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122 ヴォルテッラ家1




 執事の一人と思われる男性が、二人に向けて挨拶をする。それにドナートが頷きを返す間に、フットマンが玄関ドアを開いた。

 どうやらアッシャーではなく執事が案内してくれるらしい。フットマンでもメイドでもなく、なのは一応こちらを慮ってのことか。

 使用人達がデルフィーナをどう認識しているかは不明だが、商人貴族と揶揄されるエスポスティ家であっても、客である以上は丁寧に対応する、その姿勢が窺える。

 ヴォルテッラ家の使用人は質が高いらしい。


 (いざな)われて踏み込んだ大広間は天井が高く、装飾も凝っていた。

 じっくり見たいが、足を止めるわけにも、間抜けに上を見上げるわけにもいかない。

 床は大理石だろうか。黒と白の市松模様で、ホール内には暖炉、椅子、テーブル、純銀製らしきワインクーラー等が置いてあった。

 彫刻の施された円柱も存在感はあるが、それ以上に、壁にかかった絵画や、飾ってある東大陸産の大きな壺や大皿のインパクトが強い。

 それなのに品を損なわず、高級感だけが溢れているのは、センスが良いの一言に尽きる。


 屋敷が建てられた当時はここ(ホール)が生活の中心の場か、宴会の場として使われていたのだろう。古さを感じさせないのは、時代に合わせて補修と改修をしているからだ。


 エスポスティの屋敷は新しい分、歴史を感じさせないため、生活空間としか認識していなかったが。ここは完全に歴史ある貴族の城館で、文化遺産として鑑賞したい欲求がむくむくとわき上がる。

 建物も、室内装飾も、置いてある家具も、どれもこれも素晴らしい。


(んあぁー! 全部全部、じっくり見たい!!)


 子爵令嬢としておかしな行動が取れないのがこれほどつらかったことはない。

 デルフィーナは楚々と歩きながら、地団駄踏みたい気分を懸命に押し隠す。もはやすっかり緊張など彼方に飛んでいた。


 ドナートだけは娘の様子がおかしいことを察していたが、具合が悪いのでないのなら、ここで声をかけない方がよかろう、と流している。


 そんな二人と付添いのエレナを、執事は言葉少なに誘導する。

 ホールを左手に抜けた先を曲がると、ファサードから直角に伸びる形で建物があり、中庭に面した回廊へ出た。

 中庭は思ったほど広くない。廊下は先へ続くのに、ファサードと平行して建つ別の棟がそれより手前にあり、中庭を区切ったようになっている。そのため、本来より狭いのかも、と思えた。

 とはいえ建物全体が大きいため、他と比べたら十分広い。コフィアが庭ごと二軒入りそうな規模だ。

 パーテアの庭は綺麗に手入れされ、幾何学模様に配置してある低い生け垣や花壇が見事だ。全体的に低めに作られていて、とても見通しがいい。視界が広いことで狭さを補う構成だ。


 そんな中庭を、二度見してしまうようなものが歩いていた。


「孔雀……?」


(うわぁぁ、これが! これが貴族! 正真正銘の貴族だ!!)


