55.平和な再開
ジルの家の前。正確には屋敷といった方が正しい表現だが、とにかく、ここがナモナキ村に置ける彼女の本宅だ。
こんな田舎に持ち家を買うスタローン商人はハイマンズ王国1の変わり者だ。
「さーて、どうやってジルを驚かそうかな。 窓とかドアとかぶち破ってエントリーとか? それか、ヴェスタから会うとか? スタローンさんから挨拶でもしとく? 違うな、もっとこう―――」
アヤカがぶつぶつと唸っていると、周囲の探知が疎かになってしまい、今一番見つかりたくない人ランキング不動のトップ、つまり、ジルに見つかった。
「アヤカーーー!!! どこ行ってたのよーー!」
二階の窓から外を眺めていた彼女、ジル・スタローン。
「あ、見つかった。 まいっか。 て、……………えええええええええええ?!?!」
なんと、運動音痴のジルがアヤカを発見した瞬間に閃光の速さで窓から自分を射出したのだ!
運動音痴のジルが!
これにはアヤカさんもビックリ仰天と度肝抜かれたが、運動音痴のジルがこのまま地面と熱いファーストキスをかましたら赤い華が咲くことは彼女の貧相な想像力でも予想できた。
「バカヤロオォォォオオオ!!!!」
絶叫するアヤカ。 慌ててスライディング。
自分が下敷きになることで間一髪、親友の命を拾うことができた。
安産型美人のジルは、スレンダー美人のアヤカよりも体格がふくよかかつ、体重が重い。 よって、下になったアヤカは綺麗な顔をデカい尻と固い地面でプレスされることになる。
後頭部の型が取れそうなへこみがくっきりと地面に浮かぶのだった。
痛………くはない。 このくらいなら怪我すらしないのがアヤカが超人たる由縁なのだから。
「アヤカーー!! 会いたかったよー!!」
「わたしも会いたかったー!」
力一杯親友を抱き締めるジルに加減しながらハグを返す。
本気でやったらジルの内臓と脊椎がおしゃかだから仕方ない。
「「大好き! 大好き! 大好き!」」
一年ぶりの再開、親友同士の再開だ。
年頃の女の子ならテンションが上がっていくのは早い。
「じゃあ続きは中でやろうか」
「そうしよっか」
冷めるのも早い。
旅の土産話もある。のんびりとエルフの緑茶を飲みながら話をしようとなった。
「でさ、でさ、それでわたしはゆきを連れて一緒に逃げたり幽霊と戦ったりって色々あったのよ」
「え、幽霊? それって幽霊系のモンスター!? 嘘でしょ倒したの!?」
「倒したのよ。 雷挺モード無かったら不味かったわー。 あれ拳すり抜けるんだもん」
「うん、あれ光の魔法や奇跡を付与した武器じゃないと倒せないからね。 それ(エンチャント)を素手でやるのはエルフ辞めてるよ」
「いやーそれほどでもー……………あるかなー?」
旅先行く先での戦いと大暴れ大活躍を大いに話し、ジルが目ん玉飛び出るほど驚くのを眺めては、わたしまたなんかやっちゃいました? 状態を楽しむアヤカだった。
◇
村の広場。
「ねえ君って本当にドラゴンなの?」
「そうだよ。 ボクは森林竜とも呼ばれるすごいドラゴンなんだ! ボクは青銅竜なんだよ!」
「ドラゴンには見えないよ? わたしたちとおんなじ顔してるじゃん」
「大勢で遊ぶのって楽しいね! もっとやろうよ!」
子供特有の無限のスタミナで異国の土を走り回るゆき。
幽閉されていたのに運動能力には支障がないどころか、むしろ数ヶ月の旅で鍛えられたのか他の子よりも体力がある。
村の子供たちと共に遊ぶ森林竜は弱冠ナメられていたが、別段気にすることはない。他の竜よりは人間に近い感性と心を持つ彼は、子どもに怒ることはほとんど無い。
彼自身が子どもとかは言っちゃいけないことだ。
広場で他の子供に混ざって捕らえっこ(鬼ごっこ)やらを楽しんでいた。
それを見守るのは人間組のアヤネと信三だ。
「ゆきちゃんも楽しんでるねぇ。 あんたは行かないのかい?」
「行くわけないっスよもう子どもじゃないんスから」
口を尖らせてブー垂れるアヤネ。
あくまで保護者の立場で大人ぶっていたいようだ。
◇
アヤカたちがお茶を楽しんでいた頃合い、アヤカ
「「「「アヤカちゃんが戻ったと聞いて!」」」
村の大人たち、教会の神父やシスターやらが大挙してスタローン邸にハチャメチャに押し寄せていた。
その人間とエルフの津波の中心地帯では皆のアイドルアヤカが揉みくちゃにされていた。
「お帰りなさい、パン食いねぇ!」
「酒飲むかい? 蒸留酒好きだろう」
食べ物やら飲み物やら、色々と出されて歓迎されていた。
ジルの自宅は広いから村人全員とは言わなくとも、半分程度なら入れるほど広い。
「あーわかった。 わかったから! 少しあっち行っててよ! 今は稲刈りの季節でしょ! 仕事に戻りなよ!」
「じゃーまた後でなー」
「今夜は祭りじゃのう」
口々に好きなことを言いながら村人たちは去る。
春先の太陽のように陽気で暖かな嵐の人々だ。
ゴブリンくらいなら簡単に血祭りできるだろう。
「ゴブリンの血祭りで盛り上がる……………………悪くないわね」
「悪いわ!! あんたは辻斬りかなにかか?!」
ゴチンとジルの拳骨が落ちる。 なおダメージを受けるのはジルの模様。
「鉄でもぶん殴ったみたいでしょ♪ わたしは鉄の女だからね!」
「鉄の女の意味が違う………」
鉄人にも程がある…………。 相変わらず、色々とおかしいくらい規格外だ。
そう思うジルだった。
「おい姉ちゃん! アヤ姉帰ってきたんだって!」
またしても扉が爆発の勢いで開かれ、誰かが部屋に踏み込んできた。
今度は誰だ? と玄関に目を向ければ、そこに立つのは見覚えのないエルフの少年。幼さを残した顔立ちと背丈からして、年の頃は人間の十四歳程度の若さに見た。
農作業帰りらしく、彼が着ている作業用の服は土で汚れていた。
「あー、ジル? このイケメン君誰?」
金髪碧眼、整った顔立ち。 エルフには珍しくもない特徴の少年だがこの少年はアヤカを知っている。アヤカはこの少年を全く知らない。
「これヴェスタよ。 うちの弟」
「えぇ!? あのちんちくりんのクソガキがこれ?!」
放蕩娘が酷い言い様だ。人のこと言えない癖に。
「アヤ姉! なんで俺のこと覚えてねーんだよ!」
「だってあんた、一年前と全然違うじゃない」
「確かにね、あははははっ!」
余談だか、エルフは成長期は人間と同じ速度で育つ。
個人差はあるが、ヴェスタの歳なら一年も会わなければ見分けもつかない程変化していても不思議なことはない。
男子三日会わずば刮目して見よとは、誰が言ったか。
「だってー、前まではわたしの胸くらいのチビだったじゃーん」
「胸置きにできるちょうどいい高さだったよねー」
さらっと逆セクハラの事例が発生。 でも異世界だから許される。
「許されるか!!」
「あいつ、どこに向けて喋ってるの?」
「さぁ? アホだからね」
虚空に向けて怒鳴るヴェスタに呆れる姉と姉貴分。
ナモナキ村は今日も騒がしくて平和な日が続くのだった。




