第三十七話 巨木の洞窟
町を出て少し歩くと、小さな森に入りました。
それまでは楽しくおしゃべりをしながらダンジョンへ向かっていましたが、小さくても森に入れば途端に雰囲気が変わります。
ガザ、ガサ、ガサ・・・
「なんかいるね」
フレディアがみんなに注意を促すと、すぐに茂みの中から魔物の群れが現れました。
「ウギャ、ギャ、ギャ~!!」
現れたのはミニバジリスク2匹と、火トカゲ2匹です。
どちらもEランクの魔物で、ミニバジリスクは毒を持っていますが、それほど強くはありません。一方火トカゲは名前の如く火を噴きますが、火力が弱いためそれほど危険ではないようです。
先頭を歩いていたロックと、ゴーレムが攻撃を仕掛けました。
「おっ、行ったね~!」
みんなワクワクして見ていましたが、内容はあまりよろしくなかったようです。
それもそのはず、ゴーレムの外見は騎士の姿ですが、操作しているのは戦闘ド素人のロックなのですから・・・。
「ロック、そんなメチャクチャ剣を振り回してもダメだよ」
「ちゃんと相手を見て攻撃しないと!」
「ひ~~~っ!」
ブン、ブン、ブン、ブン・・・・
必死のロックには、フレディアの声は聞こえていないようです。
シルヴィーは剣を中段に身構えていますが、膝がガクガクと音を立てて震えています。
(こないで!こないで!こないで~っ!!)
その後ろのポンポンは・・・。
「ふん!トカゲごとき、わしが呼び出した召喚獣で駆逐してくれるわ!」
そう言ってサモンの杖を振りかざし、詠唱を始めました。
頭上に黒い霧が発生し、グルグルと渦を巻き出しました。そしてプラズマの発生と共に、渦の中心から何かが飛び出てきます。
ひゅるる~!
「すごい、ポンポン!なにか出て来たよ!」
シルヴィーは、初めて見る召喚魔法に感動しています。
そして飛び出して来たモノが魔物に向かって行きますが、ちょっと相手との相性が悪かったようです。
ひらひらと飛び出したFランクの『プチモスラ』は、パクッとミニバジリスクに食べられてしまいました。
「えっ、蝶々を召喚したの?」
フレディアが驚いてポンポンに尋ねました。
「ちがう!あれはモスラじゃ!」
ポンポンは顔を真っ赤にして、うつむいてしまいました。
「じゃぁ、シルヴィー!」
「エアロカッターの魔法を発動してみて!」
「は、は、は、はい~!」
フレディアに言われてモニョモニョと詠唱を始めると、目の前に風の小さな渦が発生しました。
「えい!」
掛け声とともに風を放つと、風の渦は魔物とは全然違う方向へ飛んで行ってしまいました。
「あちゃ~!」
「練習ではうまくいっていたのに・・・」
フレディアはあさっての方行に飛んで行った魔法を見て、残念そうにつぶやきました。
「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」
「大丈夫よ、気にしなくてもいいのよ~」
ルナは必死に謝るシルヴィーの肩に後ろからやさしく手を添えると、精霊の加護を発動しました。
バシュッ!バシュッ!バシュッ!
小さな水の弾を発射し、一瞬で3匹の魔物を射抜いて倒しました。
実はこの水の弾はただの水玉ではありません、水の玉にルナの得意とするガードの魔法をまとわせて、ガラスのような硬度の高い弾丸に変質させた物なのです。
以前パステルの町で幻獣ケートスと戦った時、ルナの魔法で槍の形に変えた水を、カーナの魔法で凍らせて退治したことがありました。
ルナはハンクと結婚した後、自分も夫と一緒にこの国を守りたいと、密かに魔法の技術を磨き、氷の槍に勝るとも劣らない攻撃方法を編み出したのです。
さて、残りの1匹はロックとゴーレムが袋叩きにして倒したようです。
「キャハハ!」
「みんな頑張って行こう~!」
倒した魔物を回収したフレディアが元気よく声をかけましが、みんなはもう帰りたそうなそぶりを見せていました。
このあと道中に出現した魔物は、戦闘初心者の三名に出来るだけ相手をさせて、最後はフレディアかルナが後始末をする形で、目的地の巨木の洞窟へやって来ました。
このダンジョンは森の中にある大きな木に空いたウロから、地下の洞窟に続くダンジョンで、主にEランクとⅮランク、深い層にごく稀にCランクの魔物が出現する初心者向けのダンジョンです。
通常ダンジョンに入るには、安全確保のためにギルドの証明書が必要なのですが、こういった初心者向けのダンジョンは、それが免除されて誰でも入る事が出来るようです。