 デルフィーナのテンションはうなぎ登りだ。

 貴族といえば孔雀、というのは地球の貴族の話なのだが、バルビエリでも通用するのか。

 庭を歩いているということは、飼われているのだろう。これを食べることもあるのだろうか。キリスト教は関係ないから、食べず単純に飼育だけだろうか。


 孔雀の食性を考えると、デルフィーナは決して食べたいとは思わないが、見ている分には目に楽しい鳥だ。

 雌は長い尾羽がない分比較的控えめな見た目だが、頭から首のあたりはしっかり光沢のある緑、いわゆるピーコックグリーンをしていて、美しい。

 雄雌両方が歩いているところを見ると、繁殖もしているのか。

 長い尾羽を引きずっていても雄は見応えがあってデルフィーナはしばらく足を止めてしまった。


 七歳の子供が鳥に見蕩れるのは普通のことだからか、案内の執事は何も言わず、むしろニコニコとデルフィーナの様子を眺めている。

 貴族が孔雀を飼うのは持てる権力の誇示でもあるので、これに来客が反応するのは、歓迎すべきことなのだ。


 鳥独特の歩き方だが、ゆったりと歩く様は優雅にも見える。

 途中止まった雄が足で冠羽の根元を掻いたことで、デルフィーナははっと我に返った。

 内心慌てて、しかし顔には出さず、案内の執事へ顔を向ける。にこりと微笑すれば、会釈した執事がまた歩き出した。


(危ない危ない、まだ着いたばっかりなのに。油断大敵だわ)


 この館は魅力がありすぎる。デルフィーナの抑えている本心が零れ出しそうなきっかけがそこここに転がっていて、とても危険だ。


 再度気を引き締めたデルフィーナは、進みながら建物へ意識をずらす。

 奥の方はよくわからないが、平行して建つ棟はファサード部分より新しいように思える。

 回廊の天井は尖頭アーチだから、ゴシック風の建築がベースにあって、奥を増改築しているのだと推察できる。

 裏手側はどんな風になっているのか非常に気になるが、その前に部屋へと誘導されてしまった。

 客が勝手に歩き回るわけにいかないし、今は諦めるしかないだろう。


(いつか! 見せてもらえるといいな!)


 公爵閣下が難しい人でなければお願いできないだろうか、等と考えていたデルフィーナが案内された客間は、これまたどっしりとした豪華さで。

 格式高そうなソファセットがあり、ドナートと二人、そちらで待つよう告げると執事は下がっていった。

 入れ替わりにフットマンとワゴンを押したメイドが現れて、ソファ近くまで進んでくる。

 デルフィーナはドナートに倣って、おとなしく示されたソファセットへ腰を落ち着けた。


 二人が座ったことで、フットマンがワゴン上のものをローテーブルに並べていく。


 それは“最新”の磁器の茶器セットと、三段のケーキスタンド――スリーティアーズだった。

 並ぶスイーツもセイボリーも、デルフィーナ発案だが、名を伏せてレシピ公開をしている、<エスポスティ商会発>ということになっているものばかり。

 デルフィーナは一瞬半眼になるも、すぐ口元に微笑を刷いた。


(なるほど。公爵様は“知っている”と暗にお示しなのかしら、ね?)


 最後にメイドが紅茶をポットからカップへ注いで、一礼すると壁際に下がっていく。フットマンとあわせた二人は室内に残り、何か用がある時に対応するため控えるようだ。


 使用人は意識しないもの、と教えられているが、家とはまた違った雰囲気の中、存在を丸々無視するのは少し難しい。

 そばに控えているエレナは既に馴染んだため、いつでも傍にいるのが当然になったし、今でもソファの後ろに立っていても気にならないのだが。

 意識を切り替えて、デルフィーナはテーブル上を注視した。


 アロイスならポーズも含め、並べられたアフタヌーンティーセットの全部を喜んで食べただろうが、生憎とデルフィーナはそこまで量を食べられない。

 これはしっかり大人一人前の量がある。全く手をつけないのも障りがあるため、いくつかの軽めなスイーツを摘まむことにする。


「美味しい」


 アレンジされたトライフルは、スポンジケーキがクッキーに変わっていて、サクッとほろっとしつつクリームでしっとりになり、フルーツの酸味と合わさって美味しかった。

 キューカンバーサンドにはマヨネーズが使われていて、ヴォルテッラ家が人材確保の能力も高いと窺わせる。

 フルーツタルトに乗ったフルーツは南国のものがたくさんで、デルフィーナが入手していない種類がまだまだあるのだと教えられた。






お読みいただきありがとうございます。

PCを新しく購入しました。

文字の変換が、使い慣れたものと比べてかなり不思議で、これから使って学習していくんだね、という感じです。慣れるまでもうちょっとかかりそうです。

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