魔人アイン
「なぜ……どうして……どうやって……」
なぜ、息子が魔人になったのか。
その動機は。手段は。
大きな疑問が無数に枝分かれし、困惑と疑惑が頭の中を塗りつぶしていく中、蒼の魔人——アインはその場に片膝をついて報告した。
片膝をついても、アイゼンと目線の位置は変わらなかった。
「一つずつお答えしましょうか。まず、手段。もう一つの『万』の門を巡る戦争。その戦いに勝利した国の、贄の中に潜り込みました。激しい戦いの後でしたので、警備が比較的緩く、潜入自体は簡単にできました」
「……」
「あとは、ギブと同じ手順ですよ」
その回答に、アイゼンの顔から見る見るうちに血の気が引いていく。
ギブと同じ手段ということは、何らかの方法で1万人の贄の中から死人を出し、儀式の中断から、入ってきた要人を襲撃。
そのまま贄として扱い、儀式を乗っ取る形で魔人となったのだろう。
アインは外部からの侵入者。武器の持ち込みもできたはずだ。
潜り込めさえすれば、儀式の乗っ取りは不可能ではなかったのだろう。
だが、
「なぜ……お前が……! お前を魔人にさせないために、私は……!」
「はい。理解しております。これまでの御恩、忘れることなどございません」
自分一人が罪を背負うために、一人魔人となって国を守ってきた。
罪を背負う覚悟ができたのは、アインの存在もあったからだ。
壊れていくアイゼンに、アインは再び深く頭を下げてから、向かい直って宣言した。
「だからこそ、今度は私が父上の分も背負う番なのです」
静かに保護区へ歩み寄るアインに、「待ちなさい……!」とアイゼンが剣を構え、立ちはだかる。
「どいてください父上」
「いや、どかん! お前をこっちに来させるわけにはいかない!」
剣を構えるアイゼンに、アインは小さく息を吐いてから歩み寄った。
アインが近づく度に、アイゼンの剣の震えは強くなっていった。
「……以前、私に剣の振るい方を教えなかったと、お話されていましたよね」
アインは優しくアイゼンの震える手を握ると、剣を握る手から力が抜け、するりと剣がアインの手に渡る。
そして、
「剣の振るい方は、世界が教えてくれました」
アイゼンの腹に、アインが剣を突き刺した。
突き刺す直前、アインの手から伸びた糸のような物質が剣にまとわりつき、剣を強化していた。
魔人の剣で腹を貫かれたアイゼンは、黒い血を吐きながら、その場に倒れこんでしまった。
「アイ、ン……」
地に伏せながら、血を吐きつつもアインへ手を伸ばすアイゼン。
そんな姿に目もくれず、アインは学校の方へと静かに歩みを進めた。
アインの姿を見た住民たちが悲鳴を上げながら逃げるも、一切の興味も示していなかった。
そして、
「リリア」
学校に辿り着き、恐怖で息を詰まらせるリリアや子どもたちに、優しく手を差し伸べた。
手を差し伸べる仕草。そして何度も効いた声。
セオも、リリアも、子どもたちも、理解を拒んだように固まった。
固まってしまったリリアの掌を、アインは優しく握り直し、
「迎えに来たんだ。一緒に、戦争のない世界を作ろう。ついてきてくれるかい」
かつて共に夢を見た世界。
その片道切符を突きつけられ、リリアの顔が絶望に染まった。




