二十回目
今回は特に騒がしくなく、ゆったり起きることができた。こじんまりした部屋の中、こじんまりしたベッドの上である。
起き上がって部屋を見渡すと、わりと殺風景な中に姿見が一つ置かれていた。机の上にカレンダーが置かれているのは独特だった。
机の上を覗くと、おそらく今日までの日付のところに罰印があった。まさか恋人とのデートの日を待ちわびているわけではあるまいし。というか壁にかけろよ、カレンダー。
で、まだ印のついていないおそらく今日の日付には「召喚の儀」という走り書きのメモが書いてあった。
召喚、召喚ねえ……読んでいた小説にはよく出てきていたし、ゲームでも今やお馴染みの概念である。私も異世界転生なら召喚とかされてみたかった。
ふと、自分の格好が気になって、姿見の前に立った。そこで絶望的にセンスのないスウェット姿の青年の姿を目撃し、さすがに着替えようと思った。髪もぼさぼさだ。
クローゼットを開けると、なんだろう、見覚えのある衣装が。これ、何の作品のやつだっけ……?
すぐ思い出せないということはこのキャラは大してメインの方のキャラではないということになる。まあ、召喚士っぽく、不思議な光の玉が嵌め込まれた杖とかある。あと、ストラだっけ? なんか肩から前後に下がってるひらひらしたやつ。あれも衣装のうちらしい。宗教絡んでそうだな。あと、なんか世界の個性的なデザイナーがデザインしたのかとでも言うような無駄なまでにでかくて珍妙なデザインの帽子があった。これ被って歩かないといけないのか? 重そうだな。
髪は……ポマードとかよくわからないし、とりあえず櫛でとかせばいいか。
そんな感じで身支度をしていると、外が騒がしくなった。かんかんかんと鳴り響く音はあれだ。早起きの催促のために鍋をおたまで叩くみたいな。魔法とかありそうなのに昭和チックだな。
でもなんとなく思い出したぞ。これは「お騒がせ王子シリーズ」の話だ。ファンタジー世界観に拭いきれない作者の世代が絶妙に入り交じってコミカルな感じが愛された作品である。絶大な人気を誇ったわけではないが、暇なときにだらだら見るのに適した作品だ。
ということは確か、カレンダーのメモを指で擦ると違う文字が浮き出て……おおっ、本当に出てきた。
「結婚式……」
うん、今回も例外なく死ぬらしい。
結婚式で死ぬとは、という話なのだが、まあ、死ぬのだ。諦めて潔く行こうか。
おそらくだが、また王子が何か厄介事を持ち込んだのだろう。まあ今回は結婚式。そこで我々召喚士が召集され、華やかに式を彩るために可愛い召喚獣を召喚してほしいとか云々。
やること成すこと全てお騒がせになる王子さま、ハルラメルク。企画力と行動力は目を見張るものがあるが、どれも何かしらの厄介事に繋がる。自然災害でぐちゃぐちゃになった街を復興支援のために魔法復興を計画するが、逆に街がめちゃくちゃになったり、新人の召使いをスカウトしたらそれが敵国のスパイだったり、とにかく何をどうやったらそこまでトラブルまみれになれるのか、というくらいのシリーズなのである。
ちなみに本来は「第一王子のはかりごと」というタイトルなのだが、あまりにもドタバタしているので広まった俗称「お騒がせ王子」が正式名称になったという背景がある。
まあ、そんなことはどうでもいい。
たぶんだが、召喚士団が会場に集まっているはずだ。先に行ってとっとと仕事を終わらせよう。もれなく人生も終わるけどな。
「おはようございます、士団長!」
「おはよう。みんな、準備はできているか?」
「はい。式場をもふもふパークにするなんて、トラブルメーカーの第一王子にしてはいい案だと思い、皆張り切っております」
トラブルメーカーの第一王子、というのに苦笑してしまう。全くだからだ。
「私語は慎め。では私も配置につこう。魔法陣は?」
「こちらです」
うーん、いかにもな怪しい魔法陣があるぞ。
なんか見たことない文字書いてあるし……変な紋章入ってるし……これで怪しまない召喚士たちも王子のことは言えないと思うのだが。
斯くして、式が始まる。
誰の結婚式だっけ、と思いながら、魔力を集中させる。魔法陣が仄かに輝いた。
光が広がって、目映く視界を埋め尽くす。
やがて、そこに現れたのは白いもこもこもふもふの集団である。赤い目がくりっとしていて可愛いうさぎたちの集団である。
「まあ、可愛い!」
「こんな演出を考えるとは、さすが第一王子さまね!」
そんなお天気頭のやつがいるのか。よく言えたものだ。
と、一人突っ込んでいると、腕にぴょこん、と一羽が乗ってきた。まあ、可愛いのだが……
その口が開かれる。欠伸にしてはでかいな、と思っているうちにばくん……闇に包まれた。
そう、このうさぎ、実は、悪魔が化けたもので……あ、体が唾液で溶かされていく……
あ、ああ……とりあえずこれから起こる悪魔との戦争頑張れよ、王子。




