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三十八回目

 ごとり、と重いものが置かれる音がして、さあまた新しい世界の幕開けだ。……と思ったんだけど、首から下がないんだけど?

 即死オチはまだいいよ。まあ、「おおもの(王道昔話に物申す)」の世界でのことはこれっぽっちも許してないけどね。「初見殺しゲーム」のゾンビでさえ生きている人間設定だったんだぞ? まず生首っておかしくない? もう死んでるじゃん。どこまで頭イカれた転生さすの?

 そう思っていると、包丁を仕舞った奥さんがやってくる。え、物騒。でも彼女に切られたわけではなさそうだ。エプロンつけて身綺麗だし。首切ったらさすがに血塗れだろう。

 そう思ったが、奥さんは満足げに笑んで私の頭を撫でる。まあ、頭しか撫でるところはないが。

「うんうん、上手く刻めた」

 ぞくぅっと背筋もないのに悪寒が走るのを覚えた。今「上手く刻めた」って言ったよね? それはこの頭部をってこと? 実は記憶がないだけで、生首にされて身綺麗にした後だということ?

 え、怖いんですけど、え……こんな優しい笑顔でサイコパス奥様なの? 何この世界観怖。

「写真撮っちゃお」

 パスみのある発言! それパスみのある発言だから!! 奥さん、謹んで!!

 と叫びたかったが、叫ぶための喉はない。奥様は私(生首)とのツーショットがお望みのようだ……ここまでパスみがすごいとあれだね。恐れを通り越して感心しちゃう。これが世の中の普通なのかなって錯覚しちゃう。

 しかし、私の予想は斜め上方に裏切られた。

 スマホの内側カメラを起動した奥さんの正気を疑った。まさか生首とのツーショットをSNSにでも晒すつもりなのだろうか。酔狂通り越して狂気の沙汰だよ。それが、スマホの内側カメラにより、誤解的な何かが解けた。

 鏡に映る奥さん。自撮りは手慣れているのか自然だ。その横には血塗れの生首などなく、血塗れじゃない生首でもなく、オレンジ色のカボチャが顔のようなものをくり貫かれて鎮座していた。その顔はハロウィンの大定番、ジャックオーランタンに他ならない。

 なるほど、刻んだとは、ジャックオーランタンの顔のことだったのか。中をくり貫くのは大変じゃなかっただろうか。一発でジャックオーランタンとわかる程度に刻めるとは驚異的な才能である。それとも毎年刻んでいるのか。

 そんな思考の合間にぱしゃりとシャッターが切られた。ちゃっかりウインクなんかしちゃって、可愛らしい奥さんですこと。

 いやはや申し訳なかった。まさかカボチャに転生するとは思わなんだよ。生首切って喜んでいるサイコパスだなんて思ってごめんよ。

 それから私は夕方に帰ってきた子どもに披露された。

「ジャックオーランタンだ! やっぱりママのが一番!」

「うふふ、じゃあ、これを被っていってらっしゃい」

 子どもの頭に被せられる私。ちゃんと子どもの視界確保もできているようだ。随分でかいカボチャだな。

 それからは子どもに頭を揺さぶられながら、「トリックオアトリート」と近所を歩いて回るのを微笑ましく眺めていた。古くからの慣習って素敵。

「ただいま、ママ! トリックオアトリート!!」

「はぁい。カボチャのパイがあるわよ」

「わぁい」

 うんうん、こんだけでかいカボチャくり貫けば、パイくらい作れるだろうとも。

 子どもがジャックオーランタンを脱いだ。

「さ、ハロウィンも終わりね」

 ……あれ、奥さん。どうしました? ハンマーなんて持って……

「最後の儀式だね!」

「美味しいパイになってもらいましょうね。それっ!」

 がすんっ。

 カボチャのパイ作るって、そういう?

 結果サイコパスの所業なのだが……

 薄れゆく意識の中で、だいぶこの理不尽に慣れてきた私は思った。


 できれば、パイよりキッシュがいいです……

ハッピーハロウィーン★

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