もちろん安全面は自己責任なのですが、これからギルドに入ろうとする者達の練習用に開放されているのでした。
入り口の周りは木や草が伐採されて広場になっており、20名ほどの冒険者が集まっていました。お店も5件ほど営業しています。
主にポーションなどの回復薬や、食料、武器を売っているお店で、中にはダンジョンで見つかった物品を販売したりするお店もあります。
時刻はちょうど太陽がもう少しで真上に来る頃なので、フレディアは少しダンジョンの様子を見てから、昼食にしようと言いました。
巨木に空いたウロから地下への階段を下りてゆくと、土の匂いとカビ臭い湿気た臭いが、鼻を刺激してきます。
地下に降りた場所はかがり火に照らされて明るかったのですが、先へ進むごとにかがり火の数は減り、どんどんと薄暗くなっていきます。
やはり地上と地下迷宮とでは、冒険者に与える緊張感や恐怖心が全く異なり、初心者の三人は、かなり怯えている様に見えました。
「これを使おうか!」
そう言うとフレディアは、魔法のアイテムボックスから魔道具の『ホタルン』を取り出しました。
それを全員に配ると、フレディアはホタルンをかざしました、すると少し緑色のかかったやわらかい光が辺りを照らします。
この魔道具は金細工で作られた籠の中に、魔力に反応して光る蛍石が入っており、微量の魔力に反応して明るく光る仕組みになっています。
お値段は一つ70ゴールドとお高いのですが、ずっと使えるアイテムなので、ダンジョンの探索には必需品です。
このホタルンはロファ王国のジーノの村の特産品で、いま飛ぶように売れている人気のアイテムなのです。
フレディアたちは、ホタルンを腰にさげて暗い地下ダンジョンを進みます。
道幅は結構広く、冒険者が横に伍人並んでもまだ余裕があります。
しばらく道なりに進むと、かなり広い場所に出ました。
そしてその先に怪しくうごめく魔物を発見しました。
Eランクのゴブリンが5匹、こちらの様子をうかがっています。
真っ先に攻撃を仕掛けたのはポンポンでした。
「こんどこそ、召喚魔法の真の実力を見せてやるのじゃ!」
ポンポンはサモンの杖を振りかざし、詠唱を始めました。
頭上に黒い霧が発生し、グルグルと渦を巻き出しました。そしてプラズマの発生と共に、渦の中心から何かが飛び出てきました。
「キ、キ、キ、キ~~~~ッ!」
雄叫びと共にEランクの魔物、『石猿』が現れました。
石猿は相手に石を投げて攻撃する、小型の猿の魔物です。
「よし!やっつけるのじゃ!」
ポンポンが命令すると、石猿は俊敏な動きで、ロックの腰に結わえていたお弁当を盗み、一目散に逃げて行きました。
「あ~~~っ!オレの弁当が!!」
「ポンポン!オレの弁当どうしてくれんだよ!」
「落ち着くのじゃロック」
「腹が減っていたから、食いたかっただけじゃろ?」
「弁当を食べたら、すぐに戻ってくるはずじゃから安心せい!」
「いや、オレは弁当の心配をしてんだよ!」
しかし石猿が戻って来ることはありませんでした。
ゴブリン5匹は、ゴーレムとシルヴィーが1匹ずつ倒し、残りの3匹はフレディアが倒しました。
「お腹もすいたし、一度地上へ戻ろうか?」
フレディア達は地上の広場に戻ると、大きな木の切り株に腰かけ、ロックのお母さんが作ってくれたお弁当を食べる事にしました。
「おいポンポン!お前責任を取ってオレに弁当を分けてくれよな!」
「何を言うのじゃ!」
「おぬし、育ち盛りの子供の弁当を奪うとは、人として恥ずかしくないのか?」
「はぁ~?」
「それ、おかしいだろ!」
ロックとポンポンが喧嘩をはじめたので、ルナが慌てて止めに入りました。
「まぁ、まぁ・・・」
「ロックにはわたくしのお弁当を半分あげますから、落ち着いて!」
「ロック様、私のお弁当も半分どうぞ!」
シルヴィーもお弁当を半分わけてくれました。
「キャハハ!」
「わたしの玉子焼きも一つあげるね!」
フレディアもロックにおかずをおすそ分けしました。
ところがポンポンはそれが気に入らなかったようで、いっぺんに機嫌を損ねてしまいます。
「ズルいのじゃ!ロックにだけ!!」
「はぁ?お前何言ってんだ!元はと言えば・・・」
またロックとポンポンの喧嘩が始まったので、ルナが慌ててポンポンのお弁当に、玉子焼きを入れてあげました。
「き、今日は初日だし、もうダンジョンはいいよね?」
「お弁当を食べたら帰ろっか?」
フレディア達は、ご飯を食べるとそそくさと帰路につきました。




