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プロローグ・居酒屋にて

え、バネッサのこと聞きたいって?


ふーん、お前、あいつの事、狙っているのか?

え、あいつみたいになりたいって?

……なれると思うぞ。お前、飲み込み早いしな。


バネッサが一人前の採取師になるのに、普通の倍以上の時間がかかったよ。

何と言っても、あいつは久遠(不老)だしな。のんびりしたもんさ。


……え、出会いのきっかけ?


あ、お姉さん、大ジョッキおかわり。


で、何だっけ。ああ、バネッサと会ったのは、うちの縄張り(商圏)の北の山だったかな。

俺は商会立ち上げたばかりでさ、自分でも採掘しないと商売が回らなくてな。


で、いつものように採掘してたら、センサーが反応したのよ。金属反応付きで。


距離もあったし、知らん顔して石叩いてたんだけど、全然動かない。

こっちを伺っているのか……ははーん、採掘が終わったら追いはぎしよう、ってか。

で、まあセンサーには細かい動きがあれば報告させるようにして、そのまま作業続けたってわけさ。


お、来た来た。ちょっと待て飲むから……。

ぷっはー、うめえ。あ、お姉さん、から揚げと白モツたれを二皿ずつ追加で!


お前、何か追加する?……あん、で、どうなったかって?


えーと、作業終わったので飯の用意してたらさ……ぷっ、くくく。


……すまん、すまん、思い出したら笑いが。


隠れていた、奴の腹の虫が大きな音たてたんだよ。


『ぐぐーっ』て。


くくく。……レシーバーもよ、「報告、現在の音は監視対象者の収縮運動音です」とか言いやがるし。


で、あんまり面白いから言ってやったんだよ。


そこのお前、一緒に食うかって。


そしたら、さすがに隠れているのがばれたと分かったのか、諦めて木の陰からちょろっと出てきたんだ。

予想はしてたけど、着ていた白い甲冑を見て、すぐに分かったよ。


こいつは、俺と同じ「転生者」だってな。


俺は心躍ったね。商会立ち上げて、まだ一人も転生者を見つけてなかったからな。

ああ、商人ギルドの正式会員になるには、3人以上「転生者」を保護しなきゃならんのさ。


で、こっちに来い、飯食わせてやるって。敵意は無いぞって、ナイフも遠くに投げた。

でも動かない。こりゃ言葉通じて無えなって思ってさ。

寒かったけど、シャツとパンツ一丁になって、菓子パン持ってゆっくり近づいたよ。

ああ、菓子パンは夜のおやつ用に持ってただけさ。


その間、あいつはじーっとこちら見ててさ。


甲冑ということは、戦闘職だ。こっちは内心ブルブルよ。


で、5m位かな、隠れている木の前まで近づいて──


ぷはー。3杯目どうするかな。……ハイボールにしようかなあ。

え、ああ、うん。うるせえな。ちょっとは飲ませろよ。


えーと、菓子パン二つに割って、あいつの目の前で食って見せたっけ。

残りの半分を地面に置いて、後ろ歩きで焚火に戻ったのさ。


しばらくしたら、ノコノコ出てきたよ、あいつ。


もう野生動物の餌付けだよな。

菓子パンを手に取って匂い嗅いで、こっちを見ながらバクバク食いやがった、ははは。

喉詰まらせてさ、水筒投げてやろうと思ったら、自分の水筒で水を飲んでたよ。


まあ、こっちも服を着ながら、あいつの様子を観察してたんだ。


甲冑は詳しくないけど、軽甲冑って感じだったな。武器は腰のナイフだけ。

リュックとかが見当たらないけど、どっかに置いてきたのか落としたのか、それとも転生前に……まあ、良くある話さ。


そういえばよ。この話がなんだか広まってな。

あいつの二つ名、「腹ペコ猫」の元ネタになったらしいぜ。

言いふらすなってあいつや色んな人に怒られたよ。まあ、どうでも良い話だな。


とりあえずシチューも食わせてさ。

身振り手振りで一緒に来い、もっと旨いもの食わせてやるって説得してさ。

え、日本語が通じねえから、空になった鍋を逆さにしてみせて、遠く指さして食うジェスチャーしたんだっけかなぁ。


そして、会社の連中に連絡して、車で迎えに来させた。

だってよ、甲冑娘が街中歩いてんの見られたら騒ぎになるかもだろ。


で、商館って言っても俺んちだけどさ、応接のソファーでしばらく寝泊まりさせてたんだ。


別の部屋借りる余裕なんて無かったからさ、物置部屋を改造して、あいつの部屋にした。

そこからずいぶん長く一緒に暮らしたよ。


知り合いに日本語の先生を紹介してもらってさ、家庭教師で来てもらったのよ。

若い先生で美也子さんって人。ぴちぴちのいい女だった。

面倒見も良くてな。バネッサも良く懐いてたな。


他の商人や互助会にあいつを預ける気は更々無かった。

俺は当時から商人ギルドの正会員を目指していたからさ。

自分の手であいつを社会復帰させるって決めてたんだ。


あ、お姉さん、ハイボールお替り。……お前はどうする?


美也子先生のおかげで、2か月くらいで最低限の意思疎通が出来るようになった。

ただで飯だけ食わせてられないから採掘をさせようと思ってた。


最低限? 「いけ」「とまれ」「ここ掘れ」「片づけろ」とかだよ。

え、犬じゃないんだから?

ははは、確かに。あん時のあいつは、俺にとっちゃ犬みたいなもんだったかもな。


……まあ、あいつとの「出会い」っていうならこんなもんだよ。

今とは全然違うだろ。だから、お前もあいつレベルの採取師に絶対なれるって。


え、その後の話?……そんなに面白くないぜ。


なんやかんやで、ソロで出しても大丈夫になったのに10年、一人前の採掘者になるのに15年位。で、この地域の広域エースになるのに20年かかったんだ。


エースのあいつを目指すってのは間違っちゃいねえけど。

あいつのやり方は全然参考にならねえよ。

久遠のペースに合わせてたらあっという間におっさんだ。


まあ、頑張れって。素質があるからお前を見込んで契約したんだぜ。


で、次何飲む?俺、ハイボール。頼んでおいてくれ。ちょっとトイレ行ってくる。



悪い悪い、待たせたな。お、ハイボール来てるじゃねえか。


えー、またバネッサの話かよ。……もう飽きたよ。


その後の話?……あまり面白くもねえと思うな。

何か事件はとか言われても、あいつ危険の匂いがするとすぐ逃げるからな。

まあ、そういう風にしろって俺が仕込んだんだけどさ。

だから、大きな事件の話とかは……無えな、多分、忘れた。


お、もうラストオーダーだってよ。最後に何か……そうか。じゃあ、お姉さん。芋焼酎のお湯割りを一つ頼む。


久々にあいつの昔の話をしたぜ。大して参考にもならなかっただろう。

真面目だけどのろまな娘が、長い時間コツコツ努力してきただけって話だもんな。


……お前さ、歳をとらない久遠と30年過ごすってどういう感じか想像できるか?

面白いもんで、あの頃は懐かしかったなーって思い出してる最中に、おんなじ顔の奴が目の前にいるんだぜ。

一瞬頭がバグるんだよな、あいつの間の抜けた顔を眺めているとさ。

なんだか自分があいつと出会った……30歳の頃と同じ気分になるんだよ。


今思うと、あいつと……バネッサと最初に出会った頃が、一番楽しかったのかもな。

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