十七話目 武器屋ハミト
17.
さて、街を探索するのは良いものの何処に行こうかな? こう言うのを街ブラって言うんだっけ? した事が無いから勝手がわからない。
武器屋と防具屋と道場を薦められたけど、昼迄に全部回るのは無理だろうなあ。
取り敢えず、マリア師匠の店の前の通りにある店を見て回ろうかな。
そんな事を考えながら道を歩く。
よく見ると看板の類とか普通にあるけど、文字が日本語、漢字や片仮名や平仮名なのは街の風景と比べると異質だ。
まあ、読めない文字より読める方が便利だから良い。
この通りは宿屋とか飯屋、それに酒場が多い。
そういう通りなのかもしれない。
近くに競合店が有れば互いに切磋琢磨するだろうから接客態度が向上したり、値段が安くなったりして客には良さそうだけど店側はどうなんだろう?
「あ」
そう言えば、アントニオさんは酒場に居るって言ったけど、どこの酒場に居るんだろう? まあ、さすがに朝からは呑んでいないだろうし、別に用事が有る訳じゃないからいいんだけどね。
「おっと」
そんな事を考えていたら、少年にぶつかりそうになり、それを意識したせいで半自動防御が作動して魔力防御壁を張ってしまう。
「いてて」
魔力防御壁に反ね返されて転んでしまう子供。
申し訳なく思い、手を差し伸べる。
「ごめんね。大丈夫?」
なるべくにこやかに対応したつもりだったけれど、俺の顔が強張って恐い顔にでもなっていたのかな? 少年は俺の手も言葉も無視して自分で起き上がると、ぷいとそっぽを向いて裏通りの方に行ってしまった。
まあ仕方無いかな。
俺は裏通りに行ってしまった少年を目で追ったけど特には気にしなかった。
ただ、少年を目で追った付近に武器屋を見付けたので、その店に入ってみようかなと考えてみる。
マリア師匠の店の前の通りを仮に宿屋関係専門の通りとするのなら、こんな所に武器屋が有るのは何だか違和感がある。
この武器屋がある通りが武器屋だらけの武器屋通りって訳じゃなくて、武器屋の先の通りは寂れてるから裏通りってやつだと思う。
知る人ぞ知る名店かもしれないし、裏通りに近いという事もあってヤバい店なのかもしれない。
でもヤバい店だとしても命までは取られないだろうし、お金は全財産を持って来た訳じゃないから大丈夫なはず。
そんな風に考えて武器屋に入ってみる事にした。
「ここは、お前の様な奴が来る店じゃないぞ」
声がした方を向いて見るが、誰も居ない……なんてオチは無く、そこには背の低い髭を伸ばした筋骨逞しそうなオッサン、たぶんドワーフって人種なんじゃないかな? が立っていた。
俺の格好か立ち振舞いか分からないけど、もしかしたら初心者感丸出しだったかもしれない。
しかしドワーフって人種は渋い。
これぞ職人って感じのオーラが半端無いんだよね。
このオッサンだけかもしれないけど。
「なんじゃい? お前は耳が聞こえんのかい?」
「ああ、いえ、すみません。ドワーフの方を見るのは初めてなもので」
「なんじゃと!? そんなに珍しいもんでもなかろうに」
「実は訪問者でして、こっちに来たのは昨日なんですよ」
「なんじゃと!? 完全に初心者じゃないか」
「ええ、そうなんです。初心者用の武器って売っていますか?」
「有るには有る。じゃが、お前、魔法使いと違うのか?」
「実は魔法は使えないんですよ」
「なんじゃと!? エルフの血が入っているのに魔法を使えないのか?」
