54.ナモナキ帰還
食事後に港町からはすぐに出発…………する予定だった。
「この状況なんなの? 説明しなさいミステリア」
「妾に言われても困る」
「僕らまたなんかやった?」
アヤカ、ミステリア、青銅竜はテーブルの料理を平らげたのはいいが、困り果てた様子で天を煽いだ。
人間三人は丸型テーブルに顔からダイブしたり、座っていたイスから転げ落ちたり、信じがたいことにブリッジの姿勢と三者三様の寝相で寝ている。
最後のやつは完全に特殊な訓練を受けてるパターンだ。
「あんたら、この町のもんじゃねえな。 贄にちょうどええ」
「海神様の贄にしちまおう」
「今年も海が時化らねえようにな」
「あんま暴れんなよ、きれいな肌の女を捧げると喜ぶんだ」
この町の人間。肌の焼け方と痛みから潮風のスキンダメージと長時間の直射日光を日常的に受けている。
シャツから覗く腕は太く、身体もドワーフのように太い。
漁師だ。
手にしている銛や包丁、マスケット拳銃をアヤカたちに向けている。
「あなたそんな拳銃どこで買ったの? 玩具屋さん?」
「そんなこたぁどうでぇもいい。 贄はあんただけだ」
!?!?!?
襲われるのは慣れてるアヤカでもこれには衝撃を受けてフリーズしてしまった。
まさかこんなに仲間がいて、害されるのは自分だけとは普通は思わない。
「贄として求めるのは一人だけか。 良心的な神もいたもんじゃ」
「あんたは年増だし、そこのはガキだ。それに、そこのブスはいらんからな」
余談だが、ミステリアは創造神がこの世界の天地を分かち、石と砂と氷しかないこの星に命を育む前から生きていた超古代生物だ。
半分は鉱石や金属と同化した生物の古竜はこの程度のショボい挑発文句、〝年増〟程度じゃ彼女の心は揺るがない。
年長者の貫禄と器で受け流せる。
アヤネも目の下の傷跡から顔の良し悪しでアレコレ言われるのは慣れてる。
彼女の尊厳のために言っておくと、傷跡を含めても充分に美人だ。但し、黙らなきゃモテないタイプの残念な美人だ。
「ふん、安い貶し文句じゃな。これだから学の無いものは芸がないのじゃ」
「うわ、生臭い」
「おええええええ!! ゲロはきそうなほど臭えええ」
ミステリアが村民の男に詰め寄ると、潮の匂いに慣れてるはずの男たちでさえミステリアから漂う血液と潮の匂いに過剰なリアクションでのたうちだした。
これが演技なら彼らは旅芸人として食っていけるほど良いリアクションぶりだった。
アヤカたち人外組、そしてアヤネら人間組も気付いていなかった。
自分たちの体臭が血も塩の匂いがすることに。
特にミステリアは何ヵ月も海の上を飛び、時々海の中で漁をしていたせいで特に生臭かった。
ドラゴンから人間の姿になると、匂いが圧縮されるせいで余計に漂う。突然チンピラに刃物を突きつけられた挙げ句、臭いと言われて怒らない、もしくは気分を害されない人物がこの世に何人いるだろうか。
「……………………………………あァ?!?!?(殺意)」
「やっば、逃げよ」
状況を察したアヤカがゆきとアヤネを抱えて瞬間移動もかくやという超スピードで逃げた次の瞬間、村を白い炎が包みこむ。
その時、アヤネが感じたものは一瞬の静寂と鼓膜を破るほどの爆音、そして村を見下ろす山の上からでも肌を焼きそうな炎の熱だった。
ちょっと気分を悪くしただけで、村一つを焼いて叩いて丸ごと潰す。
何ヵ月も共に暮らしてきたせいで少し感覚が麻痺してきたが、竜本来の天災としての側面を改めて思いしった。
「これからは………ミステリアさんも怒らせないのがいいっスね」
アヤネの声は震えていた。
「ミステリアもなかなかやるわね。 私ならもっと速いけどね!」
なぜか対抗するアヤカ。
「ここまでするかなー?」
能天気な森林竜。
「すっごーい花火だー!」
キャッキャッと無邪気なゆき。
信三?アヤカの尻の下で伸びています。彼はアヤカの椅子なのです。
「じゃ、あいつ連れてきて帰るか」
生け贄も海神も知ったことかとアヤカは言う。だってキョーミ無いし。
※因みに海神はこの爆発の巻き添えでひっそりと死んでいました。
◇
ナモナキ村へはすぐに到着した。
アヤカは口に両手を当てて叫ぶ。
「ただいまー! 誰か居ますかー!?」
ジルの家や自分の暮らした教会の場所は覚えているが、この村自体が彼女のホーム。
とりあえず村に来ればこうするのがアヤカの習慣だ。
「「「「おかえりーーーーー!!!!」」」」
帰って来たのはたくさんの子どもたちの返事。
原っぱで鬼ごっこに興じていたチビたちがアヤカの周りに群がる。
「アヤカお帰りー!」
「アヤカおねーちゃん遊ぼうぜー!」
「旅はどうだった? 楽しかった!!」
「話聞かせてよ! その人たち誰?」
群がる子どもたちには人間とエルフが混じっていて、これまで見たこともない笑顔と優しい態度で接しているアヤカを見て、仲間たちは意外そうにする。
「姉御があんなに優しいとこあるなんて知らなかったっス。どうしてボクには優しくしてくんないっスか」
「オレも知らんよ。 転生者ってのはどいつもロクデナシばかりだったからな。 そういう連中をぶっ殺すのがうちの組織の仕事柄なのによ」
「妾は見たことがあるぞ。 アヤカ殿はこの村では天真爛漫な村むす………………おいお主今大事なこと言わなかったか?」
「ゆきにはいつもやさしいよ!」
「ゆきちゃんにはいつも優しかったよね。僕にはあんまりだけれど!」
ひっそりと話しているつもりだが、地獄耳のアヤカには全部聞こえてる。
長い耳を怒りでピクピクしながらも、アヤカは華麗に受け流す。
長い間村を守り、外の世界を旅してきた子どもたちのヒーローはこんなことでは怒らないのだ。
子どもたちの姿が見えなくなったら虐殺パーティー開始だが。
「それで皆、ジルはいる? ヴェスタは?」
「あそこにいるよー」
男の子が指差した先にはスタローン一家が村の滞在で使う家があった。
ちゃんとこの村にいるらしい。あの家族は都と村を行ったり来たりするので、時々村からいないことがあるからいるかどうか心配だった。
一年ぶりの帰還だ。ドラマチックに演出しなければ。
どんないたずらをしようか考えながら、アヤカは親友との再開に心を踊らせた。




