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第五話

「よかったじゃんか、多少は読者いるらしいよ」


 初投稿から一日が過ぎ去った。合計PVは三桁を越えている。日間ランキングでは十一位だった。


 相変わらず、在音は私をおちょくりに来た。


「いやいやいや、まだまだいけるよ、在音。まだ使ってない話はいくらでもあるんだからさ」


 私は肩を揺らすことなく大股で在音に近寄って、焦げ落ちた在音の頬に触れる。私の触覚は反応してくれなかった癖して。彼女は焼け落ちたというのに、神経が残っているらしい。


「痛い。ねえ、痛いって。やめて。やめて。やめろ」


 必死に声を荒げる在音に背を向けて、首を鏡に映る自分へと向ける。


 つま先まで均一に影を作る黒タイツ。ちょっとだけ肌色が透けるのがまたいい。私に遅れて着いてくるロングスカート。ところどころ糸が解れた紺のカーディガン。樹脂でできたボタン。冷たいLEDを反射して、無駄にツヤを出す。白いワイシャツは結構分厚い割に、内側の線が透けるから嫌い。動くたびに揺れ動く赤リボン。首は苦しい。


「私ってやっぱり在音より綺麗だよね」


 お互い、肩の力は抜いていた。


 ***



「よかったぜえ、梨花ちゃん。ダチも面白いって言ってたしよ」


 奏斗はニヤけてグッドサインを作る。梨花もニヤけてみせる。


「ふふ、ありがと!元はと言えば、奏斗くんのおかげだよ!いっぱいアドバイスしてくれてありがとね!」


 奏斗は鼻の下を伸ばした。


「おう。ウチの部員がちょっとでも有名になってくれて嬉しいよ。なんせ、俺のも宣伝してもら……いやあ、なんでもない」


 梨花は唇をぎゅっと結んだ。



 ***


「あ、梨花姉さん?梨花姉さんだよね?」


 梨花が振り返ると、そこには「光」が立っていた。

 汗ばんだシャツ。日焼けた健康的な肌。そして、梨花を真っ直ぐに見つめる、大きな二重の瞳。

 桃瀬蓮。在音の弟だ。


「れ、蓮くん?久しぶりだね。葬式以来かな?背高くなったね」


 梨花の喉が張り付く。梨花は笑顔を作る。瞳の光沢と、おどおどした態度で、少しぎごちない。


「やっぱり!うわあ、懐かしい」


 蓮の屈託のない笑顔。在音と同じような。梨花には眩しすぎた。在音が太陽なら、彼はシリウスだ。


「あの、読んだよ。『日野江』さんの小説」


 冷や汗が背中を伝う。向かい風が、並木を蕩揺させる。ザラザラザラと。


「え?」


「エックスのおすすめに出てきてね、暇つぶしに読んでみたら、『これ、姉ちゃんのことだ』ってわかって。Rって、梨花姉さんだよね?」


 蓮は梨花の目をじっと見て、深くお辞儀をした。


「ありがとう」


 梨花は息を止める。心音は指数関数的に加速する。


「事故のあと、警察とかニュースとかは、みんな姉ちゃんが可哀想って言ってるだけで。でも、小説の中の姉ちゃんは、すごく楽しそうで、キラキラしてて。僕、読んでて嬉しかった。姉ちゃん、梨花姉さんと一緒にいれて幸せだったんだなって」


 梨花は、胃の奥底から熱を帯びた水銀のような異物がせり上がってくるのを感じとった。


「在音は、私のこと、何か言ってた?」


 梨花の口は勝手に開いていた。木の葉が一枚空から降ってきた。


「姉ちゃん、よく家で姉さんのこと話してたんだ。『梨花ちゃんってすごいんだよ、真面目で几帳面で成績優秀で』『ウチが教室でわーわー騒いでても、静かに聞いてくれてるの』『梨花ちゃんは、ウチの自慢の親友なんだ』って」


 雨が葉っぱを撃ち抜いていく。雨粒が葉の表面で弾けて、コンクリートがだんだん黒ずんでいく。錆びついたマンホールの周りには、漆色の水溜りがにじみ出てきた。


 空は白かった。


 雨音が一つの音にまとまった頃のことだ。


 梨花は空を見上げた。雨が目に入るのは、もはや眼中になかったようだ。


「そっか。そう、だったんだ」




 














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