武器屋のオッサンは俺の耳を見た後に目をしっかり見て、真偽の程を確かめるようにしている。
「正確に言うと、きちんと習っていないから使えないというだけで、使用不可能という訳では無いですよ」
「そりゃそうじゃろうて」
「そういうもんなんですか?」
「なんじゃ、自分の事なのに知らんのか? エルフ共は魔力操作に長けてる血じゃからのう。薄くとも入ってりゃあ魔法適性が無いって事は無い。つまり、魔法が使えるって事じゃ。お前はどれ位の割合でエルフの血が入っておるんじゃ?」
「えっと、俺、純血エルフなんですけど」
「なんじゃと!? じゃ、じゃが、お前は髪が赤いではないか!?」
このドワーフのオッサンも知っているし、混ざりエルフとか混血エルフとかよく言われるから、髪が赤ければ純血エルフではないって事は、多くの人が認知している誕生世界の常識なのかもしれない。
でも、火精霊の加護持ちである事は、なるべく口にしない方が良いと言われたからなあ……
「えっと……この髪色には訳が有りまして……」
「訳じゃと? うむむ……」
ドワーフのオッサンは、俺の髪の毛を見て興味深そうにしている。
意外と知的好奇心だっけ? そう言うのが強い性格なのかもしれない。
だけど、俺が言い淀んでいる事も有って深く聞くのは憚れるので我慢しているってところなんだろう。
「話は戻りますが、実は魔法を使えないどころか武器も使えないんですよ」
「なんじゃと!?」
「使った事が無いんです。今、闘う為の指導をして貰っているんですが、その師匠から武器屋や防具屋、それに道場を見学して来いと言われたんですが、その一軒目が此処なんです」
「ほほう、面白い指導を受けているようだな」
「そうなんですか?」
「ああ、武器屋や防具屋の職人の多くは、客の依頼に従って物を作るか、多くの客が好みそうな物を日々の生活の為に作っている」
「ええ」
「じゃが、そう言った商売品とは別に自分の趣味や嗜好、あるいは試験的に変わった物を作りたくなる性があるんじゃ。そう言った職人からすると、まだ決まった武器に染まっていない者を自身の造った武器で染めてみたくなるもんじゃ」
「なるほど……」
武器屋さんが独自開発した面白い武器を薦めてくれたりする可能性が有る訳か。
それは美味しいね。
もしかして、このオッサンもなんか武器を薦めてくれたりするのかな?
「じゃが、儂はそういった武器は作っておらん。客に合わせて一から武器を作るのを方針にしているのでな」
このオッサンはオーダー専門でやっているって事か。
でも、ここには沢山の武器が陳列されている。
何か訳が有るのかな?
「でも、ここには沢山の武器が陳列されてますよね?」
「これらは息子が作った物じゃ」
「そうなんですか」
俺は店に並べられている武器をチラッと見ると、気になった物に触れようとしてみる。
「息子の作る武器が粗悪品とは言わん。じゃが買うのは止めておけ」
「え?」
どうしてですか? とは聞けなかった。
オッサンは沈痛な面持ちをしていたからだ。
きっと何か訳が有るんだろう。
俺は触れようとしていた手を引っ込めた。
「まあ、気にするな。ところでスキルは何を持っているんじゃ?」
「スキルですか? えっと魔力操作と半自動防御です」
一応ジョブスキルの事も伏せておいた。
俺が二つのスキルを告げるとオッサンは微妙な顔をした。
俺って、そんなに駄目なの?
