表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/17

5-4 シチュー

観測士の男は病院で覚醒した。


意識がはっきりしたところで、ギルが事情を聞く。


観測士はカエデと名乗った。

全国的に有名な観測士であり、ギルも資料で何度も目にした名前だ。


カエデがこの地にやってきた際に連絡を入れていなかったのは、商人ギルドから渡された地図が古く、準会員の商人であるギルが、2年前に提出した商圏の情報が反映されていなかったらしい。

準会員の扱いが雑と聞いていたが、商人ギルドはもう少しちゃんと仕事をして欲しいと、ギルとカエデは苦笑いした。


カエデは東北地方ではトップの転生者救助数を誇る優秀な観測士だ。


後進の指導も率先して行っていたが、今回同行していた観測士志望の採取師2名が離反した。理由はカエデにも分からない。

毒物を盛られ、魔道具と装備を奪われた。殺害される前にかろうじて逃げたが、毒で身体が言うことをきかず崖から転落、その際に負傷したらしい。なんとか川岸に這い登ったが、そこで気を失った。


観測士は、今回の件は自分から報告すると言い、ギルおよびギルの商会には何の非がないと説明すると約束してくれた。


迎えの車の車窓で、カエデが今回救ってくれた若い採取師に礼を伝えてくれと最後に言った。

去って行く車を見送りながら、ギルは今回の件がひとまず無事に終わったと、胸を撫でおろした。


◇ ◇ ◇


二日後、採掘から戻ったバネッサは商館に鉱石を納品した。


質・量ともに、今までの成績をはるかに超えた成果だった。


鑑定の担当者は「これなら今年の採掘量レース、上位を狙えるかも」と興奮するも、バネッサは控えめに礼を言って、報酬を受け取って静かに去っていった。


いつもなら軽いステップで踊りながら喜ぶのに。

経緯をそれとなく知っていた担当者は「社長たち、早く仲直りしてくれねえかな」とつぶやいた。


◇ ◇ ◇


とぼとぼと家路に向かう。つまり、ギルの自宅へ戻るのだ。

数日前のキッチン、ギルのあの時の顔が浮かび、あの時の恐怖と絶望感がざらりと胸の内を流れる。


おじいちゃん先生が、教えてくれた言葉を毎日くりかえしていたが、ギルの顔を見るのが怖かった。でも、それでもここに帰ってきてしまった。


ギルの自宅前。いつもの癖で建物周辺の観察を行う。

ふと、懐かしい匂いがした。玄関の前でモジモジしていると扉が開いた。


「おかえりなさい、バネッサさん。お疲れでしょう、まず、手を洗いましょうー」


おじいちゃん先生が迎えてくれた。


「男の人は無事だったそうですよ。もう安心ですねー」

「それは、よかった、です」

「今回は頑張りましたねー、バネッサさん。先生が100点あげますよー」


「先生、もう座ってて下さいよ」

「ギルさん、何ですか。おかえりなさいも言わないとかー」

「ああ、バネッサ。夕飯できてるぞ、さっさと手を洗ってこい」


急いで手を洗い、自室で部屋着に着替える。

食卓に着くと、目の前に皿がだされた。


シチュー、だ。


転生後、森をさまよっていたバネッサに、ギルが最初にふるまってくれたシチュー。

バネッサがギルの顔を見る。


「いや、何となくな。久々に食おうかなって」


久々に食べるが、今となっては雑な味付けと感じる。


でも、バネッサは嬉しかった。

まだ、この人は寄り添ってくれるのだ、と胸が温かくなった。


◇ ◇ ◇


観測士カエデが去ったひと月後、ギルの商会へ大量の「米」が送られてきた。


大型トラックで配達してきた転生者がギルへ2通の封筒を渡し、去って行った。


一通目は東北の商人。カエデの契約元だ。

今回の救出のお礼、加害者の確保および処理の完了報告。

言葉短にではあったが、本件が過去のものとなった宣言だ。


カエデは約束通り、今回の件はギルとは無関係にしてくれたということだ。


米は、救援に当たった皆さんで食べてください、との事。

救出費用を現金で、ではなく米か。

ありがたく頂くとして、この量はえげつないな、とギルは苦笑いした。


もう片方の封筒はカエデからだった。

青とも紫とも言えない洒落たインク。万年筆の手書きの手紙。

ギルとギルの商会への賛辞と謝礼。義理堅い人だ。


救出してくれた若い採取師に、自分が採取師だった頃に掘った石を送ると結びにあった。


封筒に和紙で包まれた小さな鉱石が入っていた。ギルが思わずつぶやく。

「こいつは……すげえな」


魔道具製作に必須である鉱石の中でも、特級クラスの純度の代物だった。


高性能の魔道具ができるだろう、バネッサの喜ぶ顔が浮かぶ、が。


「まあ、今渡しても浮かれあがるからな、しばらく後で渡してやろう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