番外 騙し安い女
ナモナキ村での滞在、そんなこんなでアヤカたちは滅多に味わえない退屈で平和な生活を楽しんでいた。
そんなある日、アヤカが狩りから帰ると村人たちが忙しなくざわめいていた。
村人のひとりを捕まえて問い詰めると、その男はこう言った。
金色の竜が出た、と。
「あん? 黄金竜が出た!? どこに!」
「村の外、お前が昔住んでたあの犬小屋みてーなきったねー家だ」
「誰んちが犬小屋だコラ!」
不敬な青年はとりあえずぶっ飛ばして地面に埋めておく。
うら若い少女の自宅を犬小屋と呼ぶ男には相応しい末路だ。
「ねえねえ、隣のお兄ちゃん地面に埋まってなにやってるの?」
「あれはただの変態だよ、見ちゃダメだからね」
追い討ちに近所の子どもに出鱈目を吹き込むアヤカは生粋の鬼だった。
◇
衝撃波を撒き散らす速度で移動し、昔住んでいた小屋まで来たアヤカだがやはりというべきか、誰もいなかった。
当たり前だ。
黄金竜と言えば古竜種の頂点に立つドラゴンだ。
ミステリアや森林竜でさえもが彼の竜だ。
存在そのものあやふやな古竜がこんな場所にいるはずがない。
ミステリアのようにアヤカの力に引き寄せられたとしても、来るなら普通は村に来る。
「つまり、徒労ってことね~」
肩を落としてガッカリするのだった。 踵を返して走ってきた道をとぼとぼと歩いていく後ろ姿は夕焼けに染まって虚しさを感じさせる。
落胆する背中は怪獣染みた筋力に反比例してとても小さかった。
◇
「アヤカちゃんって単純だね~。 こんな嘘に騙されるなんてさ!」
「でしょ? アホよね。 そんなとこも好きなんだけどさ」
スタローン邸では青銅竜とジルがのんびりお茶をしていた。
なんてことはない。 ガーデニングが趣味のジルと、植林ばかりしていた青銅竜―――またの名を森林竜は気が合う話し相手、魂友になっていた。
新しい親友が出来たこと! この素晴らしき出会いを祝して貴重な砂糖まで奮発してケーキまで焼いたくらいだ。
それも、二人で食べるために。
『アヤカ』という共通の話題も含めて、一人と一匹はものすごく好意的なファーストコンタクトを遂げられたことも大きい。
ジルは古竜どころか、ゴブリンすら恐れるほどの重度のモンスター恐怖症なのだが、森林竜は完全に子どもにしか見えない見た目と性格なので平気だった。
声も愛嬌があってかわいいと評判だ。
「それでさそれでさ! そこで僕は鉄大樹を作ったの! 鉄分や金属の粉を吸って育つ特殊な木なんだ! それはもう、僕にしか作れないからね」
「なにそれ凄い! 私も育ててみたいです!」
「ごめんね、それは無理」
「なぜに!?」
鉄大樹。
森林竜が開発した新種の木であり、土壌に含まれる金属成分を水分や栄養素と共に吸い上げて育つ、特殊な樹木。
ある意味では古竜にも似たもの。
それは森林竜にしか育てられず、尚且つ、地下資源の眠る土地の真上などの厳しい条件が整った土地でしか育てられない木だ。
特に鉱物が眠る炭鉱の土地、もしくは鉄分を豊富に含んだ水でしか育てられない。
いかに金持ちのジルでも、鉄大樹を枯れさせずに育てるのは不可能だ。
「そうか、じゃあ諦めるね」
「なんかごめんね」
「いいの! そんなことよりケーキ食べよっか」
「うん!」
黄金の悪魔に変貌したアヤカが乱入する五秒前の会話は和やかだった。




