど、殴り飛ばされた距離はゴブリンキングを大きく上回った。
二人同時の攻撃だと言う事を加味しても、大男の腕力か闘気の力か分からないけど、その攻撃力はゴブリンキングを余裕で上回っているって事だ。
さて、痛みは無いけどこのまま黙ってまた殴らるのは悪手だし馬鹿のする事だろう。
殴り飛ばされたお蔭で、ちょうど間合いも遠いし魔力の腕を練り上げる。
二人の大男よりも大きく太い腕の出来上がりだ。
二人の大男は一定の間合いから近付いて来ようとしない。
様子を見ているのかな? 仕方がないので俺の方から間合いを詰めていく。
数歩間合いを詰めると、二人の大男のうち一人が俺に向かって一気に間合いを詰めてきた。
先手必勝と片方の魔力の腕で向かってきた大男を殴り付ける。
向かってきた大男は魔力の腕が見えていない様だけど、近くに来ると風圧か何かで感知出来るのか、魔力の腕で繰り出した右ストレートが当たる寸前に横に移動して避けた。
すると、その後ろからもう一人の大男が俺に向かって攻撃してきた。
慌ててもう片方の魔力の腕で迎撃するも、もう一人の大男も感知出来たのか、魔力の腕の攻撃が当たる寸前に避けた。
二人の大男は交互に攻撃を暫く繰り返して来たけど、その全てに魔力の腕で対応していたら、二人同時に俺から距離をとった。
「なかなか良い反応だな。アルムと言ったか? 俺達は雄風のジェネ兄弟だ」
名乗りを上げるのが礼儀なのかな? 俺もなんか適当に名乗ったほうが良いのかな? でも相手は俺の名前を知っているみたいだしなあ。
なんて事を考えていると、ジェネ兄弟の片割れがまた攻撃してきた。
迎撃に魔力の腕を振ってみたけど、慣れてきたのか軽々と避けられた。
そして避けたうえに今回は俺の魔力の腕を脇にがっちりと抱え拘束する。
魔力の腕を自由に動かせなくされてしまった。
ならばと、動かせるもう一本の方の魔力の腕で殴り付ける。
すると、そこにジェネ兄弟のもう一人の方が現れて、同じ様に魔力の腕を脇に抱え拘束する。
魔力の腕は俺と魔力によって繋がっているから、俺はその場から動く事が出来ない。動く為には魔力の腕を消すという方法もあるけれど、それをするほど馬鹿じゃない。
「この厄介なものは二本しかない様子だからな。こうなっては俺達の方が有利だろう?」
台詞をシンクロさせながら同じ様にニヤリと笑うジェネ兄弟に、顔の表情までシンクロしてるんだねえと暢気な感想を持ってしまった。
俺も負けじとニヤリと笑う。
「随分と余裕だな?」
ジェネ兄弟が二人とも空いている方の手で俺に攻撃してきた。
俺は目の前に自分で練り上げた魔力防御壁を設置する。
その魔力防御壁によって拳をはね返され体勢を崩したジェネ兄弟が魔力の腕を拘束していた腕の力を少し弱めたので、俺は魔力の腕を二人から引き抜いた。
直後、魔力の腕でジェネ兄弟に反撃するが、またも簡単に避けられてしまう。
そして、ジェネ兄弟は長い距離の間合いを取る。
もしかして、この兄弟は俺には遠距離攻撃が無いと思って舐めてるのかな? 距離を取っておけば安全だ、みたいな感じなのかな? 舐めているなら、それでもいいさ。
俺はジェネ兄弟が間合いを取っているうちに、こっそりと魔力を練って魔力防御壁をいくつか自分の周りに設置した。
そしてそれを、遠距離攻撃は無いと思って油断しているであろうジェネ兄弟の方に向かって魔力の腕で殴り飛ばした。
すぐさま、ジェネ兄弟に向かって走り出して間合いを詰める。
魔力を使って走る速度を上げているので、ジェネ兄弟は予想外の俺の速さに驚いている様だ。
そのうえ、ジェネ兄弟は魔力をなんとなく感知できる様だけど、透明だから見えてはいない様で、自分達の方に魔力防御壁が飛んで来ている事に二人とも気付いていない様だ。
しかも、俺の間合いを詰める行動に気を取られてている。
このまま飛来する魔力防御壁に気付かないままだと思ったら、寸前で気付き回避されてしまった。
でも、殴り飛ばした魔力防御壁は二枚だけじゃない。
ジェネ兄弟の回避行動はさっきから何回も見ているから、どう動くか予想が付いているので、それに基づいて次の二枚も殴り飛ばしてある。
「ぐはっ」
予想通りに二人は互いの邪魔にならない為に広がる様に左右に回避行動をした。
二人は例によって同じタイミングで俺が殴り飛ばした魔力防御壁に当たり、二人揃って同じ苦悶の表情を浮かべながら同じタイミングでぶっ倒れた。
そして駄目押しに、倒れたジェネ兄弟に向かって魔力の腕を振り下ろす。
「ちっ」
だけど、魔力の腕はジェネ兄弟には届かなかった。
ジェネ兄弟の後ろに居たフードを被った女性が飛び出して来て、回し蹴りを繰り出し俺の魔力の腕を弾き返したからだ。
「貴方達兄弟の負けです。下がりなさい」
「言い訳は出来ないな。仕方ない」
フードを被った女性にそう言われ、ジェネ兄弟は潔く引き下がる。
フードを被った女性は俺の方に向き直ると、徐にフードをとった。
「やっぱり貴方は訪問者だったのですね。嘘吐きは嫌いですよ」
フードを取った女性は、見覚えのある顔だった。
街へと渡る橋の手前で訪問者か聞いてきた巻き毛の女性だ。
「あんな怪しい聞き方じゃ嘘も吐くでしょ?」
嘘吐き呼ばわりされたのが癪だったので、思わず反論してしまった。
「そうですか。次からは少し気を付けましょう。そして名乗らなかった名を名乗りましょう。私は暴風のエレナと言います」
「知ってるかもしれないけれど、俺は訪問者のアルム。二つ名は無いよ。ああ、敢えて言うなら闘王美人の弟子のアルム、かな」
「それはご丁寧にどうも有難う御座います。ついでに私にあっさり負けてくれると更に有難いです」
そう言うとエレナはペドロ並の速さで回し蹴りを繰り出してきた。
咄嗟に対応できずに半自動防御の魔力防御壁ごと蹴り飛ばされる。
蹴り飛ばされた距離からエレナの蹴りの威力は、ジェネ兄弟二人分の拳撃をも上回っている事が分かる。
可愛い顔して、なかなか厄介な相手だ。
なんて心の中で気障ったらしく呟いてみるけど、本当に厄介だ。