「闘法はどうするつもりじゃ?」
「トウホウですか?」
トウホウってなんだろう? 分からない事は聞くに限る。
「もしかして闘法が何かも知らんのか?」
「恥ずかしながら……すみません」
「闘法とは言葉の通り、闘う方法の事じゃ。神々の闘う方法を模倣していると言われているが、それが本当かどうかは儂は知らん。じゃが、この誕生世界の闘う方法には全て神の名前が付いておるのは知っている」
なるほど、闘法ね。
だけど、全部の闘う方法に神様の名前がついてるってのも不思議な話だな。
「神様の名前ですか?」
「そうじゃ。全ての闘法の祖と言われる武神流闘法、騎士の為の闘法と言われる陸神流闘法が有名じゃ。他にも無手格闘術主体の雷神流闘法に刀術に優れる風神流闘法、暗殺術と言われる影神流闘法や儂らドワーフが好む土神流闘法、お前のようなエルフが好む木神流闘法もあるぞ」
「種族によって闘法が決まっていたりするんですか?」
「そんな事は無いんじゃが、自身がどんな神と関わりが有るかで闘法を決める者が多いのでな。結果的に種族によって片寄りが出てくるんじゃ」
「そうなんですか。あの、知の神様か火の神様の闘法ってありますか?」
ここまで親切に色々と教えてくれるこのオッサンの事を信用して自分の事を話しても良いかなと思ったので、思い切って知の神様や火の神様に関する闘法が無いか聞いてみる事にした。
「知神流闘法は闘法と銘打ってはおるが実際は大規模戦闘での戦術に関する知識が大半と言われている。火神流闘法に関して言えば確かに存在はする様じゃが、森に住むエルフにとって火神流闘法の使い手なんぞ天敵、忌み嫌う存在じゃろうて。しかし、お前のその赤い髪……」
「実はですね……」
「も、もうお前は帰るんじゃ」
オッサンはぶつくさ言いながら、何事か考えているようだけど、あっさりと種明かしをしちゃおう。
そんな事を考えていたらオッサンが急に俺の肩を掴み、後ろを振り向かせると店の入り口の方にぐいぐいと押してきた。
店の入り口にはガラの悪そうな男達が数人、薄ら笑いを浮かべている。
「あいつらの事は無視して帰れ。儂の名前はハミトじゃ。店に来ても儂が居ない時は、この店に長居しないでさっさと帰るようにするんじゃ。お前と話せて楽しかった。良かったらまた来てくれ」
オッサン改めハミトさん……なんか違和感あるな。
それはともかくハミトさんは、そう小声で言うと俺を店の外に追い出した。
「お客さーん、もうお帰りですかあ? また来てくださいねえ」
ガラの悪い男達が俺をからかう様に言う。
ガラの悪い男たちを無視して歩く。
気になって店内を見たけど、ハミトさんは店の奥に引っ込んでしまったようだ。
ハミトさんに自分の名前を告げる事が出来ないまま、俺は店から離れる事になってしまった。
なんだか気になるし後味が悪い。
でも、ハミトさんは俺にあの場に居て欲しくなかったみたいだから仕方ない。
ただ、凄く不穏な空気が流れてたんだよな。
何かが起きるような……
そうだ! 衛兵の詰め所に行けばルイスさんが居るかもしれないから相談してみよう。
衛兵の詰め所に行きルイスさんが居るか聞くと、今しがた帰って来たとの事で運良く会える事になった。
「ここを訪ねて来るなんてどうした? 何か有ったのか?」
「実はですね……」
武器屋であった事をルイスさんに報告し、何か出来ないか相談してみた。
「ハミトの店か。アルムのハミトの為に何かしたいって気持ちは尊いけどな……」
「けど? もしかして何も出来ないんですか?」
「残念だけどな」
「どうしてですか?」
「実はな……」
ルイスさんの話ではハミトさんの店は今はハミトさんの息子さんが店主なのだそうだ。
そして、その息子さんと言うのが問題がある人物らしい。
ハミトさんはかなり有名な腕利きの職人さんで息子さんもその血を色濃く受け継いで将来を嘱望された職人だったけど、ハミトさんから店を譲られた頃から仕事が雑になり楽して儲けようとする様になって、なおかつガラの悪い人達と付き合う様になってしまったらしい。
ハミトさんは職人気質で厳しい人だから息子にも厳しく言うかと思ったら、もう息子に店は任せてあるからの一点張りで何も言わないのだそうだ。
「じゃあ俺が見たガラの悪い連中って言うのは」
「恐らくハミトの息子が付き合っている連中だろうな」
「じゃあ俺は何も出来ないんですね……」
「そんなに残念がるなよ。また来て欲しいとハミトに言われたんだろう? ハミトがそんな事を言うのは珍しい。よっぽどアルムとの会話が面白かったんだろう。また機会が有ればハミトに会いに行ってやれば良い。それこそが最善だ」
「そうですか、わかりました。相談に乗って貰ってありがとうございます」
「気にするな。それとハミトに会うのは良いが、ハミトの息子と付き合いのある悪い連中に絡まれないように注意するんだぞ?」
「わかりました。ありがとうございます」
その後、少しルイスさんと暫くの間、話をしていたら昼の鐘が鳴ったのでマリア師匠の店に戻る事にした。




