39 青銅竜が仲間に入りたそうに見ています
突然のプロポーズにアヤカは愚か、ミステリアの思考すら停止する。
「(え? なに? なにを言い出したのこの青緑は。 わたしの婿に来たい? え、わたしに求婚したってこと? 意味わかんない。 どうして今日会ったばかりのわたしにこんなこと言うの?)」
絶賛混乱中のアヤカ。 思考がグルグルと回り、ついでに目もグルグルさせて頭がパーになる。
前世含めて百六十七年間の人生。中身は人間基準なら大往生寸前のお祖母ちゃんだったが、エルフ基準ではまだまだ若者だ。精神的にも肉体的にも。
アヤカはこれまでの人生で人を好きになることも、告白されることも、誰かと付き合うこともなかった。
強い者なら割りと好きだが、愛という感情には至らなかった。
そしてアヤカは人生……もとい、エルフ生で初の告白を受けたその脳内は、経験がない故のピンク色の妄想で埋め尽くされていた。
目の前には少し不安そうな青銅竜の純粋な眼差し。
ミステリアが爆発寸前の核爆弾と同じ部屋に閉じ込められた人間のように恐怖する。
アヤカが理性を失い、混乱のままに暴れたらこの森にいる者全員命は無いからだ。
「ア、アヤカ殿? 落ち着け? 落ち着けよ!? 振りじゃないぞ? 本当に落ち着くのだぞ?」
頬を伝う冷や汗ををぬぐいながらミステリアはアヤカを落ち着かせようと必死になる。
青銅竜は何処吹く風と言わんばかりの余裕っぷりだ。
その余裕と反比例するかの如く、ミステリアの内心とアヤカの心だけが恐怖と混乱に陥る。
「ああああああああああ!!!!!」
混乱がピークに達したアヤカは顔を真っ赤にさせて音速で走り去っていった。
衝撃波と砂ぼこり、めくれた地盤の一部が舞い散るが、残された二匹は自分にかかったそれに見向きもしない。
『クヒヒ、上手くいった!』
イタズラ小僧のような悪い顔で笑う青銅竜。
もはや悪人面を通り越して死刑囚のようになってる。
アヤカは去った。一先ずの危機も去った。
「青銅竜、なぜあのようなことを言ったのじゃ?」
心の余裕を取り戻したミステリアは青銅竜になぜ求愛行動を言ったのか訊ねる。
こいつこんなこと言うような者だったか? と疑問符が浮かぶが、取りあえずは動機を聞いてみた。
ミステリアは数千年も森に引きこもっている内に青銅竜の精神が崩壊して錯乱しているとにらんでいた。そうでなければアヤカにプローポーズするなど、どう考えてもおかしいからだ。
本人たちが聞けばマジギレ不可避の失礼な考えだが、割りと真剣にそう思っていたりする。
だがしかし、返ってきた言葉は予想外の事だった。
『今代のレイナから念話が送られてきたんだよ! アヤカちゃんは男慣れしてる様子がないから、こうやって愛の告白をすれば撃退できるって!』
「なら、なぜアヤカ殿との出会い頭にやらなかったのだ?」
『だって………今届いたんだもん』
「………そうか」
念話は距離が有りすぎると届くまでに数日かかってしまうのだ!残念だったな青銅竜よ!
二匹は今代レイナが良い笑顔でサムズアップする顔を雲に幻視したという。
◇
「アアアアアアアアア!!! ………あれ?」
一方、数時間全力疾走してようやく落ち着いたアヤカは、自分が見知らぬ場所にいることにようやく気がついた。
まあ、日の国には初めて来たのだから当然なのだが。
十七才で迷子は笑い話にもならない。………笑い者にはされるが。
とにかく、一旦もと来た道を戻ろうと思って地図を開くが、ここで問題が起きた。
「あ、道わかんね」
アヤカは地図が読めないドアホだった。
誰かに道を聞こうかとも考えたが、日の国に置いてはエルフのような亜人種は迫害されているので、話を聞いてもらうこともできないだろう。下手すればその場で奴隷にされるかも。
「(ま、そんなことされたら、わたし、キレるけどね)」
できるかどうかは別だったが。
帰り道が分からずに途方に暮れるアヤカだったが、それも数秒程度。
とりま、この状況を楽しむことにしたアヤカは、とりあえず観光でもするか、と歩きだした。
目的地なんてもの、特にない。気の向くままに進むだけだ。
「よーし! この国の美味いもの食べまくって、強いやつぶん殴るぞー!」
予期せぬトラブル(大半がアヤカの暴走)で仲間とはぐれてしまったが、それはそれでアヤカとしては中々に楽しいことになった。
超危険人物による、ぶらり一人旅(という名の蹂躙劇)の始まりだ。




